陽キャになりたい

「陽キャになりたいんです! 」

切羽詰まった顔の男子高校生が相談に来た。

ヨウキャ、の意味すら知らなかった私は
へ?よ、よう?ようキャ?新しい果物かなにか?

と間抜けな反応をしてしまったけど

よく聞くと
陽キャと陰キャがあり
文字の通り陽気キャラ、陰気キャラのこと。

相談に来た彼は軽度の自閉症があり、コミュニケーションはやや苦手。

相談センターにも久しぶりに来ていきなりこの質問。

しかも「○月○日までに陽キャになりたい」と日にちまで指定。

女の子がデートの日まで痩せる!というのと同じかな?

いやいやね、男の魅力はね、暗さの中にもあってね、

と説得しようにも聞く耳持たず、

「違う!とにかく陽キャになりたいんだー!」

の一点張。
うーむ困ったもんだ。

 「ひとまずね、笑顔を作るとか
相手の話にいいね!とかなるほど!とか相づちをうつ」とか基本的なイメージアップについて話すと、彼は不器用にニーっと笑って見せた。

彼の少し影のある哲学者のような雰囲気は素敵だし、それを陰キャと分けてしまうにはあまりに短絡的だけど、その言葉ができてしまった以上仕方ない。

言葉によるグラデーションのよさのぶった切りの力を感じた。

陰キャと陽キャに分けられたらそりゃ陽に入りたいさ。

美人かブスかと言われたら美人に入りたいし、リア充かニートか、と言われたらリア充に入りたい。

私も緊急事態宣言中、家に引きこもり
近所の池にカルガモを見に行き
小説を読み
お料理をして寝る、という生活が今思えばすごーく幸せだったなあ。

たぶん、普段はリア充でいなきゃ!というプレッシャーがあるのかもなあ。

おばさん、と言われたくない!とかね。

悪い方の部類に入らないぞー!
と必死にシェイプアップし
趣味を作り、仕事をして、英会話もして、年齢より若いね!なんて言われるのを目指しているのかも。

バリキャリ
ゆるふわ
ダメンズ
勝ち組
負け組
モテキャラ
非モテ
セレブ
貧困女子

いろんな区分けに追いかけられているのが私達なんだろうなー。

幸せは自分のものさしである、と分かりつつこの概念化に逆らうのは容易ではない。

あー、毎日アイスをたべて、10キロ太って、仕事も勉強も辞めて、部屋でインコとお話して、栽培した野菜をたべて、
キモキャラ無職引きこもりおばさん
になったら、案外、今より幸せそうな気がしてきた!

でもできないな。
だってさ、リア充、オトナ女子でいたいもの。



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