見出し画像

【詩】夜


<作品紹介>

1.作成時期:1994年~1996年
2.初出:徳道かづみ詩歌集『第一印象』(1998年)
3.一言:心が荒んでいる時にいろんな紙切れに走り書きしていたもの      をまとめたものです。発表する気はなかったのですが、『第一印     象』を作る際に、最後はどしっと読ませようと思い収録しました。
    すごく長いですが、最後まで読んでもらえると嬉しいです。

<夜>

自分を馬鹿だと言えるほど
賢いつもりじゃないはずさ
方程式さえ解けなくて
気をかきむしる夜もある

中島みゆきを聴きながら
冷えた心を抱きしめる
孤独と孤高を間違えて
済まし返った夜もある

生まれたことが過ちと
命の破滅を願ったね
右手にナイフを持ったまま
立ち尽くしてた夜もある

励ます言葉をかけながら
素早く誰かを追い越した
他人の不幸を指さして
安堵を覚える夜もある

行き先見えない道をゆく
不安に胸をつぶされて
それでも歩いて行く気だと
自分に驚く夜もある

「彼がすべての答えよ」と
言える仲間を羨んで
酒に溺れてゲロ吐いて
恋を探した夜もある

自分の定規を他人にあて
正義を称する奴もいる
絶対善などないことを
教えてやりたい夜もある

嘘を巧みに織り交ぜて
本音を告げてほくそ笑む
ワタシを信じている人に
太刀を浴びせる夜もある

見下していた友達が
その方程式を解いたっけ
つまらぬプライド守るため
回り道した夜もある

煙草のケムリを吸い込んで
胸のつかえをまぎらせる
生まれもしない赤ん坊の
未来を危ぶむ夜もある

手枷足枷はめられて
重い鎖を引きずった
理由は自分と知りつつも
納得ゆかない夜もある

くやしいならば泣き出して
わめきちらせばいいのにね
そうせぬ自分がはがゆくて
詩を書きなぐってた夜もある

悲しき歌を繰り返し
意味語句不明の声となる
「不肖の息子がかわいい」と
聖書を信じる夜もある

獣のごとく吠え叫び
観客のない舞台とす
台詞回しの不自然を
夜に静かに隠される

白紙に近い地図を持ち
街の戸口に立たされる
西も東もわからずに
戸惑っていた夜もある

哀切極まるメロディーに
心を寄せない夜がある
タバコの煙は消えていく
わたしが燃やして消してゆく

甘え続けたそのツケの
支払い期日がやってくる
ほこりすらない財布から
領収書を繰る夜がある

出世払いの空手形
だますつもりはないけれど
信用貸しする世の中を
裏切りたくない気もする夜

「背水の陣」お互いに
言葉にしない覚悟持ち
同じ濃度の闇に居て
夜を待たずに歩きだす

情に掉させ流されて
行き着くとこまで行こうかな
自分の手にした地図を見て
行き先確認している夜

結婚しよーか ほうやれほ
子供を生もーか ほうやれほ
キャリアも自立も絵空事
楽しく飲もうよこの夜に

誰に向かって言われたか
わからぬ言葉を真に受ける
愛・恋・あこがれそれぞれに
やり残してきた夜もある

不安の海に落とされて
もがいておぼれて苦しんで
誰もが感じる痛みなら
耐えらえること気づく夜

眠りの沼に落ちるだけの
夜を重ねる けれどいつか
「夜」を並べた詩を読んで
泣き出すこともあるのだろうか

隣の芝生は皆青く
行けるとこまで追ってみる
最終地点の芝の上
いつもと同じ夜が来る

ごまかし笑いを見破られ
立往生した頃もある
素直に涙を流しても
白々しい気がしている夜

歩き疲れて休む宿
出されたお茶さえ疑って
飲むふりをして床に撒き
おいしかったと告げる夜

静かな闇に響く声
愛想笑いと嘘八百
それが心の和みなら
真実となる夜がある

矛盾を含んだ願望を
恥じて笑った衣ある
それを肯定することを
教えてくれた夜もある

比較でモノを考えて
浅ましき身と省みる
絶対価値などないことを
夜に優しく諭される

嘘をつかずに話しては
自分を偽る心地する
落ち着き澄ましていることを
強要している夜がある

心の高揚抱えては
同じ深さの失意受く
眠れぬままにいる割れの
背後に迫る夜がある

己に与えた役割を
忠実至極に演じきる
されど拍手の来ない夜
湿気た煙草をふかしてる

さみしいことはそれぞれに
地獄へ行くのもそれぞれに
道は自分で選ぶよと
夜に確認させている

最初の一歩を踏み出せば
ゴールに続き道を知る
弾みし心を抱く日は
夜に住せぬ我を見る

朝陽の昇世界へと
続きし道と気付く時
わたしを包みしやわらかき
夜の重みを喪失す

(終)



いいなと思ったら応援しよう!