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データから考える 日本と韓国の民主主義

韓国の戒厳令を契機とした一連の動きに連動して、Xでは日本と韓国の民主主義に関する様々な発言が見られました。

突如発令された戒厳令に対抗し素早く行動した韓国市民の行動を、
民主主義として高く評価するもの、そもそもそのような事態を起こしてしまった韓国の民主主義を不安視するもの、デモなど制度外の政治行動が低調であることから日本の民主主義を不安視するもの、両国の民主主義を比較し優劣を言うもの。

あまりにも多様な視点から意見が入り乱れていました。
そこで、話題になっていた論点を中心に、資料を参照しながら状況を整理してみたいと思います。


1. 韓国と日本の民主主義の評価 ーフリーダム・ハウス 自由度スコアー


Xを飛び交っていた意見は、いずれも各自の主観から述べられたもので、どのような評価基準に基づいているのか不明なものが多かったように思います。

そこでまずは、民主主義に関する客観的な指標として、フリーダム・ハウスの自由度スコアを確認してみます。
フリーダム・ハウスは1941年設立の国際NGOで、毎年193の国と地域に対して自由と民主主義に関する調査を行い、レポートを公開しています。

フリーダム・ハウス
https://freedomhouse.org/

自由度スコアは、各国の自由度や人権状況を表すもので、民主主義の定着状況を把握することができます。様々な研究や書籍に引用されていますので、ご存じの方も多くいらっしゃると思います。

さて、こちらで日本と韓国のレポートを確認してみます。

日本


韓国



詳細はリンク先をご覧いただきたいのですが、日本と韓国の総合評価はいずれも「自由」(最高評価)です。
このスコアを参照する限り、韓国(83/100点)の民主主義が不十分だという評価も誤っていますし、日本(96/100点)の民主主義が未成熟で骨抜きだという評価も誤っています。両国の民主主義は高く評価されています。

全部で25ある評価項目のうち、日本が満点を逃したのは以下の項目です。

・自由で独立したメディアはありますか?(3/4点)
 減点要因:放送法4条、記者クラブ、ジャニーズ問題

・法律、政策、慣行は、人口のさまざまな層に対する平等な扱いを保証していますか?(3/4点)
 同:被差別部落、アイヌ、女性、朝鮮・中国系少数民族、ジェンダーマイノリティ、難民への差別

・個人は、結婚相手や家族の規模の選択、家庭内暴力からの保護、
外見のコントロールなど、個人的な社会的自由を享受していますか?
(3/4点)
 同:夫婦同姓義務、同性婚不可、DV保護不十分

・個人は機会の平等と経済的搾取からの自由を享受していますか?
(3/4点)
 同:長時間労働、非正規、ジャニーズ問題、技能実習制度、商業的性搾取

フリーダム・ハウス 自由度スコア 【日本】

韓国を見てみると、上記の項目はすべて日本と同スコア(3/4点)でした。その他では、停戦状態にあることから生じている評価が多いのですが、汚職・透明性に関するスコアが2/4点と特に低いスコアであること、法の支配に関する項目が4件ともすべて3/4点であり、低めの評価を受けていることが特徴的です。


2. 気質の違いと民主主義の違い ー世界価値観調査ー


どちらも「自由」である両国ですが、その性質には個性があります。
その性質の違いが今回の論争の原因になっていたと思うのですが、話者によって両国の性質の理解が異なっているように感じられました。

そこで、第7回世界価値観調査(2017~20年)の結果を参照してみましょう。
世界価値観調査は、価値観に関する最大規模の国際的時系列調査で、120カ国の累計約40万人の回答がもとになっているものです。
各国の価値観について考えるうえで、とても参考になります。

世界価値観調査


日本の調査結果レポート

https://qos.dentsusoken.com/wp-content/uploads/2022/07/%E3%80%90%E4%B8%96%E7%95%8C%E4%BE%A1%E5%80%A4%E8%A6%B3%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%80%91%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E6%AF%94%E8%BC%83%E3%83%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%8820220727revised.pdf


日本の調査結果レポート(Appendix)

https://qos.dentsusoken.com/wp-content/uploads/2021/03/%E3%80%90%E4%B8%96%E7%95%8C%E4%BE%A1%E5%80%A4%E8%A6%B3%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%80%91%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E6%AF%94%E8%BC%83Appendix20210312.pdf


(1)自由と安全

自由と安全のどちらが重要か?という項目において、
韓国は42.9%が自由を、57.1%が安全を選んでいます(48か国中、自由重視8位)。
一方日本では、自由を選んだのは13.6%、安全は82.3%(同42位)です。

安全な暮らしに責任を持つべきは国か、個人かという項目でも、
日本は76.6%が国を選んでおり、(国が責任77か国中5位)です。
韓国で国を選んだ人は51.9%(同37位)です。

日本はとても安全を重視し、国がそれに責任を持つべきだと考えています。

これまでの世界価値観調査の結果をまとめた本『文化的進化論』によると、戦乱等で国が不安定な状態におかれていると人々は生存(安全)重視の価値観になり、安定していると自己表現(自由)重視の価値観になるのだそうです。

文化的進化論

生存重視の価値観においては人々は防衛的で不寛容になり、強いリーダーを求める。一方、自己表現重視の価値観では、多様性に寛容になり、恭順さが薄れ、自分にかかわることには大きな発言権を要求する。
なお、価値観の変化にはタイムラグがあり、社会の変化から40~50年たったころに、価値観の変化が起きるとされています。
社会が変化し、安定した経済発展が実現されると、価値観が変化する。価値観の変化を受けて民主主義が実現されます。

調査結果の分析から、日本は「自己表現重視の価値観に対し民主主義が供給過多」、つまり制度として民主主義は実現されているのに、安全重視の価値観が過剰に残っている社会だとされています。
これは日本の特徴的な価値観といえるように思います。

(2)政治の重要度・関心

政治があなたの生活にどの程度重要か?という項目において、日本は重要と考える人の多さが77か国中6位。他国と比較して、重要視されていると言えます。
同項目において韓国は7位。日本と並んでいます。
韓国と日本は同程度、政治を重要と考えています。

これが「政治への関心」を問う項目になると、結果が変わります。
日本は77か国中8位ですが、韓国は35位。
結果を見ると、日本の方が関心が高いようにみえます。
何をもって「関心が高い」と考えるのかの基準が違うのかもしれません。
重要度と関心でこれほど差が出るのが不思議です。
これが何を意味するのか、とても興味深いです。

(3)権威と従順さ

権威や権力が尊重されることを良いと考えるかどうかを問う項目では、日本はなんと77か国中最下位、良いことと考える人は1.9%しかいません。
韓国も76位で日本と並んでいますが、良いことと考える人の割合は18.1%です。
他国のデータと比べてみても、日本のこの結果は特異なもののように見えます。日本人は権威や権力を特に嫌っています。

民主主義において国民が為政者に従順であることが必須かという項目では、必須ではないと考える割合が日本は77か国中5位 (67.2%) 、韓国も6位(66.4%)です。こちらは近い結果が出ています。
両国とも、国民に従順さが必要であるとは考えていないようです。

(4)政治参加

Xでは、この論点が最も関心を集めていたようにみえました。
友人と政治の話をする頻度を問う項目では、日本はよくする・する人が51.4%で47か国中39位、韓国は76.2%で7位です。
日本では避けられているとよく聞きますが、過半数が「する」と答えていることに改めて考えさせられます。

以下、各政治行動の経験について、両国のデータをあげていきます。

①政治団体での活動(48か国中)
 日本:43位(1.4%)
 韓国:36位(1.8%)
②ボイコット(77か国中)
 日本:70位(1.9%)
 韓国:44位(4.7%) 
③平和的デモ(77か国中)
 日本:69位(5.8%)
 韓国:47位(10.2%) 
④ストライキ(77か国中)
 日本:40位(4.1%)
 韓国:61位(2.2%)
⑤政治情報のネット検索(47か国中)
 日本:29位(16.8%)
 韓国:21位(18.6%)
⑥電子請願書への署名(46か国中)
 日本:40位(2.9%)
 韓国:20位(7.4%)
⑦他の人へ政治的行動を促す(45か国中)
 日本:39位(2.5%)
 韓国:35位(3.1%)
⑧政治的・抗議行動の組織(45か国中)
 日本:42位(0.8%)
 韓国:33位(2.5%)

第7回「世界価値観調査」レポート Appendixより

データをご覧になっていかが感じられましたでしょうか。
日本の政治参加が低調なのは良く知られている通りですが、ストライキなど中位の項目もあります。
また、韓国の参加状況は予想と合致されましたでしょうか。

本調査の時期は日本が2019年、韓国が2017~18年です。
数年前なのでこの間に傾向が変わっている可能性もあります。
社会の分断が進むとデモ等の政治行動への参加が増えるとのデータがあります※1ので、近年の分断の深化が影響を与えている可能性は十分にあります。

(5)参考:社会の分断状況

社会の分断の状況については、キングス・カレッジ・ロンドン政策研究所のレポート(2021年)が見つかりました。

https://www.kcl.ac.uk/policy-institute/assets/culture-wars-around-the-world-how-countries-perceive-divisions.pdf


同レポートを引用した記事


社会の分断状況について28カ国で調査した結果がまとめられているのですが、なんと12項目中の7項目で、韓国が首位になっています。韓国は、自国が分断されていると考える人がとても多いようです。

"韓国が1位だったのは、
「富裕層と貧窮層(91%)」
「男性と女性(80%)」
「大卒と非大卒(70%)」
「若者と年長者(80%)」
「宗教間の分断(78%)」
そして「保守と進歩(87%)」
「異なる政党支持者間の分断(91%)」の6項目だ。
他にも3つの項目(「大都市エリートと労働者」「社会階層間の分断」
「都市と地方」)でトップ3に入っていた"

世界最悪の左右対立…データで見る「分断社会」韓国との付き合い方


よく分断が話題になるアメリカですが、韓国よりも高いスコアが出ているのはエスニシティと移民の項目のみ。
韓国の市民は分断を深刻なものと捉えていることが分かります。

なお、日本はいずれの項目でも下位にいます。
日本でも分断が懸念されていますが、少なくとも数年前においては、他国よりも分断の程度はゆるやかであるようです。

また、世界価値観調査のデータは全年齢のものですので、年代を限定すると違う傾向が見られるかもしれません。


3.気質の違いと民主主義の違いその2 ーアジアンバロメータ調査ー


もう一つ別の調査を見てみましょう。
アジアンバロメータ調査は、アジアの20の国と地域において、経済状況社会関係資本、政治参加、党派性、伝統主義、制度への信頼などについて調査されているものです。

アジアンバロメータ調査

https://www.asianbarometer.org/index

こちらの調査を参照した論文に参考になりそうな記述がありました。
「アジア的価値観」と「統治の不安」との関連性、また民主政治へのインパクトについて検討されています。

前編

後編


「アジア的価値観」とは、
垂直性強調(パターナリスティックな政治的志向性:上下関係の重視)と
調和志向(調和を押しつける志向性:和の重視)の二次元から成るとされています。

日本と韓国両国において、アジア的価値観はどの程度影響力を持っているのでしょうか。
そしてそれは民主主義にどのような影響を与えているのでしょうか。

アジア的価値観調査のうち、統治の不安にかかわる項目として以下5点(これを2種に分類)が挙げられています。

「垂直性強調」として、以下の3項目。

・政府のリーダーたちは家長のようなもので、われわれは彼らの決定にすべて従うべきだ
・社会の中で特定の思想を議論してよいかどうかは政府が決定すべきだ
・倫理的に正しいリーダーには、すべての決定をゆだねることができる

統治の不安と日本の民主主義(上)アジア的価値観のもたらすインパクト-


「調和志向」として、以下2項目。

・人々が多くの団体を組織すると、地域の調和が崩れるだろう
・もし人々の考え方があまりにも多様すぎたら、社会は無秩序になるだろう

統治の不安と日本の民主主義(上)アジア的価値観のもたらすインパクト-


論文中のデータを見ると、日本・韓国両国ともにアジア的価値観は弱く、統治の不安は強いとされています。

垂直性強調
日本:下から2番目
韓国:下から3番目

調和志向
日本:下から3番目
韓国:下から2番目

統治の不安と日本の民主主義(上)アジア的価値観のもたらすインパクト-


国の民主主義度が高いほど統治の不安が高くなるので、日本・韓国は民主主義度が高いにも関わらず統治の不安が高い典型的な民主主義国であるといえます。

調査結果によると垂直性強調も調和志向も低いのに、なぜ「日本人は権力に飼いならされている」「強く自己主張しない」といった意見が出され、多くの人がそれに同意しているのでしょうか。そして韓国も日本とスコアにおいては変わらないのに、違った印象を持たれているのはなぜでしょうか。

ひとつの推測として、日本は、民主主義への支持は高く、自己表現重視の価値観は持っているのに、それが積極的な政治行動に結びついていないからということが考えられます。

もう一つは、論文中で指摘されていることですが、全体としては少数であるにもかかわらず、与党支持者にアジア的価値観支持者が多いので、多数を占めているように見えてしまっているということが考えられます。

日本人のアジア的価値観の支持度は両次元とも最弱に近いにも関わらず、日本も他の多くのアジア諸国と共通に、統治への不安はアジア的価値観のインパクトを受けています。

日本では民主的統治度が十分でないと認識する市民は少数派ですが、彼らの統治の不安はアジア的価値観(上下関係や集団内の調和)支持によって軽減されています。
そして、これらの人々は、政権政党の自民党投票者に多いのだそうです。
自民党を支持するほど統治の不安が低く、アジア的価値観の垂直性強調も調和志向も強い(でも人数としては少数派であり、与党支持者の多数を占めているわけではない)。

価値観では民主主義と両立しない垂直性強調や調和志向を持つ市民が与党支持者に多い一方で、彼らは政治制度として非民主主義的な制度へと志向しているわけではないことも示されています。
上下関係を重視し集団内の調和を要求し、異論を好まなくとも、一党制や軍事独裁、あるいは議会や選挙のない社会は望まない。

日本で民主主義は広く支持を得ています。
全体から見ると ”7割ほどの多数派がリベラルな民主主義を強く選好” しているのだそうです。


4. 市民の様々な意見


これらの調査結果をふまえ、Xでみられた様々な意見について考えていきます。

(1)韓国の民主主義

各種調査を参照すると、韓国の民主主義は未熟であるとはいえません。
一部に未熟だとする声が見られましたが、安全(低リスク)を重視する日本の価値観から、変事が起きたことを少々過大視して捉えたものではないかと思われます。

逆に、理想的だとする声も見られました。
フリーダム・ハウスのスコアを見る限り、これは制度面の充実度を軽視し、政治参加の程度と価値を過大視したものではないかと思われます。

各種政治行動は日本より活発で、平和的デモの参加率は日本が5.8%であるのに対し10.2%ですが、フランスの40.8%、アメリカの16.9%に及びません。(2017~2020年)


(2)日本の民主主義

日本の民主主義もまた、未熟であるとはいえません。
一部ですが、日本の民主主義に対する韓国の市民の声として、日本の民主主義は市民の手で勝ち取られたものではないから本物ではないといったものも見られました。
これも、日本における各種制度の定着・支持の軽視と、政治参加の効果の過大視があるように思われます。

日本の民主主義を理想的だとする意見は私の観測範囲では見られませんでしたが、現存する課題の数々を認識していればそのような評価には至らないと思います。

以下、細かな点についても確認しておきます。

①日本人は政治に関心がないのか?
他国と比較しても政治への関心は高いほうです。

②日本人は権力に従属的なのか?
日本人は他国と比較して顕著に権力を嫌っています。

③日本人は同調圧力に弱いのか?
アジア諸国と比較すると、同調を求める力は弱いほうです。

④日本人は政治行動に消極的なのか?
日本人は高い関心にもかかわらず政治を話題にせず、
デモ等の制度外の政治行動はあまり行われません。



5. 日本人の政治行動が低調な理由


日本における政治行動の低調さを憂慮する声は多く見られました。
そこで、なぜ低調なのかについて考えてみましょう。

(1)政治的スキル

『文化的進化論』によると、積極的な政治参加の予測要因は、教育や社会階級よりも、政治スキルであるのだそうです。自主的な判断を求められる環境(仕事)にあると、政治領域の意思決定に参加するスキルを備えていることが多い。つまり、社会において自主的な判断・表現を求められる場面が多くなかった(価値観の変化には数十年のラグがあります)ため、民主主義を高く支持していても政治的行動に結びついていないのかもしれません。

(2)社会の分断

こちらの資料では、政治参加の促進要因について調査されています。

"投票に行くかどうかという制度化された政治参加には、国が民主的に統治されていると認識するほど投票するという度合いは高い"

「統治の不安と分断がもたらす政治参加」池田謙一

"これと対照的に、投票以外の政治への関与を示す投票外参加、つまり誓願書の署名、寄付やカンパ、地域ボランティア参加、政治家や役所との接触、市民運動・住民運動への参加、デモ参加などの行動に対しては、統治の不安の高さや対立の認知が強いことが促進要因"

「統治の不安と分断がもたらす政治参加」池田謙一

アメリカや韓国は政治的分断が進んでいると言われています。
今後日本も社会の分断が進めば、制度外の政治参加が増えていくのかもしれませんが、分断の深化が良いことであるとはあまり思えません。


(3)リスク回避

日本人は安全を重視しリスクを回避する傾向が強いとの調査結果がありました。
アメリカとの比較である場合が多いですが、日本はトラブルを予防しようとして、アメリカはトラブルに適切に対処できるようにする、と言われます。訴訟リスクを極力排除していくのか、訴訟に勝てるように準備するのか。

日本は問題が起こらないように万全の準備をして臨もうとする傾向があります。問題が起きたら都度迅速に対応するというより、再発防止策を考え予防しようとする。
制度外の政治行動で対処するよりも、比較的安全な制度の充実に関心が高いといえるのかもしれません。


(4)政治への恐怖感・軽蔑度、対立を忌避する傾向、自己閉塞性、ニリヒスト性

「日本人の積極的政治参加を 阻害する心理要因に関する研究」という論文があります。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejipm/78/6/78_II_574/_pdf/-char/ja


これによると、積極的政治参加の向上に効果があるのは、
「政治への恐怖感・軽蔑度の低減」
「対立を忌避する傾向の低減」
「自己閉塞性の低減」
「非ニリヒスト性の向上」とされています。

とりわけ「自己閉塞性の低減」「非ニリヒスト性の向上」は誠実な政治参加を増やします。
これらの要因も、政治行動の消極性に影響しているようです。
(各項目の詳細は次項に記載します)


6.日本の政治行動のこれから


前項から、日本で政治行動を増やすためにできることとして、政治的スキルの向上、政治への恐怖感・軽蔑度の低減、対立を忌避する傾向の低減、自己閉塞性の低減、非ニリヒスト性の向上が考えられます。
安全志向を変えるのは難しいでしょうし、分断の深化は望ましいことではありません。

政治的スキルの向上方法は、教育が考えられます。
昭和の教育と令和の教育はずいぶん変わりました。
未熟ながらも「自分の考え」を求める方向性に変わっています。
教育に限らず社会も変わりつつあります。
社会において自主的な判断・表現を求められる場面が多くなれば、数十年後に、価値観と行動が変わっていくのかもしれません。

政治への恐怖感・軽蔑は、政治運動が逸脱行動(犯罪)と結びつけられることによって生まれます。『市民的抵抗』という本でも、市民運動が逸脱行動を伴うと参加者が減り、成功率が下がることが指摘されていました。既存の政治運動を逸脱的でないものにすることがこれらの低減に役立つのではないかと思われます。



対立を忌避する傾向は、他人との感情的摩擦を避けようとする態度です。
これは対立をおこさずに他人と話すことができる経験(教育の場での討論練習など)が得られれば、またそれを多くの人が共有していれば、低減するのではないかと思います(難しいですが)。
また、既存の政治運動が感情的摩擦を伴っていると忌避傾向を促進させるので、すでに活動している人が感情的摩擦を減らすことが効果的であると思われます。

自己閉塞性は、社会全体への関心、つながり、責任感が高まることによって低減する。
教育や質の良い情報の供給が役に立つように思います。
たとえば、高校では公共が2022年度から必修化されました。
差別、ジェンダー、その他の社会問題について、学校で取り上げられる機会も増えています。

非ニヒリスト性は、社会への希望をもたらすポジティブな情報を積極的に流通させること、良い変化への可能性を示すことが有効だと思われます。


社会の変化から価値観の変化までは数十年かかるという調査結果が出ていましたが、昨今の社会を見ると、変化は徐々に早まっているように感じます。
変化は緩やかでも、分断を起こさずに多くの人が負担なく行動できるような策を考えたほうがよいと私は思います。
小さな取り組みの積み重ねで、緩やかに若い人たちの行動が変化していくことを期待します。


7.まとめ


ここまで、日本と韓国の民主主義について、現状と背景にある価値観を確認し、様々な意見の検証、政治行動を活発化させる方法についてまとめてみました。

日本と韓国の民主主義にはそれぞれ個性がありますが、韓国には有事に対抗できる強さがあり、日本には有事を起こさない強さがあるのではないかと思います。
制度面の安定と充実という長所を大切にしながら、私たちの力の及ぶ範囲で、よりよい社会を目指していけたらよいのではないかと思います。

最後まで読んでくださった方、長文にお付き合いいただき誠にありがとうございました。




※1
統治の不安と分断がもたらす政治参加


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