【最終報告書】地域の民話に着目した表現活動・創作活動を行うと、どのような教育観の変化が生まれ、どのような働き方・生き方に繋がるのか?
今回の記事は、新しい働き方LABの研究員として実験をしている最終報告書となります。
新しい働き方LABについてご興味のある方はこちらのホームページをご覧ください。
また、前回書いた中間報告書はこちらになります。
こちらをもとに半年間の実験について振り返るとともに、最終報告書の評価項目に沿って自分なりに評価・反省をしていこうと思います。
半年間の実験の振り返り
【半年間の実験①】「切貼民話師」というオリジナルの肩書きを名乗ることでどうなったのか?
この実験の第一フェーズで行ったことは「切貼民話」の周知でした。
具体的には、ワークショップ時を中心に、これまで全く使いこなせていなかったInstagramのストーリーズ機能を使った発信に挑戦しました。
しかし、思えばSNSでの発信以上に意識していたのは「切貼民話師ゆーだいです」と名乗ることだったように思います。
自分で創った肩書きを名乗ることで、何のために・どのような思いでこの活動をしているのかを、気持ちを込めて伝えることができたように思います。そしてその結果、いろいろな方に「切貼民話」という造語や私自身のことを覚えていただくことができました。
このことが、実際の活動の広がりにも繋がりました。半年間の実験を通して生まれた活動の成果は次の通りです。
5月に妖怪研究をされている先生に連絡を取らせていただき、一緒にワークショップを企画・開催していただけることとなった。
ワークショップの告知のため、FM FUJIで放送中の「妖怪TALK」というラジオ番組(7月13日(土)の回)に出演させていただいた。
埼玉県坂戸市を舞台に、7月から9月にかけて全3回のワークショップを開催。地域の方や子どもたちも参加してくださり、まち歩きをして撮影した素材を使った「コラー獣」(コラージュから生まれる創作幻獣)を表現していただいた。
8月10日(土)~11日(日)にかけて、岩手県金ケ崎町の「金ケ崎芸術大学校」にて、まち歩き~コラー獣創りワークショップを行わせていただいた。
9月7日(土)には、神奈川県横浜市で開催された「造形教育をもりあげる会」の大会にて、埼玉県坂戸市でのワークショップ実践を中心とした報告をさせていただいた。
10月19日(土)~12月8日(日)の期間で岩手県金ケ崎町を舞台に開催されている「城内農民芸術祭2024」に作品を出展させていただいた。また、12月8日(日)の最終日にはコラー獣創りワークショップを開催予定。
今のところ仕事には繋がっていないが、「切貼民話」に興味を持ってくださった方から連絡をいただき、フリースクールで子どもたちが地域の文化に興味を持つきっかけとして実践できないか打診があった。
また、あたラボコミュニティー内では、皆様にたくさんたくさん支えていただきながら
あたラボ夏祭りにて、コラー獣制作のために撮影した不思議な形の物体の写真について想像・妄想を膨らませる「ぶったいわ」という企画を行わせていただいた。
魔法部文化祭にてコラー獣作品を出展、メタバース空間に展示していただいた。
という2つの活動に挑戦することができました。
どちらの活動も、デジタルツール素人の私では絶対にできませんでした。本当に本当にありがとうございます!あたラボメンバーの皆様、大好きです!!
【半年間の実験②】ワークショップの成果
半年間の実験期間中、埼玉県坂戸市と岩手県金ケ崎町にて切貼民話のワークショップを開催させていただきました。ワークショップの様子は下記のnoteをご覧ください。
私自身が「とりわけ小学生を取り巻く学びや育ちの環境を、遊びや探究を基盤にした想像的・創造的なものに変革したい」という思いを抱いているため、どちらのワークショップにも小学生たちが参加してくださったことが大きな成果だと感じています。
特に埼玉県坂戸市で行ったワークショップでは、遠方に住んでいるにもかかわらず全3回を通してお父様と一緒に参加し続けてくれた妖怪博士の小学2年生や、地元に住んでいるからこそ知っている情報や新しいアイディアを積極的に共有し盛り上げてくれた坂戸在住の小学5年生が参加してくれました。
中間報告書の作成時に感じた課題は、ワークショップの効果の評価・測定方法でした。
そこで、坂戸市のワークショップ後に、参加してくれた小学生2名の保護者の方を対象としたアンケートを行いました。保護者の方を対象に行った理由としては、より客観的・具体的にお子さんの変容が見えてくると考えたため。
アンケートの質問項目と回答は次のようになりました。
アンケートにご協力いただき、回答の掲載も快諾してくださった2組の保護者の方々に心より感謝申し上げます。
アンケートの回答からは、本当にありがたいことに2名の小学生たちにとって切貼民話ワークショップが楽しい体験となり、保護者の方々にワークショップの出来事をたくさん話してくれていた様子が見えてきます。
また、多角的な視点から1つの物を捉えることで気付きが生まれたことや、見慣れた道で新たな発見が生まれるきっかけとなったという回答が得られました。物事の捉え方の変化を楽しむことはワークショップの大きなねらいだったため、このような回答をいただけたことが嬉しいです。
そして何より、学年も住んでいる地域も異なる2名の小学生がワークショップを通して関係性を深めていく様子が回答からも伝わってきたことに感動。2人が「また会いたい!」と約束し合っていたことを知り、改めて「ワークショップを開催して良かった!」と思えました。
評価・測定方法のさらなるアプローチとして、坂戸市の事例を中心に、ワークショップの企画・運営や切貼民話実践の展開でお世話になっている先生との共著論文を執筆させていただくことになりました。初稿は既に書き終えています。今後は加筆修正を経て、最終的には大学の紀要論文という形になる予定です。
このように、アンケート作成と論文執筆という2つのアプローチから、ワークショップの評価・測定という課題を越えようと試みました。
まだまだ事例が少ないため、今後実践を積み重ねるとともにブラッシュアップしていきます。
【半年間の実験③】展示方法の模索・ワークショップの場所の開拓
活動開始時の研究計画書を振り返ると、実験期間の最終段階には、切貼民話のワークショップの定期開催や私自身がある程度切貼民話師としての活動に軸足を置いた生き方ができている予定でした。
しかし、ここまでの目標実験を半年間で行うことはハードルが高いと感じたため、中間報告書作成時に目標を修正。「鑑賞者が参加できるような展示方法の模索」と「坂戸・金ケ崎に続くワークショップの場所の開拓」という、より現実的で妥当なステップを踏むことにしました。
まずは鑑賞者が参加できるような展示方法の模索について。
現在岩手県金ケ崎町で開催中の「城内農民芸術祭」では、町内の各所にコラー獣作品を展示する(妖怪のように偶然出会す楽しみを味わっていただけたらと、展示場所はシークレットにしています)とともに、ワークシートを作成。
未確認生物の第一発見者のような感覚を味わえたらと、添付画像のような形で作品を見た方が命名できる仕組みを作成し、どのような結果が得られるのか実験しているところです。
なかなか現地を訪れるのが難しいため現状どのくらいの方が命名してくださっているのかは不明です。しかし、肌感覚としては達成感よりも課題感のほうが大きく、もっとアプローチを磨く必要があると思っています。
この実験期間内で他のアーティストさんの様々な作品に触れ、私自身が民俗学的な視点やアプローチを含む作品に惹かれることに気付きました。
今後は作品だけを飾るのではなく、既存の民話の資料や周辺の写真なども併せて展示することで、より鑑賞者に作品のコンセプトやメッセージが伝わり作品の世界に入り込むことができる展示方法を目指したいと考えています。
続いて坂戸・金ケ崎に続くワークショップの場所の開拓について。
現状、まだ新たなフィールドを開拓することができていません。
しかし、指定企画で掛川学びの場100景を作成する過程で掛川市の民話に詳しくなったため、いつか掛川を舞台にコラー獣創りワークショップができたらと思っています。
半年間の総括
ここからは、最終報告書の評価項目に沿って自分なりの評価・反省をしていきたいと思います。
自分にとって新しい働き方か
これは間違いなく「Yes!」です。
この半年間、「切貼民話師」という肩書きを名乗ったからこそ新たな繋がりが生まれ、ワークショップや論文作成などの活動を実践することができました。
さらに、このような活動の展開に伴って私自身も各地の民話やその近接領域の分野、コラージュという手法、展示方法などについて考えることができました。
社会にとって新しい働き方か
生計を立てるという意味での働き方には現状繋がっていません。また、「切貼民話師」は誰もでも通ずる一般的・普遍的な働き方・生き方ではなく、あくまで民話や伝説、コラージュ表現や探究的な学びに関心がある私にとっての軸となる肩書きです。
しかし、
自分で肩書きを考えて創り、名乗ってみる
そこから、その肩書きに見合った働き方や生き方をイメージする
描いたビジョンを実現するために実験を行う
という3ステップを実践することは、既存の場で決められた流れ通りの仕事を行い、その対価として賃金を得るという従来の働き方のイメージとは違った、社会にとって新たな働き方・生き方へと繋がるように思います。
あくまで私の実験結果ではありますが、自分で肩書きを考えることは、それまでの働き方や生き方に対する見直すきっかけになります。
また、自分の好きなこと・得意なこと・興味関心があることから出発した肩書きを創り、語ることで、何のためにその活動を行うのかという目的意識の明確化に繋がります。
さらに、こうして生まれた独自の肩書きを名乗って実際にアクションを起こすことで新たな出会いや繋がりが生まれ、それが新たな自信へと繋がっていきます。
現時点ではまだ公にできませんが、私自身、半年間では実現できなかった「ワークショップの定期開催」と「切貼民話師としての活動に基軸を置いた生き方」の実現を目指すべく、自分なりの選択・決断を最近行ったところです。
現時点ではまだこの3ステップの実践は仮説段階ですが、今後の活動の中で実証を重ね、いずれ確信へと変えていきたいです。
検証結果を客観的に評価できるか
実験開始時に立てた目標は「地域の民話に着目した表現活動・創作活動を行うと、どのような教育観の変化が生まれ、どのような働き方・生き方に繋がるのか?」です。
その結果を客観的に評価できるよう、「【半年間の実験②】ワークショップの成果」の部分で示したようにアンケート結果と論文(未完成ですが)という形でまとめました。
しかし、ワークショップの事例がまだ少ないことと、「どのような働き方・生き方に繋がるか」という私自身の変化を客観的に評価できる指標が十分でないことが課題です。
「【半年間の実験①】「切貼民話師」というオリジナルの肩書きを名乗ることでどうなったのか?」で私自身の半年間の活動や変化を列挙しましたが、より視覚的にインパクトのある形で変化がイメージできるようなアプローチを今後模索したいです。
実験前後の変化が見えるか
実験前後の変化は「【半年間の実験①】「切貼民話師」というオリジナルの肩書きを名乗ることでどうなったか?」に記した活動の成果や「【半年間の実験②】ワークショップの成果」のアンケートの通りです。
研究員制度期間の中で「切貼民話師」として実験する中で、私自身大きく大きく飛躍・成長することができました。
実験前後の変化を象徴する具体的な事例として、全3回のワークショップに参加してくれた小学2年生の男の子からの手紙を紹介します。
手紙をくれた彼は妖怪博士。様々な妖怪について知っている他、妖怪関連の展示やイベントなどにも積極的に参加しています。
一方の私は、妖怪については全くの素人。HSP傾向があるためか、幼少期の頃から妖怪に対して漠然と苦手意識を抱いていました。
しかし、切貼民話師としての活動を始めてから「何これ!日本にもこんな面白い文化があったんだ!!」と妖怪や幻獣文化に興味を持つようになり、約1年が経ったところです。
そんな妖怪博士から、妖怪素人の私に「新しい妖怪のたのしみかたもわかりました」という言葉をいただけたことは、何にも変え難い成果です。
勇気を出してあたラボ研究員制度に応募したこと、切貼民話の活動を応援してくださる先生と出会えたこと、出会いを通してワークショップや作品の展示ができたこと、そして子どもたちやたくさんの方々と繋がり笑顔になれたこと―。
この手紙には、半年間私が積み重ねてきたことや、それに伴って生まれた変化がギュッと詰まっています。
私の実験はこれからも続きます。「かならずまたワークショップをひらいてください」という彼の思いを胸に、引き続き「切貼民話師」として活動していきます。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします!