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フェアリーテール

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人はみな幻想(シメール)を。
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金魚

今宵夏祭り きれいな着物を着て あなたに寄り添う私は金魚 色とりどりに飾られた夜店を あなたといっしょに泳ぎ回るの 人ごみにはぐれないように しっかり手をつなげば 肩が触れ合うたびにときめいて 恋のしっぽがとぷんと跳ねるの ゆらゆらゆら あなたと夜を泳ぐ私は金魚 恋の波紋がどこまでも広がって行って このままあなたに掬われてもいいかなって思う 詩とファンタジー2013夏漣号掲載

哀しみという名の街で

哀しみという名の街で 二人 出会ったの 涙雨の降る街角 空も泣いていた午後 さびしがりやの恋人たち ガラス細工の傘をさして 色褪せた通りを歩いていたの 心の傷跡なぞるように 冷たい雨が降り続いて行く 誰でもいいからそばにいてよと 二人 出会ったの 哀しみという名の街で 二人 恋に落ちたの 赤い屋根のカフェテリア 空も頬染めた午後 さびがりやの恋人たち 白いテーブルをはさんで 言葉なくしたようにみつめあうだけ 二人の他には何もいらない 差し込む夕日に照らされてずっと

いばら姫

薔薇よ薔薇 私の体を養分にして 美し花を咲かせておくれ あの人は行ってしまった 私の手の届かないところへ ひとり取り残された私は 希望さえ失くしてしまった 絶望と言う名の牢獄に囚われて 薔薇の臥所で永遠に眠る私はいばら姫 愛しい王子様が現れるまで 薔薇に抱かれて眠り続ける もしも戦争が終わってあの人が生きていたら 彼は私の元へ帰って来てくれるかしら 薔薇に包まれて眠る私をみつけたら あの人はくちづけて私を目覚めさせてくれるかしら 虚しさよおまえの名前は? もう何度

緑の夢

僕の頭の上では さやさやと木々のささやく声 風はやさしく髪を撫でて行き 時折聞こえる鳥のさえずりに 僕の夢は現をさまよう 僕はいつもここで夢を見ている 心地良い木の肌のぬくもりに背を預けて 僕の夢は未だ深い森の中 目覚めてはいけないと誰かの声がして 僕は素直にその声に従っている 果てしない緑に抱かれて 僕は数億年前の樹海を旅する むっとするような森の匂いと 圧倒するような生命力に目眩を感じて 僕の体は大地に崩れ落ちて行く このまま下へ下へと沈んで行けば 僕はまたひとつの

春はたまごの眠り

春はたまごの眠り たまごの中でまどろみながら イースターエッグの夢を見ている 復活祭の朝が来たら ウサギが隠したたまごを 子どもたちが探しに行くよ 春になったらイースターバニーによろしくね 春はたまごの眠り もうすぐ生まれる日を待っている 春はたまごの眠り たまごの中でまどろみながら 花冠を編む夢を見ている レンゲ畑の真ん中で 愛する人のために 少女は花冠を編むよ 春になったらあの人に作ってあげよう 春はたまごの眠り もうすぐ目覚める時を待っている 春はたまごの眠

幻影(まぼろし)

芳しい薔薇をあなたにあげると 差しのべられた手をつかんだのがそもそもの間違い やがて薔薇は枯れてしまい 私がつかんだものは幻だと知らされる 私が愛したあなたはもうどこにもいない 恋は幻影 いつだって偽りの言葉に私は惑わされる 永遠を夢見て夢中になるけれど 冷めれば愛は知らん顔で私はいつも途方に暮れる 愛は幻影 赤い糸はしょせんおとぎ話に過ぎない 運命の相手に思えたあなたでさえ 今ではすっかり仮面がはがれてまるで別人のよう できれば最後まで仮面を被っていて欲しかった

夜明けのファンタジア

星が流れる夜明け前 二人は無口になって 遙かな水平線みつめてた 流星尾を引いて空を行く 永遠を信じてここまで来たけれど 夜明けのファンタジア 教えておくれ 二人の夜はいつ明ける 海は小波たてるだけ 竪琴を引くように 夜明けが始まるのを待っている 二人は今心をひとつに 永遠を信じてここまで来たけれど 夜明けのファンタジア 教えておくれ 二人の夢はいつ叶う 月の光が褪せて来る もうすぐ夜明け前 二人はいつだってその日のために やさしくいたわって星の中 永遠を信じてここまで来た

月の舟に乗って

月の舟に乗って 子供たちは夜を往く 魔法の絨毯 空飛ぶ木馬 月明かりに照らされて 夢を喰らい 子供たちは夜を往く 月の舟に揺られて 夜はそっと更けて行く 月の舟に乗って 恋人たちは夜を往く 揺れるさざ波 静かな波紋 影法師は寄り添って 愛を語らい 恋人たちは夜を往く 月の舟に揺られて 夜はさらに深まって行く 月の舟に乗って 旅人たちは夜を往く はるかな銀河 きらめく星雲 砂漠をいくつも越えて 時をも超えて 旅人たちは夜を往く 月の舟に揺られて 夜はいまだ

神話

どこにも行かないで そばにいてみつめて 月も凍えるこんな夜は 誰もが人恋しさに震えながら 星の運命に想いを寄せるの 流星がスパークしながら 落ちて行くわ涙のように もしも私を愛しているなら 今すぐ抱きしめて 何にも言わないで 夜に溶けて行くの 蒼い闇の中ではすべて秘密よ さざめく星も黙り込むわ 恋の行方は誰にもわからない 永遠が二人の間を 流れて行くわさざ波のように もしもこのまま時が止まっても 私は幸福よ どこにも行かないで そばにいてみつめて 二人だけの神話

星降る森へ

真夜中の扉を開けて 裸足で駆けて行こう たくさんの流れ星が降るという 星降る森へ走って行こう キーンコーン いろんな色の流れ星が きらめきながら落ちて行く 金属的なその音は 真夜中の森に響き渡って 私の心をわくわくさせる でもね 流れ星は地面に落ちると 溶けて消えてしまうから その前につかまえなくちゃね 早く早く いそいでいそいで 私は走る 星降る森を目指して 真夜中の森を駆け抜ける 内緒だけど教えてあげるね 机の引き出しの奥の小さな箱には 流れ星のコレクション

夜に堕ちる

グラマラスバタフライ 僕を狂わす炎 美しい人よ その魅惑的な瞳で 僕を誘惑しておくれ 今宵僕らは二匹の蝶となって 真夜中へ堕ちて行く 二人の体は絡み合ったまま 二度と離れられない 果てしなく続く快楽の底へ 身動きできないまま堕ちて行く おまえの豊満な体を抱き締めながら やがて僕らは見るだろう 色鮮やかな花の咲く伝説の花園を 誰もまだのぞいたことのない宇宙の深淵を 二人しか知らない夜の秘密を 永遠という名の胡蝶の夢を グラマラスバタフライ 僕を狂わす炎 もう誰にも

秋の恋人

かき鳴らすギター 踊る君のつま先 私はただ恋の歌を高らかに歌い きらめく君の瞳だけみつめていた 枯れ葉の舞い散る 落ち葉のステージの上で 娘たちは恋のステップを踏む 君の黒髪が揺れる 一瞬たりとも目を離すことができない 君の中に燃える情熱の炎 私の心も体も焼きつくしたあの夜が蘇る どこにも行く当てのないさすらいの旅 故郷を失い歌だけを道連れにここまで流れて来た ただ心の奥に燃える火だけを温めて 凍える季節を幾度もやり過ごし 悲しみと孤独を抱えて生きて来た 君のためだけ

ヴァンパイア

永遠が何だって言うんだろう そんなことを考える暇があるなら 今すぐこの喉の渇きを癒して欲しい 君の首筋に咬みつきたい それが僕のすべてさ 暗闇の中で求め続けるもの それはこの喉を潤してくれる血だ 僕を生かしてくれる生き餌だ それさえあれば僕は救われる 時がどれほど流れようと そんなことは大したことじゃない どんなに永く生きていようが そんなこと僕には関係ないことだ ただ欲しいものは 君の首筋からほとばしる赤い血だけ この指先から滴り落ちて行く あふれるほど鮮烈な 赤い

夜間飛行

今夜も蜜のような月が出た 夜を飛ぶにはふさわしい月夜だ さあ窓を開けて 翼なんかいらない 飛ぼうと思う気持ちさえあれば どこへだって飛んで行ける 蒼い闇に溶けて行く この高揚とした気持ち ビルの谷間をくぐって 満月の夜空へダイブする 僕らはいつだって自由さ 重力に縛られることはない 夢見る心が僕らの原動力なのだから さあ闇を切り裂いて 真夜中を飛んで行こう 夜明けにはまだまだ時間がある 流れ星を探しに夜の中へ どこまでも飛んで行くんだ