ポルノグラフィティ「君の愛読書がケルアックだった件」をイメージした小説3
放課後、僕が急いで向かった先は友人、藤野の家。風邪で寝込んでいるところ悪いが、僕のこれからの高校生活を青春に満ちたものにするため必要なことなんだ。
インターフォンを押すと藤野のお母さんが出た。
「どちら様?」
「今井です。お見舞いに来ました。」
「あら~今井君。わざわざ、ありがとね。今、開けるわ。」
玄関の扉が開いて、藤野のお母さんの姿が見えた。
「さぁ、上がって。熱もだいぶ下がってきて、落ち着いたところよ。多分、会ってくれると思うわ。」
「ありがとうございます。」
来慣れた藤野の家。二階の藤野の部屋へ向かう。
「藤野~僕だよ。入っていい?」
「今井?ちょっと待って。」
しばらくして、部屋のドアが開く。藤野の顔色は思ったより良くて安心した。
「どうしたんだよ?とりあえず中、入れよ。」
「ありがとう。体調はどう?」
「熱は下がってきて体も楽になってきたよ。明後日には学校に行けるんじゃないかな。で?何かあったのか?」
「実は今日、新井さんと初めて話が出来たんだ。」
「新井さん?」
想像していた話と違ったのか、藤野は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。
「その話、風邪を引いている俺が今、聞かないといけない話?」
僕はその言葉に一瞬怯み、話の続きを飲み込んだ。そして紙袋の中からある物を取り出す。藤野が好きな駅前にあるパティスリー屋のプリンだ。藤野に差し出す。
藤野は黙ったままプリンを受け取り、プリンの封を開けながら口を開いた。
「新井さんがどうしたんだよ。」
どうやら話の続きを聞いてくれるようだ。僕は今日の出来事を話した。新井さんがケルアックを好きなこと、それをきっかけに話をする機会が出来たこと。
「良かったじゃん。」
「そう。そこまでは良かったんだ。ただ一つ問題がある。」
プリンを黙々と食べながら、僕の言葉の続きを藤野は待った。
「僕はケルアックを語れるほど読んでいない。」
「つまり、俺から本を借りたいってこと?」
「そうです!!」
藤野は手に持っていたスプーンで、机の横にある本棚を指す。
「あるやつ適当に持っていけよ。無期限で貸してやるから。」
「藤野!ありがとう!!」
思わず藤野に飛びつく。だが、それは藤野に制止された。
「分かったから、風邪が伝染る前にさっさと帰れ。」
「本当にありがとう。」
本を借りて藤野の家を後にする。帰り際に、今井が好きなのはケルアックじゃなくて新井さんだな、なんて茶化されたが、言い返す言葉もない。
この日から僕は寝不足の日々が続く。新井さんと話をするまでに何とか一冊でも多く読まないと。
寝不足が苦にならないくらい、僕は新井さんとケルアックについて語れる日を想像し、胸を躍らせていた。