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古川柳かづみ読みvol.6:テーマ「可愛いらしい娘さん」

 また少し痛い内容がちらほらしていますので、生温かく笑ってください。


▽まえがき

 かづみ読みも六回目となりますが、何か世知辛いテーマばかりでお送りしていることに気付き、今回は「可愛らしい娘さん」をテーマにいってみたいと思います。そうですよ、こういうテーマをすぐに思いつかないところが、ワタクシが縁遠くなっている要因なのですよ(それだけか?)。

▽笑つて見ぷんとして見る鏡の間

 十代の頃を思い出してみましょう。色気づいてくると、自分の容姿が気になって仕方ないお年頃。あら、こんなところにニキビが! 前髪はこう分けた方が可愛いかな…。そして、密かに思うあの人にこんな笑顔はどうかしら? ちょっとすねて見せるのもいいかもしれない…などと、鏡の前での百面相。身に覚えがあるでしょう? 傍から見たら「どれもそんなに変わんねーよ」と言いたくなるものですが(って、こういうコメントを書いてしまうのがいけないのね)。

▽よろこびをいはれて袖を縄になひ

 婚約が調った娘さんの姿。ご近所の皆様に「聞いたよ、おめでとう」と言われるたびに「いやぁ~」と頬を染めて、袂をくるくると巻いて身をよじって恥じらう。可愛いですね。嫁き遅れの目には「純情ぶってんじゃねーよ」と映るものですけどね(だから、こうゆうコメントやめましょう、自分)。

▽すがほにて惚(ほれ)られたのはつよみあり

 お江戸の時代から「素顔マジック」はあったようですね。「素顔の君が一番素敵だよ」なんて、男に言われて喜ぶ言葉マジック。ケッ(あ、またヤサグレが入ってる。注意注意)こけおどしの化粧などに惑わされずに、素のままに惚れられるというのは、確かに強みです。

▽重けれど嬉しき人の膝枕

 軌道修正。膝枕、いいですよね。わたしも<ゆっくりと愛していこう膝枕>などと作ったことがあります。二十代半ばの頃だったかなー。若かったなー(遠い目)。
 膝枕って、枕にしてる方はいいんでしょうけど、されてる方って結構大変なんですよね。正座してないといけないから、足しびれるし(あぐらで膝枕はしないですよね)。って、現実的になってはいけない。嬉しき人の重みを感じる心を忘れてはいけません。
<よひ時分おこしませうと膝枕>

▽ならぬ恋床につくのは古風なり

 平成の現在からすると、恋が叶わぬだけで床につくのは明治か大正か…と思ってしまいますが、江戸時代ですでに「古風」だったとは。じゃあ、恋を胸に抱いて病むのが普通だったのって、いつ頃なんでしょうね。平安時代? 奈良時代? 縄文時代まで遡らなきゃいけないのかしら? 恋を貫くためには、床についてる場合じゃない!と娘さんたちが気付いたのは、かなり昔からのようであります。

▽来ぬ君の科(とが)を枕にいふは無理

「今夜逢いに行くよ」と言われて、枕を二つ並べて待っていたのに、男は来ない。「なんで来ないのよ。嘘つきっ」と、不要になった枕を叩いている娘さん。叩かれた枕の方こそいい迷惑です。約束は守らないといけませんね。

▽淋しさよ 打(ぶつ)の抱いつの長枕

 こちらも、枕は打たれてます。枕さんも大変だ。しかし、打たれた後に、ギュっと抱き締められて、責められてるのか愛されてるのか、一層困惑する事態です。枕さんは、不在の男の身代わりになってきたのです。身に覚えのある男性陣、枕を粗末に扱ってはいけませんよ。感謝するように。

▽指切りをしても腐れう君が指

“約束の指をからませたら、愛しい恋人の指が自分の毒によって腐ってしまう”という意に読むらしいです。約束をして、その約束が果たされない時、約束を破られたことを責めるのではなく、そのことで腐ってしまう相手の指を心配しているのですよ。なんたる純情。
 でも、解せますか? 解せませんね。女性陣の皆さま、ご唱和願います。
「そんな男の指なんて放っておきなさい!」

▽指ぬきを男が当ててをかしがり

 恋人たちの戯れの句。娘さんが縫い物をしている時に、男が指抜きを自分の指に当てて「小さいなあ、俺の指には入らないよ」などと、笑っているのでしょう。

▽睦言を聞(きい)て盗人(ぬすびと)舌を出し

 恋人たちの逢瀬の会話は、他人には聞いちゃいられない馬鹿馬鹿しいものでしょう。うっかり聞くはめになった盗人が舌を出したい気持ち、わかります。まあ、盗人に入ってるなよ、というツッコミも入れますが。

▽美しい顔より虚言が見事也

 遊女の句。だけど、世の娘さんたち、女は顔より手練手管ですよっ。出来てない見本が、ここにいますよ!

現代川柳研究会「現代川柳」2013年3月号掲載分を加筆修正
#川柳 #古川柳 #古川柳かづみ読み #徳道かづみ

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