ガラスが鳴る
ようやくキャンドルに火を灯せるようになってきた。
日が暮れ始めてからキャンドルを灯すのが好きだったが、今年に入ってからはずっとキャンドルを買えずにいた。
震えることが少なくなり、ようやく恐怖心が薄らいできて、雑貨店で久しぶりにロウソクを買った。
十分で消える長さが2cmほどの短いロウソクで、すぐに消えるからと、不思議と安心感があった。
いざガラスのキャンドルホルダーにロウソクを数本立ててみると、ガラスがちりっちりっと鳴り出した。
最初はガラスの音だと分からず、スマホから流しているカフェ風BGMの効果音だと思っていた。
しばらく席を立ち戻ってくるとガラスのキャンドルホルダーにヒビが入っていた。そこで、あの音の正体に気付いた。
一度ヒビが入ってしまえば後はどうでもよくなり、子供の誕生日かというくらいロウソクを乱立させて次々と火を灯した。
水槽の中で海草が小さい泡をはくように、ちりっちりっとガラスが鳴り出した。
一箱には105本のローソクが入っていたのだが、わたしは煩悩を燃やすように、火を絶やさなかった。
あるいは形の見えないちりっちりっという泡を弔うために、火を絶やさなかった。