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すぐそばの彼方
「この残酷で荒廃した世界で他人を信ずることは自己を見失うことだと確信していた。人間はある特定の個人との関係に救いを見出だそうとするかぎりは永遠に苦しみから逃れることは出来ない。無償の心で多くの人々を救おうと発心する事によってのみ自らを救う事が出来るのだ、と彼は考えていた」
妻子ある身でありながら、運命的な出会いを果たした薫との生活にのめり込み、その維持の為にサラ金に手を出してしまい、返済の為に詐欺をはたらき、政界の重鎮である父親に露見、果ては軟禁状態の病室で自殺未遂、何と人間らしい主人公なのかと半ば呆れる場面もあるが。
他人に自分を寄せる事が、ひいては自己の崩壊を招く、という考えは自分も物心ついた時から持っているようで妙にしっくり来る。
しかし、他者依存という考えを超越した、お互いの必然性をつとに感じあえる「他人」こそが、人には必要なのだ。だけど、そんなものは簡単には手に入らない。自己がとことんまで墜ちたような状態に追い込まれた時や、文字通り逃げ場の無い窮地に立たされて初めて見える光。それを一緒に手繰ってくれる他者を、人は常に求めている。