▶︎01 00'00 No title
人生で初めて、CDを買った。
Apple Musicでも、Spotifyでも、LINEミュージックでも、手元にある端末からすぐに音楽が聴けるこの世の中で、初めてCDを買った。
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音楽をやる友人がタワーレコードに行きたいと言った。
特に予定も行くところもなかった私は、ただ梅田の街に高く聳え立つ、黄色地に赤色の文字で強く表された " TOWER RECORD” の文字に吸い寄せられていった。
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"インディーズ横丁" と赤提灯のかかったエリアに足を運ぶ。
その友人の影響か、少しばかりは目にしたことのある名前が並ぶ。
誰々だ、先輩だ、と言いながら楽しそうにCDを手に取っては、今もなお音楽を続けている友人のことを想ってか時々しんみりとする友人を横目に、知らない名前をもった人たちが出した、知らない名前をつけたアルバムが数多ある空間になかなか馴染めないでいた。
「買ってくる!」と言い残しレジに向かった友人についていったはいいものの、何か気になって、また同じ場所に戻ってきた。
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そんな私にも、わかる名前が並んでいた。
どこかで耳にして、YouTubeで聴いて、なんとなく好きで、ピアノで少しカバーしたりした曲。
少年のような、少女のような制服を着た子が、にかっと笑うその表紙は、「ジャケ写」と呼ばれるものらしい。
しばらく手に取ってみた。
知ってる曲が1つに、知らない曲が3つ収録されているみたい。
数グラム、数十グラムのその円盤は、すっごく重たく感じた。
何が入っているんだろう。
じっと見つめる先の円盤に何が入っているのかわからないまま、ただそれを見つめてた。
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私を見つけて後ろからひょいと友人が
「欲しいの?」
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そうかもしれない。
欲しいのかもしれない。
私の手にある一枚の円盤をスッと取って
「CDなんて、アーティストのこだわりのかたまりやからなぁ。色々詰まってるで。」
と言った。
そうだったのか。
手に取った時のあの重たさは、こだわりの質量だったのかと納得する。
欲しいと思った。
この音が、欲しいと思った。
レジ業務をそつなくこなすお兄さんとは裏腹に、やけにドキドキしたまま財布を握る。
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買えた。
買ってしまった。
普通にバイトをし、普通に1000円、2000円を払える大学生が、一丁前にたった一つの買い物にドキドキしてしまった。
こういうのはきっと、みんなは子どもの頃に、少ないお小遣いを貯めて初めてCDを買ったときに感じるんだろう。
きっとその時にしかない、特別な、気持ちの形。
なんだかいい歳をしてこんな感情を抱いたことに
厚かましささえ感じてしまったけれども。
それでも私は、CDを初めて買った。
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お昼ご飯を食べて、フィルムを剥がす。
CDが梱包されているフィルムは、剥がすのが難しかった。
ドキドキして開ける。
それを再生する機械もないのに、開けた。
歌詞がたくさん書いてある本のようなものが入っていた。
「歌詞カード」と呼ばれるものらしい。
私が買ったものの歌詞カードは、全て手書きで書かれていた。
ああ、これがそうか。
これが「こだわりのかたまり」か。
一つ一つの文字に、重さを感じた。
聴いたこともない音楽の歌詞だけを目で追う。
歌詞を読んだら頭の中に音楽が流れる、「知ってる音楽」じゃない。
「知らない音楽」が、今目の前にある。
彼らはどんなリズムに乗るんだろうか。
彼らはどんなメロディに乗るんだろうか。
「知らない音楽」に期待が膨らむ。
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家に帰って、「確かこの辺にあったはず…」とCDプレーヤーのありかをガサゴソと探す。
もう10年以上も前のものだ。
電源がつくかも、ちゃんと再生されるかどうかもわからない。
ただただ、音が鳴る気がして、埃でグレーに見えてしまう、真っ黒なCDプレイヤーの蓋を開けて、あの円盤を中に入れて蓋を閉じる。
スイッチをONの方向に指を弾くと、正面はオレンジ色に光った。
数秒ほど起動時間を得た後、ディスプレイにはこうあった。
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▶︎01 00'00 拝啓、少年よ