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ジンバブエでディープな憑依儀礼を体験した時の話
3月3日。この日は23時間にわたるハラレ(ジンバブエの首都)へのフライトを経てジンバブエで迎える初めての朝だった。朝ごはんは昨晩適当にスーパーで買ったパンを食べてホテルを出る。トイレに便座が付いていないのはとても気になるが、それ以外は案外過ごしやすいかもしれない。
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メンバー全員でチャーターしたバスに乗り込んで出発。この日は助手席に座る。迫力がある。道路は穴ぼこだらけで運転手のコーレンさんがうまくよけながら運転してくれる。なんと、ハラレの町、ほとんどの交差点に信号がない。だから、なんとなくで空気を読みながら運転するしかない。だんだん郊外に出るにつれ道路がより悪くなっていくので、平均速度が落ちていく。
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何とかムビラ職人のブーレさんの家に到着。完全に郊外の村だ。ブーレさんの自宅に上がりこむ。(ムビラ:ジンバブエの伝統楽器)ムビラの演奏者何人かも集まり、軽く自己紹介をした後、何曲か演奏してくれる。オショと呼ばれるマラカスのような楽器の音が大きい。野球観戦を思い出させる。ムビラ3~4台の演奏とオショに加え、ムビラ奏者が歌ったり、踊る人がいるので、見どころはいろいろある。
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まず、奏者のお兄さんたちが元気に歌っているので、自然と元気がもらえる。奏者のお兄さんたちの表情も生き生きしている。ジンバブエの現大統領E.ムナンガグワの選挙Tシャツを着た踊りのお兄さんの迫力がすごい。足や杖がメンバーにぶつかりそうだった。この踊りは特に振り付けが決まっているわけではなく、フィーリングで踊っているそうだ。このお兄さんには踊りの才能があるのだろう。体力がすごい。こんだけ派手に踊っているのに全然疲れない。後ですごいね!って言いに行ったら喜んでた。
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一通り演奏を聴いた後は質問タイムになった。彼らの文化(ショナ文化?)では先祖とのつながりを大事にしているので、ムビラの演奏を通じて先祖を呼び出すらしい。この時ははえ~といった感じだったが後で身をもって体験することになる。話を聞いたり音楽を聴いたりした後に昼ごはんを食べた。サザと大根の葉と豚肉と魚のおかずだった。(サザ:とうもろこしの粉に水を加えて蒸したもの、とうもろこしチックなきりたんぽの味がする)とりあえずサザが作りたてで熱い。手で頑張って少しづつつまんで食べる。ここで多分舌をやけどした。個人的な感覚だけど主食とおかずの割合を比べたときに日本よりも主食の割合が高い気がする。だから、最初の方は熱々のサザを食べて、最後の方におかずと冷めかけのサザを一緒に食べるとおいしく食べれる気がする。
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お昼を食べ終わったら、またムビラの演奏が始まった。これ、いつになったら帰れるんだろうと思い始めたころ、おもむろに地面に敷物がひかれ始めた。ブーレさんの奥さんがこれは写真とっちゃダメと言っていたので、ここから先は写真がないものの、まず、男の人が悲鳴(?)をあげながら倒れ出し、メンバーみんながなんだろうと思ったであろう瞬間に、さっきのムビラの演奏を通じて先祖の霊を呼びだすという話や、午前中の演奏者のお兄さんたちの話が脳内で繋がって、これが憑依儀礼だということを悟った。その次の瞬間、一生に一度くらい見てみたいなと思っていた憑依儀礼を生で見れるのだと思い、とてもワクワクした。
まず、最初のお兄さんには男の先祖の霊が宿っていたらしく、少々の会話をブーレさんと交わしたのちに比較的すぐに撤退(?)していった。その後、午前中に酒の瓶を10本くらいあけていたお兄さんに女の先祖の霊が宿って、こちらはみんなで相談会といった雰囲気になった。この辺で一部メンバーがチブクを飲まされていたが、自分は気合で断った。(チブク:ソルガムという穀物を発酵させて作ったアフリカで一般的に作られているお酒。ヨーグルト風味のお酒みたいな味がするらしい。)この憑依されているお兄さん、女の先祖の霊が宿っているということでずっと裏声でしゃべってる。お兄さんの裏声の笑い声が面白かったが、笑ったらダメそうな雰囲気だったので我慢していたが、後ろの方である先輩が大声で爆笑していた。僕たちのメンバーからもいくつか相談していた。あなたは目と骨が悪いのでこの米を持ち歩きなさいと言われたり、あなたの団体の未来はみなさんの頑張り次第で明るくなるでしょうと言われたり。なんか全体的に中華街の占い師みたいに無難な回答に収まっている気がした。(個人の感想です。)お兄さんは憑依されている間は昔のショナ語で話しているらしく、ブーレさんなど分かる人が英語に直したり、現代ショナ語に直してくれたりした。(ショナ語:ジンバブエの最大民族ショナ人の言葉。)日本の巫女さんの憑依みたいな感じなのかな。その後急に先祖の霊が撤退していき、元に戻った。後でお兄さんにこっそり話を聞いてみたら、憑依されてる間の記憶はないらしい。だけど、こんな感じのことを言っていた気がすると言われて、自分の占い結果をこっそり教えてもらった。(記憶あるやんけ!)「You are too clever.」らしい。”too”が気になる。気を付けます。
その後、お兄さんたちと踊ったり、家の外で雑談して回ったりと、濃い時間を過ごした。めちゃくちゃ近い距離感で話しかけてくるレイカーズのユニを来たお兄さんが印象的だった。レイカーズのユニを着てたのにレイカーズを知らないどころかバスケットボール自体知らなかった。僕はWhatsappを入れてなかったので持ってないと言って名刺を代わりにばらまいたが、女子は割と執拗にWhatsapp聞かれていた人もいた。(Whatsapp:アフリカなど海外で広く使われているLINEみたいなアプリ。)なんやかんやあってみんなで写真取ったりしてお別れ。みんな車内で一息。
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とりあえず、初日にして一番ディープなジンバブエを体験することができた。このアフリカの雰囲気に惹かれてまたアフリカを目指すことになっている気がする。
一旦憑依のことをまとめると、みんなが先祖の霊の占いを信じていて(その地区の割と偉い人も占いに来ていたし、現地でも儀式をする建物はchurchと呼ばれている)、土着の宗教のようなものを形成していた。(そういう土着の宗教がキリスト教と部分的に結びついている地域がアフリカには多い気がする。)僕は朝から酒を飲みまくったせいでそういう幻覚幻聴が聞こえてるだけじゃないかと思わなくもないが、小さい頃からそういう文化の中で育ったら僕たちが神社でおみくじを引いて結果に一喜一憂するのと同じで当たり前のことだと思えるようになるのだろうと思った。
最後にムビラの演奏者のお兄さんが言っていた言葉が一番印象的だった。「僕たちはジンバブエの中でも出身も民族も違うし、話す母語も違うし、演奏法も地域によって違う。だけど、ムビラを一緒に演奏するという共通の目的があるから仲良くなれて、今ここで一緒に演奏してるんだ。」
Youtubeで調べればムビラの演奏動画であればいつでもどこでも好きなだけ聞けるような便利な時代になった。それでも、現地まで足を運ばないと絶対に経験することのできないムビラ文化の歴史的・文化的・宗教的背景がジンバブエのハラレ郊外の村には間違いなくあった。