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子どもの医療行為に”本人許可”は必要ない。

つい先日、男性医師が学校健診で「本人の許可なく」児童の陰部を見たことが話題になった。

世間では、「本当にそれ診察なの?」っていう素朴な疑問だけじゃなく、
「医療行為をするなら子ども相手でも許可取るのは当然」
っていう"子どもの人権"にまで話が拡がってる。

ただ極論を言うと、子どもの医療行為に”本人許可”って必要ないです。

もちろん陰部の診察については、この限りじゃない。
これは例外の部類に入るし、他にも例外はある。

だけど「必要か、必要ないか」の極論で答えるなら「必要ない」ってことになる。

「そんなわけない」

「子どもにも人権はある」

と思われた、まともな方へ。

どうかこのまま読み進めてほしい。

「70代男性医師、健診で児童の陰部を診察する」

先日、男性医師が無許可で児童の陰部を診察したというショッキングな事件が世間を賑わせた。

当の医師は、診察の正当性を主張している一方で、
事前に周知がなかった児童や親からは不満の声が上がり、案の定、Xでも炎上していた。

反響のあったポストをいくつか紹介したい。

"変態"とみなす人、"医療行為"だと擁護する人。

意見は分かれているようだった。

その議論もすごく大事だけど一旦置いておく。

それより今回注目したいのは、

上の意見を抑え、最も市民権を得ていそうな、以下のような意見。


このタイプの意見をまとめると、

確かに医学的には必要なことだったのかもしれない。
でも子どもの許可を得てないよね。
これでトラウマにでもなったらどうするの?」

というもの。

ふむ。なるほど。

陰部診察に関しては、その通りだと思う。

ただ、これを見て心配になったのが、

(陰部診察とか関係なく)子どもにだって人権はあるんだから、そもそも医療行為をするなら本人の許可が必要だよね

子どもも1人の人間。大人と同じように扱うべき。

っていう感じで、話が大きく捉えられてないかな?

ってこと。

え、その通りでしょ。それの何が問題なの?と思う方もいるだろう。

小児科医でなければ、何より僕自身がきっとそうだ。

確かに医療の大前提として、

「あらゆる医療行為は、患者の同意がなければ犯罪行為になりうる」

というものがある。

それを相手が子どもだからってないがしろにして良いわけじゃない。

ちゃんと子どもからも許可を取った方が良い。

うんうん、その通りだ。

だけど、ひとこと言わせてほしい。。。

子どもから「診療行為の許可をとる」ってめちゃくちゃ難しいよ?!
もし取れなかったらどうするの?諦めるの? 
それで子どもは救えるの??
そこらへんの現実、分かってる???


ひとことだけ言うつもりが、、、少し取り乱してしまった。

申し訳ないです。

もう少し説明します。

例えば、以前に僕が診察した胃腸炎の小学生男子を紹介しよう。

彼は口から飲んでもすぐに吐いてしまい、脱水も進んでいたので、入院が必要だった。

そういう子には血管に針を刺して点滴で水分を補ってあげる必要がある。

というわけで、
僕はその子に点滴がいかに必要かを、わかりやす〜く、伝えた。

そしたらその子は

「しっかり説明してくれてありがとう。点滴を許可します。」

なんてことは言わず、

「いやだああああああああ、おうちかえるううううううう!!!」


とその場で泣き叫び始めた。

だけど子どもからの許可、大事だよね。

だからこっちも粘った。

「このまま家に帰ったらもっと具合悪くなっちゃうよ。ちょっとだけ頑張ってみない?」

ってやさ〜しく、伝えてあげた。

するとどうだろう。

「悪くなってもいいいいいい!!もうかえるうううううう!」


と返事が来た。

あろうことか「治療拒否の許可」が取れてしまった。

ということで、母に

「本人から許可を取れなかったので、治療はできません。お引き取りください」

と伝えて帰ってもらった。

なんてことをしたら、責め立てられるのは間違いなく僕の方だろう。

結局親に許可をもらって、点滴をさせてもらった。

小児科の診療で、こんなことは日常茶飯事だ。

嫌がる子どもに「うん」と言わせる難しさは、不屈のガンジーも一瞬で心折れるレベルと言われてる。(僕の中で)


こんなにも説得が難しいのは、
子どもが"目の前の嫌"を避けようとするあまり、"その後のもっと嫌"を平気で選んでしまう、非合理的な生き物だから。

もちろん、本人から許可を得るための努力は必ずするし、中にはそれで分かってくれる聞き分けのいい子もいる。

だけど、いくら説明しても聞き入れてくれない子は確実にいる。

そんなときは親から許可をもらって医療行為するっていうのが現実の小児医療です。

子どもから許可を取るべきっていう"理想"と、

でもそれが難しいときもあるよねっていう"現実"。

このニュアンスが伝わればなと思う。

もちろんだからといって、
陰部の診察も「必要なんだからガンガンやれ」ってわけじゃないのはおっしゃる通り。

本人から許可が取れない場合、陰部の診察は無理に進めない。

さっきの胃腸炎とは違う。

陰部の診察で見抜ける病気(※将来的に低身長をきたす思春期早発症など)は、重症な胃腸炎ほど緊急性がないし、何よりもっとデリケートな話だ。

だけど、簡単に引き下がりもしない。

「トラウマになると大変だもんね」ですぐに諦めない。

そんな言葉じゃ患者は救えないのよ。

・親に診察の必要性をしっかり理解してもらい、親からも説得を試みてもらう。

・診察を延期し、本人との信頼関係を築けてからまたお願いしてみる。

・心理士に依頼し、本人の訴えに寄り添ってもらう。

といったようにあの手この手を使って、
トラウマにならないよう、許可してもらえる努力をする。

つまり、

子どもの”嫌”と言う気持ちを"尊重"こそすれど、"鵜呑み"にはしない

ってこと。

陰部診察については、確かに本人の許可が必須になるんだろうけど、
その解釈を拡大して「子ども相手でも医療行為に本人の許可は必須だろう!」と息を荒くするのは違うというか、無理です。

っていうのが僕の意見。

さいごに

これを伝えたかったわけです。

そこらへんの事情を理解した上で、まずは「子どもの許可を取る努力」をするべきっていう意見なら大賛成。

ましてや陰部診察。

犯罪と言われても無理はない。

じゃああの医師は小児性愛者の変態だったかと言われると、その意図はなかったと思ってる。そこらへんの話は今回は割愛。
この小児科医のブログはその辺も含めて、とてもわかりやすく解説していてオススメです。
https://ameblo.jp/golden-megane/entry-12855304134.html

なので僕が親の立場であっても、
「事前の周知がなされず、本人にも説明が一切なかったこと」については抗議していたかもしれない。

今回の話はこれでおしまい。

最後に、僕のつたない小児科医としての叫びを最後まで聞いてもらったことに心から感謝申し上げたい。

よかったらスキしていただけると励みになって、僕の心のガンジーも息を吹き返します。

ではまた。

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