#一日一短歌 2022年8月分
8/1 暴きたいきみの裏側この夜をひっくり返せば来ない朝焼け
オセロみたいに簡単に何もかもひっくり返ればいいのにね。
8/2 夏を剥く 甘酸っぱさがはじけ飛ぶ きみの素肌に触れる甘さだ
夏の恋のイメージ、みかんとかはっさくの剥いたときの匂いなんだけど、それらの旬って冬だよな。
8/3 恋を抱く夜のわたしに触れないでこの熱が今だけのものでも
好きだなあ、って気持ちが増幅されるのはやっぱり昼より夜なんだよね、不思議なことに。
8/4 感情が溶け出す音を聴いているきみがわたしの世界になって
だいたい恋をすると多くを恋に依存してしまうので申し訳ない。わたしの世界にされるきみ、本当に気の毒。
8/6
朽ち果てたドームはタイムマシン七十七年後も癒えぬ悲しみ
ヒロシマの名もなき民の物語HIROSHIMAの歴史として紡がれ
ひとつひとつ小さな石を積み上げて築く平和の震える均衡
鳩たちが飛び立ってゆくその羽が黒い涙で汚れぬように
毎年この日は広島原爆の日の短歌を詠んでいる。ここにくるまでの歴史を思えば、人類の馬鹿さ加減にほとほと呆れる。100年後の人類に同じように思われないように願うばかりだ。
8/8 夏風に揺れる青稲輝いてこれがわたしのざわわ ざわわ
北陸に旅行に行った夏だった。どこまでも続く(本当にどこまでも続いていた)水田にそよぐ稲を見て泣きそうになった。沖縄でさとうきび畑がそうであるように、わたしにとっての水田は原風景のひとつなのかもしれない。別に農村出身というわけではないんだけど。
8/12 まぶしくて見ていられない愛されて育ったきみのまっすぐなうみ
昔、職場の先輩が夫のことを「本当に愛されて育った人なのね、みんな自分のことが好きだと思ってるんでしょう」と評していた。それは悪意あるものではなく、夫の自己肯定感の高さをボジティブに捉えた上での発言だった。夫とともに過ごすようになって長いが、その言葉を時々思い出す。夫は自分に非があったらすぐに認めて言語化して謝れる人で、それは夫が謝れば許してもらえる世界で生きてきた人だから。人間として基礎的な愛情をたっぷり受けて育った人は強く、まっすぐだ。その愛情を同じだけ他人に返すこともできる。わたしにはまぶしすぎるくらいだな、という歌です。
8/12 きみが撮るわたしはいつも恋人の顔 いつまでも愛にあふれて
旅行に行くと、だいたい夫がわたしと子どもたちの写真を撮ってくれる。夫が撮るわたしは、わたしがキメ顔で自撮りしたときよりずっとかわいい。これはわたしの母も言ってたから間違いない。
8/15 きみの目の星になりたい誰からも気づかれないままそばに寄り添う
好きな人の瞳には星が宿っているように見えるから、わたしはその星になりたい。
8/15 やわらかい声がほしくて満たされた月夜に公衆電話を探す
子どもが小学生になる時に公衆電話のかけ方を教えるように学校から言われたんだけど、下手したら固定電話のかけ方も知らないかもしれない。
8/15 これで終わりなのかもしれず空も星もわたしの代わりに泣かなくてもいい
たとえ知ってた終わりでも、わたしのために泣くのはわたしで、そうすることでしか癒せない痛みってある。
8/16 寄り添っていたかったんだ真夜中の月と金星 羽虫と街灯
いつも明るく見える光があっててっきり金星かと思ってたんだけど、見えるシーズンが違うみたい。わたしは何の光を見てたんだろう。
8/24 優しすぎるきみが迎えに来てくれて夜が明けてく(夢はここまで)
夢って本当に罪深い。
8/24 いつまでも晴れない夜に沈むのは闇にとろけて目覚めない月
夜も闇も月もよく出てくるな……
8/24 もう二度と読み直さない小説にきみの写真を挟んで仕舞う
そんで数年後うっかり開いて大ダメージを食らってしまうのよ。
8/24 きっともう離してくれないきみの手はどうあがいてもただしいひかり
その正しさがしんどい時もあるかもしれない。
8/24 あざやかな恋のフィルターまばたきのたびにきみへの好きがあふれる
フィルターが外れてもだいたい記憶で物を見てるので大丈夫だったりする。
8/24 錯覚におぼれてしまうこれは恋、恋、恋だから否定しないで
錯覚だってわかってるくせにね。
8/24 ありえない色のゼリーに誰のものでもないきみを閉じこめたくて
よく考えたらありえない色のゼリーってあんまなくない……?
8/24 持て余す熱を静かな劣情をきみは知らない(知らなくていい)
(でも知られたいと思ったりもする)
8/24 感情は夜にほどけて剥き出しのこころがきみをほしがっている
夜ばっかり悪者にしちゃってごめんね。
8/24 この距離じゃきみの涙に気づけない伸ばした腕が永遠を抱く
上の句と下の句がちぐはぐじゃない?まあそんなこともあるか……
8/24 本当の名前も顔も知らないで伝える愛は星のかがやき
また愛とか恋とかを星にしてるわ。どうしようもなく届かない気持ちはぜんぶ星です。
8/24 もうきみはわたしのものにならなくてあんな遠くで瞬く星だ
これも星です。
8/25 とらないで これはわたしの恋だからきみにもふれる権利はないよ
恋はどこまでも自分勝手なんだよなあ。
8/26 新しい高架を映すマルーンが浴びる風もう秋の装い
阪急淡路駅周辺の高架もうこんな出来たの?! 3週間見ないうちに大きくなったね、の歌でした。
8/27 まばたきのふるえる一瞬つかまえてきみのまつげが影をおとした
どこからどこまでをひらがなで開くか、というのは時々考え込む問題。全体を見て、漢字だとキツい印象になりそうなところはひらがなにしがち。
8/29 外してはならない指輪の日焼け跡触れていいのはわたしだけだよ
左手薬指の指輪フェチなので、夫の左手がたまらなく好き。
8/29 この街を見下ろす海は空にあるエスカレーターで向かう頂上
きっといい天気だったんでしょうねこの日。
8/30 見えている世界がすべて悲しみも痛みも誰かのものでしかなく
半径5メートル以内が世界のすべて、って言ってたのはアジカンだった。それより外のことは想像するしかない。
8/31 まだ夏は終わらないのにもうきみはおしまいみたいな表情で泣く
夏休みの終わりが8月31日じゃなくなって久しい。夏が終わっても、きみに楽しいことがたくさんありますように。
Twilogさんがサービスを停止してしまったので、この先の短歌の管理をどうしよう、ととても困った気持ちになっている現在、とりあえず2023年3月までのデータはあるがこの先は果たして。