つながり、話すこと ―筋ジス病棟から始める脱施設に寄せて
思いや意思を言える環境?
辛いこと、我慢していることがたくさんあるのに、安心して話せる場がなかったら、みなさんならどうなっていくでしょうか?自分の意思や思いを周りの人が聞かない、閉鎖的な環境にずっといたら、どうなっていくでしょうか?
そんな状況でずっと長年暮らさなければならなかったとしたら、私なら、辛いとかこうしたいという希望とかを、だんだん伝えなくなっていくと思います。少し言ってみたところで現状は変わらず、あきらめることが積み重なり、それが普通になっていくと思うからです。もしくは、心も身体も重くて、日々を終えるだけで気力を使い果たしているかもしれないと思います。
筋ジス病棟に関わり始めて約2年。そんな閉鎖的な環境で、長期入所・入院生活をされている方がたくさんおられることが分かってきました。
筋ジス病棟に通ってみて
私の所属している日本自立生活センター(JCIL)では、地元にある筋ジス病棟(京都市内の宇多野病院)へ、2017年末から数人で通い始めました。月一回以上、多い時は毎週のように通い、地域移行支援や外出支援などをしています。
通い始めてまずびっくりしたのは、ナースステーションのナースコールがずっと鳴り続けていること、車いすに乗っている人はとても少なく、多くの患者さんはベッド上で生活をしていることでした。詳しくお話を聞いてみると、ナースコールを押しても、人手不足により長時間待たされることもあることや、たくさんの患者さんが車いす移乗を制限されていることが分かりました。
筋ジス病棟とは
ところで筋ジス病棟で入院生活されている人は、どれくらいおられると思いますか?その数、全国に約2千人です。私の病気も進行性の筋疾患の1つなので、筋ジス病棟の存在は前から知っていました。しかし、24時間呼吸器を付けた筋ジスやALSの人も地域で生きられるようになった今も、こんなに多くの方々が筋ジス病棟で暮らし、自由に外出・外泊もできず、そのほとんどが死亡退院、つまり病院で一生を終えられているとは思ってもみませんでした。
プロジェクトでアンケート
約1年前、「筋ジス病棟の未来を考えるプロジェクト」が立ち上がりました。これは、筋ジス病棟からの地域移行ができるようにしていこう、筋ジス病棟の入院生活の質も改善していこうというプロジェクトです。まずは全国の入院患者さんと繋がるためと、筋ジス病棟の今の暮らしをもっと知るために、アンケートをすることになりました。このアンケート結果や当事者からお話を聞く中で、もう何年も外出できていない人、病院の外とあまり繋がりがない人が全国にたくさんいることが分かってきました。また、虐待やそれに近いことが今も起こっていることも分かってきました。
女性患者さんの困難
特に女性の長期入院患者さんについては、排泄・入浴介助を男性スタッフにされるのが苦痛といった、女性であることに配慮されない問題や、性的虐待があることもお聞きしました。これはとても語りにくく表に出にくいからこそ、私たちの方から積極的に、同時に、丁寧にお話を聞く必要があると、危機感を持って実感しています。
ピアカンを生かして
アンケートの聞き取りにしても、女性入院患者さんへのアプローチにしても、ピアカンで養った力を生かして入院患者さんとじっくり良い形でお話しできるのではと思います。それを必要としている、冒頭に書いたような状況下の入院患者さんがたくさんおられます。とは言え、あまり構えずに繋がり、話してみる。まずはそれだけでもいいのではないでしょうか。
ある入院患者さんからのメッセージ
ここで、地域移行に向けて奮闘中のある入院患者さんからいただいたメッセージの一部をご紹介します。彼ら彼女らの声をこちらからキャッチしに行く、始まりはそこからだと思います。
「そこ(病院)で生きる人・出たいと思う人が、そこまで辛く悲しい思いをせずに済むように、少しでも前を向けるようになったらいいなと思っております。そのためにどうか、我々のような閉ざされた場所にいる人々にも目を向けてください。可能な限り、繋がりを作ってください。私がそうだったように、僅かな繋がりからなんらかの可能性が見出せるかもしれないと思います。」
日本自立生活(JCIL) Y.O
※JILピア・カウンセリング委員会ニュース2020年3月号掲載