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幼児期に経験した気候と、大人になってからの汗の量は関連するか?|2024年9月9日

■ ブログで公開した内容の深掘りです。

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小児期の環境と、大人になったときの汗の量は関係する?

■ ヒトは汗をかくのがとても上手な動物です。
■ チンパンジーと比べると、ヒトの体には10倍も多くの汗腺があります。

Kamberov, Y. G., Guhan, S. M., DeMarchis, A., Jiang, J., Wright, S. S.,
Morgan, B. A., Sabeti, P. C., Tabin, C. J., & Lieberman, D. E. (2018).
Comparative evidence for the independent evolution of hair and
sweat gland traits in primates. Journal of Human Evolution, 125,
99–105.

■ これは、ヒトの祖先が暑い環境で活動するようになったときに進化したと考えられています。

Lieberman, D. E. (2015). Human locomotion and heat loss: An evolutionary
perspective. Comprehensive Physiology, 5(1), 99–117.

■ ヒトの祖先がいつ頃から現代人のような汗のかき方ができるようになったのかは、正確にはわかっていません。
■ しかし、約180万年前のホモ・エレクトスという種は、すでに現代人に近い能力を持っていたと推測されています。

Bramble, D. M., & Lieberman, D. E. (2004). Endurance running and the
evolution of homo. Nature, 432(7015), 345–352.

Sahnouni, M., Parés, J. M., Duval, M., Cáceres, I., Harichane, Z., Van der Made, J.,Pérez-González, A., Abdessadok, S., Kandi, N., & Derradji, A. (2018). 1.9-million and 2.4-million-year-old artifacts and stone tool–cutmarked bones from Ain Boucherit, Algeria. Science, 362(6420), 1297–1301.

■ 現代人でも、汗腺の数には違いがあります。体や手足では1平方センチメートルあたり60から140個、手のひらや足の裏では200から300個の汗腺があります。

Taylor, N. A., & Machado-Moreira, C. A. (2013). Regional variations in
transepidermal water loss, eccrine sweat gland density, sweat secretion
rates and electrolyte composition in resting and exercising
humans. Extreme Physiology & Medicine, 2(1), 4.

■ しかし、人種や住んでいる地域によって汗腺の数が違うかどうかは、まだよくわかっていないそうです。

Best, A., Lieberman, D. E., & Kamilar, J. M. (2019). Diversity and evolution
of human eccrine sweat gland density. Journal of Thermal Biology, 84,
331–338.
Taylor, N. A. (2006). Ethnic differences in thermoregulation: Genotypic versus
phenotypic heat adaptation. Journal of Thermal Biology, 31(1–2), 90–104.

■ 暑い地域に住む人々は汗腺が多くなった可能性が指摘されていますが、仮説の段階です。
■ そして、この仮説から、子どもの頃の環境が大人になってからの汗腺の数に影響を与える可能性もあるとされています。

■ ある研究者は、生まれてから2年半の間の気候が、大人になってからの汗腺の数に影響を与えると提案しました。

Kuno, Y. (1956). Human perspiration. Thomas, Spring-Filed.

■ この話は、私もそうなのだろうと考えていましたが、古い学説にかかわらず、まだ十分に証明されていないのだそうです。

■ そして、汗腺の数と実際にかく汗の量の関係もよくわかっていません。
■ さらに、汗腺の数が多い人が必ずしもたくさん汗をかくわけではないようです。

Gagnon, D., & Kenny, G. P. (2012). Sex differences in thermoeffector
responses during exercise at fixed requirements for heat loss. Journal
of Applied Physiology, 113(5), 746–757.

■ このように、ヒトの汗のかき方についてはまだ多くの謎が残されています。
■ そして最近、子どもの頃の環境と、汗腺や汗の量を検討した報告がありました。ちょっと予想と異なる結果でしたので、共有します。



この論文でわかったことをざっくりまとめると?

18〜39歳の68人のボランティアを対象に、様々な幼少期の気候体制と地理的祖先を持つ人々の機能的エクリン腺密度(FED)を測定した。

✅️6部位のFEDの個体間変動は2倍以上で、60.9から132.7腺/cm2の範囲だった。
【簡単な解説】 人の体の6つの部分で汗腺の数を調べたところ、人によって大きな違いがありました。1cm2に、最も少ない人で約61個、最も多い人で約133個の汗腺があり、その差は2倍以上でした。

✅️FEDの変動は、体表面積と四肢の周囲長(負の相関)によって最もよく説明され、幼少期の気候条件や遺伝的類似性によってはあまり説明されなかった。
【簡単な解説】 汗腺の数の違いは、子供の頃に住んでいた場所の気候や、祖先の出身地とはあまり関係がありませんでした。むしろ、体の大きさや手足の太さと関係があり、体が大きい人ほど、1cm2あたりの汗腺の数が少ない傾向がありました。



以下は、論文の解説と管理人の感想です。

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