明治日本では日傘がめちゃくちゃ流行っていた

まずはこちらの写真を見てください。

これはアメリカ生まれのDidrik Bildtというスウェーデン人が撮影した1902年の日本です。元はモノクロ写真ですが、ディープラーニングでカラー化しています。これ1枚ならなんでもない明治35年の一般的な光景ですが、次の写真もみてください。

明治35年の日本人、日傘をさしすぎ!

日本人の傘好きは昔からだった?

日本人が傘をよくさしているのは今も変わらないですね。日本人は年間で傘を推計で1億2~3千万本程度消費しているそうです。ほぼ全ての日本人が傘を1本以上消費・所有しているようですね。所有数は世界の平均から見ても多いようです。Weathernews:日本は35カ国中、傘の所持数世界トップ、年間降水日数のランキングは世界13位 (https://jp.weathernews.com/news/4270/)によると、次のように所有数は世界一のようです。



「自分の傘、何本持っていますか?」と質問し、「0本」「1本」…「19本」「20本以上」から回答してもらいました。結果、世界35カ国の平均は2.4本、日本の平均は3.3本で、日本の一人当たりの傘の所持数は世界No.1ということが分かりました。 

激しい雨が多いことや職場や学校での雨宿り休憩が許されないといった背景がありますが、とにかく日本人は傘をよくさす人種のようですね。

傘の歴史

傘ができた時代を特定するのは難しいが、少なくとも3000年前の古代エジプト文明で王族は使っていたらしいです。それは日傘や雨傘というよりは天や影を表すなどの宗教的な意味が強く、後の中国やインドでも似たような使われ方がされていたようです。いずれにしろ、日差しが強い地域ではかなり早い段階で日差しから守るために傘が生まれたのは想像に難しくないですね。日本では平安時代に中国から伝えられてきたのが傘の始まりだそうです。源氏物語絵巻にも傘は登場しています。

ちなみに私たちが普段使用している雨傘というのは歴史が浅く、西洋では1700年頃に防水性を備えた傘が登場しました(和傘は室町時代には油を塗って防水性を意識していたそうです)。とはいえ、防水性がある傘が登場しても、雨の日に傘をさして歩くと馬車がない貧乏人だと思われるらしく、濡れて歩いたほうがマシだったようです。1750年ごろからイギリス人のJonas Hanwayが雨傘をロンドンで初めて使用し、徐々に普及していったそうです。その点、日傘は高級品扱いで優雅な様子から上流階級の女性たちの間ではとても人気がありました。


(日傘(1777))

西洋で傘が一般の人々にまで普及したのは1852年ごろです。それまで、動物の骨や植物でできていた傘の骨が、細い鉄製になったことで利便性が大きく向上したそうです。これ以降、西洋では日傘・雨傘が大流行し、その様子は画家たちによってたくさん描かれています。

(雨傘(1881))

(パリの通り、雨(1877))

(グランド・ジャット島の日曜日の午後(1884 – 1886))

 明治時代に日本に伝わって

日本に初めて洋傘が伝わったのは1804年の長崎だったそうです。しかし、多くの人の目に留まったのは1853年の黒船来航の時です。この時ペリー一行が洋傘をさしており、それが野次馬たちに目撃されたそうです。これ以降、通商条約により、徐々に洋傘が輸入され始め、国内に広がっていったようです。1880年(明治13年)が舞台の森鴎外の小説『雁』には次のような記述があります。


もう一月余り前の事であった。夫が或る日横浜から帰って、みやげに蝙蝠の日傘を買って来た。柄がひどく長くて、張ってある切れが割合に小さい。背の高い西洋の女が手に持っておもちゃにするには好かろうが、ずんぐりむっくりしたお常が持って見ると、極端に言えば、物干竿の尖へおむつを引っ掛けて持ったようである。それでそのまま差さずにしまって置いた。その傘は白地に細かい弁慶縞のような形が、藍で染め出してあった。


この頃はまだ舶来品で値段が高いようでしたが、1890年代には国産化に成功し、値段も下がっていったそうです。その後10年ほどかけて、写真のような傘の大流行が起きたようです。


しかし、なぜここまで流行したのでしょうか? おそらくですが、他国文化への憧れがあったのだと思います。明治というと、まだまだ江戸時代の文化が受け継がれており、人々の格好は下駄に和服に和髮でした。この状態で洋服を着るのは恥ずかしい、値段が高いということで、手軽に他国の雰囲気を味わえ実用性も兼ねる洋傘がまず流行したのではないでしょうか?

美術界でジャポニズムが流行った時も同じような現象が起こっており、洋服が和傘をさしている絵がいくつか残されています(よくみたら中国の傘?)。


(In the Pleasaunce(1875))

Author Guy Rose 1911

The Garden Parasol, ca. 1910(Frederick Carl Frieseke)
ちなみに、こちらのサイトによると、Vogueでも和傘のようなものが表紙に登場しています。
https://femmefemmefemme.wordpress.com/2008/07/05/vintage-vogue-covers/

傘一本を見ても、色々な歴史があるものですね。

ちなみに1902年に撮られた写真はこちらの写真集に収録されています。

江戸から大正の人びと AI Color Series

https://www.amazon.co.jp/dp/B07N5JD7BK/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_2WQtCbW54A6DF


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