自己理念について考えてみる
自己理念とは自分の目指す方向だ。社会人になって社是というものに出会った。社是とは会社の在り方を定めた社訓のようなもので,会社での自分の行いが正しいか迷ったら社是に立ち返って考えるように教育を受けた。
そこで思ったことは,自分に対する個人的な社是に相当するものがあってもよいのではないかということ。無理やり単語にするなら,「自分是」となるかもしれないが,語呂も悪いし,ちょうどいい言葉として自己理念という言葉が日本語には用意されているので,自分是といういけてない言葉はいったん置いておいて,自己理念について考えてみた。
結論から言うと,25才の今の自分にとっての自己理念は「文化資本の向上」と決めた。
文化資本の意味について簡単に説明すると,文化資本とは金銭による資本以外の新たな富を生み出すことが期待された文化的な資本のことだ。例えば良い学歴や良い資格といったものも文化資本だし,良い友人も文化資本となる。
なぜ,文化資本なのか。富を生み出すために文化資本を得るのであれば,自己理念は富の獲得で良いではないかという疑問が生じるかもしれないが,これは棄却する。理由は,ここで言う富とは経済的な利益を指すのではなく,直接金銭に換算不可能な自身のブランド・信用の獲得,新たな友人関係の形成など広義の概念を想定するからだ(以下,富と記す場合,この広義の意味の富を指す)。そして,金銭を含め,この広義の富を持続的に保持することが目的である。自己理念は自分が行動に迷った際の方向を示すものであり,ゴールを示すものではない。人はゴールを示されるよりも方向を示された方が遥かに行動しやすい生き物だ。これは,カーナビが目的地だけを示しても何も役に立たないことと似ている。目的地への方向を示してはじめて目的地へ近づくことができる。よって,短絡的に富の獲得を自己理念に設定しない。
文化資本を掘り下げてみる。文化資本は以下の3つに分類される。
①身体化された文化資本(知性,能力,技術,習慣など)
②客体化された文化資本(書籍,レコード,絵画など)
③制度化された文化資本(学歴,各種ライセンスなど)
次に文化資本の価値は,将来獲得する富の期待値で定義される。これは,文化資本が新たな富を生み出すことを期待された富の一種であるからである。その産み出した富の一部は時として金銭的な利益として還元されるが,文化資本が金銭的でない富を産み出し,雪だるま式に富を増やし,結果として金銭的な利益が拡大することも期待できる。
ここで,なぜ文化資本が密接に金銭的な利益の獲得に繋がるかについて言及しておく。
典型的な文化資本の価値増殖プロセスとして,次のようなストーリーがある。
①家庭において言語能力(=言語資本)を身につける
②上記①を元手に諸所の知識・能力・技術(身体化された文化資本)を手に入れる
③上記①,②を用いて学歴やライセンス(制度化された文化資本)を取得する。
④上記①〜③を総合的に評価してもらうことによって,職業(=社会的地位)に就く。(場合によっては学校において知り合った友人(社会関係資本)が職務遂行上のコネとなって就職のサポートや,就職後の成功(信用,賞賛,昇進,昇給など)に貢献することもあり得る。
↓
職業を通して所得(=経済資本)を得る。
この文化資本が最も色濃く受け継がれるのは家庭である。幼少期に本に囲まれて本を読む習慣(=身体化された文化資本)を獲得した子はその後に高い学力を獲得しやすくなるだろう。親が音楽の先生で幼少期からピアノが日常だった子供は音楽的なセンスを親から受け継ぐ可能性が高いだろう。そんなところである。
したがって,文化資本を向上させることは,一個人の生活を豊かにするだけではなく,自身の家系の永続的な反映に大きく寄与しうる。
他方,文化資本はその特性故に,何にでも当てはまる点に注意されたい。例えば,ポケモンの知識を知っていることも一種の文化資本となり得るし,フランス料理のテーブルマナーを知っていることも文化資本になり得る。ここで,文化資本は,各社会的な地位に一定の文化資本が対応していることがこの問題を捉える上で重要である。小学生の輪に溶け込む上でポケモンの知識が重要だとする。これは小学生(あくまで一般的な小学生)が共通の認識として持つ文化にポケモンの知識が含まれるからである。一方で,小学生の輪に溶け込む際にフランス料理のテーブルマナーを知っていることは,まったく機能しないばかりか,それを小学生に示すと敬遠すらされかねない。この例からも,文化資本は対応する社会組織によって評価の有無が別れるのである。従って,自己理念に掲げた文化資本の向上とは,今いる自分の社会から抜け出して上へ上へと向かおうとする野心的な試みである。もちろん,文化資本の引き出しを増やすというアプローチが得策で相手に応じて文化資本を出したりしまったりできることが,多くの人が建設的な関係を構築する上で重要だろう。その能力もまた文化資本なのだが。
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