かづみ的作句法vol.2:下六について
川柳の基本形である五・七・五の最後の「五」を六音にすることを「下六」と言います。
これに関しては「やってはいけない下六」と「下六の押しというテクニック」の二つがあります。
まずは「やってはいけない下六」からお話しましょう。
これは「名詞(体言)の下六」です。六音の名詞で終わることはなるべく避けましょう。何故かと言うとリズムが悪くなるから、それだけです。
たとえばこんな句(例はいま適当に作っています)、
風になる約束をした運動会
名詞の下六で終わると散文的な印象になります。韻文としては残念な結果です。このような場合は、「運動会」を上五に持っていくか中七に持ってきてどうにか出来ないか探ってみます。ちなみに、上五は大きくなっても中七・下五を保てばリズムが悪くなることは少ないです。
(上五に持ってきた場合の例)
運動会で風になること約束す
(中七に持ってきた場合の例)
約束の運動会で風になる
若干句意は変わりますが、リズムは良くなったと思います。
わたしも六音の名詞を使いたい時は、大抵この作業を行います。
では、名詞の下六は絶対に禁じなければならないことでしょうか。
そんなことはありません。作者がそう作りたいと思えばそう作ればいいのです。わたしの句にも名詞の下六はあります。
知り合いに会わない店のジンリッキー 徳道かづみ
この「ジンリッキー」は、名詞の下六を避けるために変えることは可能です。「生ビール」でも「ジンフィーズ」でも、句としては成立します。
しかし、大切なのは作者がそう作りたかったという思いです。
わたしは普段はジンリッキーは飲みません。しかし「知り合いに会わない店」=「行きつけの店ではない場所」では、飲むものも普段とは違えてみたかったのです。読者は当然そのことは知りません。わたしがいつもはジンリッキーを飲まないなんて情報はどこにもないのです。
だから、そこからは句をまるごと読み手に委ねるしかありません。人によっては「名詞の下六で終わっているからリズムの悪い句だな」と思うこともあるでしょう。作者としては「そう思ったのなら、そう思ってもらって大丈夫です」という心構えでいることが大切です。
ちなみに、ジンリッキーがレモンをマドラーで潰しながら飲むカクテルであることを踏まえて、ある先輩作家はこの句を「大切な人を待っている時間を大事にしている感じが出ている」と読んでくださいました。「名詞の下六」はリズムが悪くなるから…といって描きたいことを曲げることはありません。書きたいことを書いたら、読者を信じることです。
次は「下六の押し」についてです。
これは、下五に一字添えることで句の意味を重くしたり強めたりすることです。この例は時実新子『川柳 添削十二章』(東京美術)から引きます。
(定型)
嫁ぎ先にも菜の花がいっぱいだ
(下六の押し)
嫁ぎ先にも菜の花がいっぱいだぞ
妹が結婚していく兄の心情を詠んだ句ですが、「定型」では菜の花に託して漠然とした祝福を表した印象ですが、「下六の押し」では「ぞ」を加えることによって妹への呼びかけに変わり、兄の温かみが伝わってきますね。
わたしは定型好きなので、自句の下六の押しを使った例がないのですが、定型で作ったあとに「何か弱いな」と感じた時、一字添えてみることは考えてみてもいいかもしれません。句の印象を変えることが出来るかもしれないです。