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雇われ院長が考える分院展開の難しさ(3)

雇われ院長が考える医師の採用

 前回まででお伝えしたように、医師採用と彼らのモチベーションの維持は分院展開にとっては大きな難所となります。私自身も雇われ医師ですが、小児科部門に関しては医師採用にも関与しており、多くの医師の面接を行ってきました。今回は雇われ医師だからこと感じる医師採用のポイントについてお伝えしたいと思います。

誰をバスに乗せるか?

ジム・コリンズの名著である『ビジョナリーカンパニー2』に「このバスでどこに行くべきかは分からない。しかし、分かっていることもある。適切な人がバスに乗り、適切な人がそれぞれふさわしい席につき、不適切な人がバスから降りれば、素晴らしい場所に行く方法を決められるはずだ」という一節があります。これは「誰バス問題」として人材採用や組織論の考え方として非常に有名なものですが、クリニックでの医師採用についても重要なものです。

 実際に当法人でもスタッフとの関係構築が上手くいかずに複数のスタッフを離職させてしまったり、要求が多く周りを振り回した挙句に突然離職してしまう医師もいました。自院とマッチしない医師を採用してしまうと、育成までに多大な労力をかけたスタッフや大切な患者さんを失い、採用より圧倒的に大きなコストを支払わなければならなくなってしまいます。そのため医師採用に関しては、どんなに医師確保が急務であったとしても、安易に採用せず出来得るかぎり時間をかけて行うべきだと考えています。
私自身は、医師面接から採用の際には以下のようなことに留意しています。

医師採用のポイント➀ ー自身の立ち位置を理解しているか?ー


 医師との面接を行っていると、明らかに事前準備が不足している先生方が意外と多いということに気付きます。現状でクリニックの医師採用市場では、医師が“売り手”であることは否定しませんが、事前にクリニックの研究を行うことなく面接に臨まれる先生をみると、患者さんにも真摯な姿勢で接していないのではないかと感じてしまいます。
また、面接でご自身の強みをうかがった際に、クリニックとはあまり関係ない業績やスキルを熱弁される先生にも注意が必要です。ご自身が経験してきたスキルを、どのようにクリニック診療に活かせるかのイメージを持ってお話いただけるかという点は非常に重要だと考えています

医師採用のポイント② ーチームとして仕事をする意識があるか?ー

 クリニックにおいては、一般事務のパートさんも含めた全員でチームとして成果を出していく必要があります。前職が病院勤務なら他職種、クリニック勤務ならスタッフとのチームとしてどのように関わってきたかについて聞いてみることは有用です。そこでの答えの解像度の高さによって、その人の持つチームマネジメントに対する意識は明確になってきます。

医師採用のポイント③ ー自院スタッフからの評価は?ー


 医師である私との面談をクリアして正採用を行う前には、実際の診療を行ってもらうことが必要だと考えています。診療スタイルを見ることは勿論のこと、現場の様々なスタッフからの360度評価を行う機会とすることができるからです。当法人の現場スタッフは多くのタイプの医師の診療を見ていることもあり、患者さんやスタッフへの対応など非常に冷静な評価をしてくれます。このことで自分が行った面接では気付かなかった新たな気づきを与えてくれるものとなりますし、「仲間」としてスタッフが受け入れてくれるかどうかという点では必須だと考えています。

医師採用のポイント④ ー雇われ医師の離職を防ぐためにー


 医師を雇うようになると、経営者である先生にとっては同じ視座をもつ仲間が増えたと考えがちです。診療に関しては医師として同じ思いを持った仲間かもしれませんが、クリニック運営に関しては、雇われ医師と経営者の先生が同じ視座で取り組んでくれることを期待してはいけません。特に医局の関係で雇用される場合にその傾向が強いように思いますが、医局のヒエラルキー的な上下関係の意識からは早めに脱却する方がよいでしょう。

 つまり、雇われ医師とは、医局の時のように時には歯を食いしばって頑張ってくれる存在というわけではなく、嫌なら辞めてしまうかもしれない自分本位な存在であるという認識が必要です。その中で、何が彼らのモチベーションにつながるものかを見つけて、それをインセンティブとして提供していくことが離職を防ぐ鍵になります。

分院展開を決めた時から、医師としての立場だけではなく、経営者の立場で医師と関わっていくという姿勢が求められるのです。


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