【短歌】4人でいちごつみ
もっともっと短歌が詠みてえ~!!というわたしのツイッターでの何気ないつぶやきに、千原こはぎさんが「いちごつみをしてみない?」と声をかけてくださり、こはぎさんの呼びかけによって六浦筆の助さん・御糸さちさんの4人でいちごつみをすることになったのが昨年の11月のこと。
4人で100首、のんびりといちごつみをした4か月間。どんな言葉を摘むか、どんな言葉が摘まれるか、わくわくしながら過ごしたとても楽しい日々でした。自分以外の3人の最新作がコンスタントに読めるのも嬉しかったですね……!!
↓全100首はこちらから。こはぎさんがまとめてくださいました♡
せっかくなので、読まれた100首の中から、特に好き~~~!!って短歌を挙げておきたいと思います。太字にしているのが各々が前の歌から摘んだ語です。
千原こはぎさんの歌から
【10】心ごと痺れる向いあうきみの目の奥にゆれる火を見つけたら
好きしかないこはぎさんの恋の歌!!向かい合うひとの目の奥にあるもの、わたしはつい星にしてしまいがちだけど火もまたいい……
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【30】解き明かすためにあなたの表面に地図を書くふれたがるゆびさき
「地図」という語を摘んでこう使うとは想定してなかった、といういちごつみの醍醐味みたいな歌です。「あなたの表面に地図を書く」、最高すぎる愛情表現では。
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【34】感情のサイズが違うひとからの雪崩みたいな恋にのまれる
「感情のサイズ」と「雪崩」からもうとてつもなく愛してくれそうな勢いを感じるし、いい恋にのまれそうでよい。
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【74】心臓が跳ねまわるほどの感情を抱きしめ眠る手にふれた日は
もう「わかる」しかない。わかる。こはぎさんにわかられすぎてる。
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【94】ほんとうのことのひとつも言えなくてそれでもそばにいるひとだった
やだっ!!幸せになってよ主体!!!!!!!!
こはぎさんのこの、誰にとっても理解しやすい語彙で一瞬を切り取る能力すごい。短歌の伝わりやすさが補強されて、この歌がもつ切なさがより際立つ。好き。
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六浦筆の助さんの歌から
【11】ふわふわと心が泳ぐ 水族館の昆布がゆれる水槽の中
水族館の昆布に目を向けるところ、面白いなと思った。ふわふわしてるわりに昆布はしっかりと海底に足をつけているやつもいるんだよなあ。
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【35】月あかり今日も冷たく照らしおり 雪崩のあとの梨泰院の道 【梨泰院=イテウォン】
短歌に時事問題やニュースを詠み込むの、自分は難しく感じることが多くて避けがちなので印象に残った。この歌の寄りすぎず離れすぎずの距離感がちょうどよく感じる。
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【51】 微笑みで介護する吾の奥底に心臓えぐるかもめのブルース
かもめのブルース、この曲のことかな? 主体にとって特別な思い入れのある曲なのか、はたまたかもめのようだった人を介護しているやるせなさをこの曲に重ねているのか、想像が膨らむ。なんにせよ、心臓をえぐられながらも微笑んでいるのは穏やかではない。
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【67】ティッシュ出しいちまいいちまい数えてる婆ちゃん昔は教師だってさ
こういうの弱いんだおれ勘弁してよ……ボケると自分が一番楽しかった頃の言動になるって言うよね。婆ちゃんにとっては、子どもたちに教えてる時が一番輝いてた時代だったのかな。うちのおばあちゃんも、会社で経理をやってたのでよく大きな数字を数えていて、ものすごく切なかったことを思い出しました。
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【95】激務終え寝たきりの吾のすぐそばに暗い顔してたたずむ弥生
年度末のしんどさ伝わってくる。冬が終わってやっと町も空気も明るくなり始めるのに、どうして3月ってのはあんなに情緒不安定になるんだろうね。
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御糸さちさんの歌から
【24】牛乳とちょっといい牛乳の差を重ねて僕らの道は分かれる
「牛乳」って語を摘んでこの歌ができるの凄すぎん???? 発想の大勝利!! 今特になるべく安い値段の牛乳を選んで買ってるけど、いつも「おいしい牛乳」を買う人とそうやって差がついていくんだろうな……って生活者としての確かな実感がある。
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【36】たぶん全ての道は京都に通じてるはんなりと右折はんなりと左折
下の句の痛快さがたまらない。はんなりしながら曲がっていったら確かに京都に着いてしまいそう。
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【60】コンビーフほぐす箸先わたしには永遠に来ないサラダ記念日
「サラダ記念日」から連想される幸福なカップルと、あのでっかいコンビーフ缶から中身をほぐして取り出す「わたし」の対比よ。「永遠に来ない」と言い切ってるところに主体の潔さがある。
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【84】ぼくだけにぼくのためだけにぼくだけのスクールカウンセラーのほほえみ
ちがうよ!!!!!!!スクールカウンセラーは訪問者全員にそのほほえみだよ!!!!!!! 「ぼく」のひとりよがりがとても思春期的で胸に刺さる。
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【96】ただそこにたたずむという暴力をわたしときみはいつまでもした
たたずむことが暴力になる、という気づきがすごい。よくよく考えれば「いる」よりも「立ち止まったまま意図的になにもせずにいる」ニュアンスを強く感じる言葉のように思う。場合によっては確かにそれは暴力的だ。しかもふたりで、いつまでも。
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初めていちごつみをやってみた感想は、「ちょーーーたのしーーーーーー!!!!!!」だった。壁打ちのように毎日ひとりで詠み続けるのもいいけど、やっぱり読んで/読まれて面白さがぐっと増すのも短歌の魅力だと思うので、今後もちょくちょくいちごつみをやっていきたいな。
お付き合いしてくださったこはぎさん、筆の助さん、さちさん、ありがとうございました。
最後に、自分の詠んだ歌もまとめておきます。
【01】稲光 変なかたちのこころまでかわいいねって言ってくれるの
【05】さらわれる想いは二度と帰らないはるかな青い大海原へ
【09】鼓膜からきみの吐息を受け取って胸が痺れる仕組みが不思議
【13】サイダーの泡を潰していくようなきみのことばは陽炎、ゆれる
【17】散るための花弁こんなに美しくその先はもうないわたしたち
【21】結末を知らない映画を観てる まだつぐんだままのきみのくちびる
【25】わたしたちきっとしあわせになれたよね年の差までも分かち合えたら
【29】まだ地図も知らないきみが口ずさむ津々浦々の鉄道唱歌
【33】ペコちゃんが笑えなくなった日のためのサイズの合わない布製マスク
【37】焼き切れる痛みはなくてじんわりと熱いの たぶん恋じゃないんだ
【41】海だった記憶が残る街を見る上町台地のてっぺんに立ち
【45】信じない 種も仕掛けもないなんて、きみがこんなに気になるなんて
【49】いにしえのドライブマップ助手席のきみと探した未踏の夕陽
【53】ぬくもりが溶けきるココアくちづけたきみの口端あまい罠だな
【57】東京は近いよきみの両腕を翼にするって言ってよ 神様
【61】山盛りのサラダをつつくこの中に好きなものなど何ひとつなく
【65】嘘ばかりついてたからだ本当のこともはらはら剥がれてしまう
【69】教室に昨日と違う陽が射して涼宮ハルヒはもう憂えない
【73】羽化しないままの蛹を抱きしめてきみはいつまでいのちだろうか
【77】大人びた娘の心のやわらかく春の前髪かろやかに揺れ
【81】雷鳴の予報 視線を合わさないきみの見つめる未来の空に
【85】ほほえみに殺されている幾度となくわたしの流した血はどどめ色
【89】ひとつでも優しい星を掴みたいこのままで生き続けるとして
【93】ほんとうのわたしを誰も知らないでマスクの下の濃いバーガンディ
【97】わたしたちただの(ときどきキスしたり抱き合ったりするだけの)ともだち