コーチングでより良い未来を選ぶための行動を後押しする。~正解のない問題の解き方(2)~
何かを選択するのに、あれこれと考えてしまうことはないだろうか。
「このままでいいのか」
「どうすればいいんだろう」
「もっといい方法がある気がする」
どう決めればいいかわからなかったり、
選択に自信を持てなかったり、
他の選択肢が魅力的に見えたり。
しかし、どこかで決めなければ前には進めない。
わかっていても、どうしても決めきれない。
選んだ先の未来がちらついて、こわくなってしまう……。
そんな「選ぶ」ことを後押しする手法のひとつに、コーチングがある。
コーチングでは、ひとつの課題に対してクライアントとコーチが対話を通して思考を深め、解決策を探っていく。
コンサルタントと違うのは、解決策はコーチからの提案ではなく、クライアント本人が決めるというところ。
コーチは「どうすればいいのかわからない」状態のクライアントと向き合い、選択ができるようにサポートをするのが役目だ。
そんなコーチのひとりが、こばかなさん。
彼女は学生からアーティスト、経営者まで様々なクライアントに向き合ってきた。選択するためには、どのようなことが必要なのだろうか。話を伺ってきた。
■Profile
こばかな
THE GUILD所属。デザイナー。経営者、アーティスト、学生などに向けてコーチングを行っている。個人コーチングの他に、グループコーチングも手掛ける。
1.悩んでしまうのは、答えを選べないから。
―コーチングを受けたいと思う人は、何か変えたいことや解決したいことがあると思うのですが、どのような状況の方が多いのでしょうか?
何かしらのもやもやを抱えていて、「このままでいいのかな」と思っている人がコーチングを受けに来ます。でもはっきり嫌なことがあるとかではなく、漠然とした不安を抱えている状態なんですよね。何かを探しているような感じ。
自分の中でぼんやりと答えがあるのに気づいていない人が多いです。コーチングを受けることで、自分の中の答えに気づくみたいで、「やっぱりそうなんですね」という反応をされます。
―どうして自分で持っている答えに気づけないのでしょうか。
自分が持っている答えが正しいか分からないので、信じることができないんです。答えを選んだときのイメージが持てていないのだと思います。
例えば、あるデザイナーが今の仕事を変えたいと思ったとします。その背景には「エンジニアの仕事が楽しそう」とか「エンジニアの勉強がしたい」という思いがあります。でも本人は、仕事を変えたい理由がエンジニアになりたいからとは考えていないのです。現状とかけ離れた職種なので、まさかそれが答えになるとは思えないんでしょうね。エンジニアになったときのイメージを明確に持っていないので、素直になりたいと思えないんです。
―答えを自分で信じられないんですね。イメージ不足はどのようにしたら補えるのでしょうか。
「答えを選択したときの状態」や「答えを選択するために必要なプロセス」を明確にします。
先ほどのエンジニアの例であれば、「環境の変化にどのように対応するか」「エンジニアになるために必要なスキル」などを考えていきます。大枠の「エンジニアになる」という答えの中で、イメージが欠落しているところを質問することで埋めていくような感じです。
イメージが具体化すれば、その答えを選ぶことに納得できる状態がつくれます。自分の選択に納得できれば、答えを実現するための行動にも繋げていくことができるはずです。
―ゴールとプロセスを明確にして、選べる状況をつくる。
そうです。「もやもやする」という悩みの元凶は選べないことにあります。イメージを明確にしてエンジニアになるかどうかの意思決定ができればもやもやというのはなくなると思います。
2.自分ひとりで決めるのは、難しい。
ー答えを見つけられないことに、他に考えられる理由はありますか。
そもそも、自分だけで解決方法までたどり着くのは難しいと思います。
まずは集中して考えられないから。一人で考えると目的を決めていなかったり、ふとした瞬間に考えて次の瞬間にやめたりしてしまうんですよね。そのため、結果的に考える時間がとても短くなってしまう。だから、決断できるくらい深く考えられていないんです。
そして、選択するのがこわいから。何か行動を起こすにはリスクが伴います。さらに、選択しても失敗してしまう可能性もあります。上手くいかなかったときのことを想像して、躊躇してしまうんでしょうね。
ー確かに一人で目的を持って考えるのは難しい気がします……。
その点、コーチングは集中するための環境を整えられています。何について話すかゴールを設定する、時間制限を設けるなどのある程度の強制力があるからです。考えている途中で意識が逸れたりせずに、一気に思考を深めることができると思います。
―コーチと決めたルールやゴールがあることで集中できるんですね。では、「こわい」という感情を取り除くためにはどうすればよいでしょうか。
まずは、否定しないことです。私のコーチングでも、どんな意見も前向きにリアクションするようにしています。
今の状態からは厳しそうな夢であっても、「いいじゃないですか」というと「やっぱりそうですよね」と反応が返ってくるんです。きっと、他の人に意見を認められると、自分の気持ちに素直になれるのだと思います。
だから、たとえ英語が不得意と言っている人が「ハーバードに行きたい」と言ったとしても、「いいですね」と肯定するんです。
そして、できない理由ではなくできる理由を探すこと。人は不安が少しでもあるとできない理由をどんどん考えてしまいます。そこで、「無理だ」と思考停止してしまうんですよね。
だからできる前提の質問をしています。「どうすればできるようになりますか」という投げかけをすると、少し先のことを考えるきっかけになります。そこから、現実的にできる方法が出てきたりするんです。
3.クライアントが考え、コーチが整理する。
―実際のコーチングでどのように選択を後押ししているかを伺いたいと思います。課題設定について、「コーチングで持ってくるテーマが表面的な事象であることが多い」と言っていたのが気になりました。
ほぼこのケースになります。表面的な事象に対して解決策を考えても、的外れになる可能性があります。だから、このままコーチングをしても効果があまり見込めないんですよね。
なので、表面的な事象をテーマとして持ってきていたら、課題の真因を細分化することから始めています。細分化して解決するインパクトが大きそうな真因を見つけてから、解決策を選択するという流れが多いです。
―どうして表面的な事象をテーマにしてしまうのでしょうか?
現象に目を向けがちであるんでしょうね。例えば、わかりやすいのは「朝起きれない」がテーマだった場合。朝起きれないのはきっと理由がいろいろありますよね。実はいつも夜遅くまで飲んでいる、とか。でも実害があるのは「朝起きれないこと」なので、原因となる「夜遅くまで飲んでいること」が課題だと思っていないんです。本来なら原因となる「夜遅くまで飲んでいること」に対して解決策を考えるべきなのですが、実害のある「朝起きれない」をテーマとして持ってきてしまうんですよね。よく考えないと、どこを解決すべきなのか分からなくなってしまうんだと思います。
―こばかなさんのコーチングではふせんをよく使ってますよね。これも解決すべき問題を分かりやすくするために可視化しているんでしょうか。
自分が言ったことをテキスト化されると客観視しやすいからですね。例えば、私のコーチングでは「他には?」という質問をよくします。その結果、答えが15個くらい出たりするんです。質問を繰り返した後はそのうちの一つについて考えてもらいます。そうなると、ふせんで可視化された方が選びやすいですよね。
―選ぶための工夫をふせんでもしているんですね!話したことを思い出す時間の短縮にもなりそうです。
そうですね。クライアントは「その場面で答える」ということに集中してもらうようにしているんです。選択するために考えることだけに注目できるようにするためです。だからコーチである私が、話の全体像の設計や何をしたら答えに辿り着くかという予想をしたりするんです。
―コーチングにおいてクライアントの役割が「考える」だとすると、コーチの役割は何になるのでしょうか?
「整理すること」ですね。出てきた発言の因果関係をまとめています。
例えば、「お腹が空いたんですよね。ああ、りんごたべたいな~」って言っている人がいたとします。そしたら、「あなたはお腹が空いているから、りんごがたべたいんですね」と二つの文章を整理して投げ返してあげるんです。すると相手から「そうなんですよ」って反応されるんです。さっき自分で言ってたじゃん、って感じですけど(笑)
自分の発言の因果関係を、まとめて見せられると気づきがあるみたいですね。なので、議論の合間に発言を整理して見せるようにしています。
―コーチングでこばかなさんが、大切にしているのはどんなことですか?
クライアントの想いを大事にすることです。「自分の意見を言わない」とか「誘導しない」とかそういうところです。解決方法を選択するためのサポートはしますが、最終的な意思決定は必ずクライアントにしてもらいます。
ただ、クライアントの意志を固めたり選択肢を広げたりするための提案はします。例えば「海外旅行行きたい」という課題のとき。「どこに行きたいんですか」という質問に対してハワイという答えが出た後、他の案が思いつかずにずっと悩んでいたら、「アメリカとかどうですか?」みたいな感じで選択肢を広げてあげたりします。
あとは、クライアントが話したくないことを議題にしないように気を付けています。話し合う内容も、クライアントが正解だと思ったことが正解だからです。だから、定期的に「この後は何について話したいですか」と聞いて、クライアントがこの議論をどうしたいと感じているかと把握するようにしています。
話し合う内容も最終的な選択も、クライアントが思う正解を一緒に探すようにしています。
5.行動のレベルを上げて、いつもの選択をより良いものへ変えていく。
―自分にとって最適な選択肢を選べるようになるためには、どうすればよいのでしょうか。
人は常に選択に迫られています。でも、日々の選択肢をなんとなく選んでいると思うんです。「いつもと同じ」とか「普通」を選択して、そこそこの未来を獲得していると言えます。でも、真剣に考えたらより適切な選択肢が出てきそうですよね。そういった場面で「そこそこ」で妥協するのではなく「もっと良い選択がないだろうか」と考えるのは大切だと思います。
そのために、コーチングは役に立つと思っています。
コーチングでは基本的には行動が変わることを目的にしています。そのため、普段なら「そこそこ」を選んでしまうところで「より良い」を選べるよう、行動パターンのレベルを上げるためのサポートをしています。コーチングは、より良い未来を選択するための行動を後押ししていると言えますね。
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こばかなさんは、大きな意志決定をする際にコーチングの効果が最も出やすいという。その選択が人生に与える影響が大きいからだ。
大きな決断ほど、人は判断に慎重になるもの。
誰だって人生の大切な局面では、最適な選択肢を選びたいと思うだろう。
コーチと共に考えると、自分だけでは見えない視界を広げることができる。浅くしか考えられていなかったことを、深く考える機会にもなる。
コーチングは、選択の可能性を広げるという強みがある。
強みを活かして今まで「そこそこ」だった可能性を最大限まで広げ続けていければ、いつか自分にとって最適な選択肢を選べるようになるだろう。
文:ありぺい
イラスト:マミコ
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