【南房総インタビューvol.5】地元住民に聞く、台風被害とボランティア活動~静月荘さん~

 今回は、南房総富浦にある民宿の「清月荘」さんに、2019年時の台風の際の、地元民の生の声を伺うために、インタビューさせていただきました。

15号台風がもたらした被害

ーーーーインタビューよろしくお願いします。早速なのですが、昨年の台風時の被害のことをお聞きしてもよろしいでしょうか。ーーーー

静月荘さん:はい、分かりました。ちょうど15号台風が来て、かれこれもうじき1年ですよね。だいたい、やる気のある人たちは、6月に枇杷(びわ)が集中的に成るので、それを契機に盛り上げていこうという形に動いていたのだけど、15号台風のせいで、この先20年はダメだろうと言われているんだよね。

ーーーー木自体がダメになってしまったということですかね。ーーーー

静月荘さん:そうそう、風で土ごと山が崩れて。今でも、ちょっと雨が降る時は崩れる危険がのこってるんだよ。枇杷の木のある山へ上がれない人がまだたくさんいるの。

ーーーーその山の修復とか道の整備はまだ進んで無いんですか?ーーーー

静月荘さん:付近の道はなんとかいってるんだけど、木のあるとこは絶壁になってるから、それがもう土が崩れて岩盤がでちゃって。

ーーーー結構危ない状態になってるんですね。ーーーー

静月荘さん:土と枇杷の木が一緒になって崩れかかってるから、触れないの。だから木をそのまま置いちゃってるから、道が通れないんだよね。だから結局、この後も枇杷作りをしようって人は、新しく木を植えてやろうって言ってるんだけど、納得いく枇杷の木がなるまでは20年かかる。被害になってないところもあるのと、ハウス枇杷が残ってるから、多少は残ってるけど、枇杷の産地は20年は厳しい状態だね。ここの枇杷は日本一の生産量を持ってるんだけどね。それがやられちゃうと、これからは中国とかから輸入で入ってきて、日本の枇杷の生産は勝てなくなっちゃうかな。今は日本の枇杷がピンチ。

ーーーー台風の影響で特産物も大変な状況なんですね。ありがとうございます。
今日は台風被害の現場っていうのが1番お聞きしたかったんですけど、台風直後の状況もお聞きしたいのですが、その時の清月荘さんが被った被害というのはどういったものがありましたか?ーーーー

静月荘さん:うちは全部被害受けたんだけどさ、めちゃくちゃに。
15号台風っていうのは、小さな台風だったんだよね。それで、木が倒れたり、折れたり、あるいは雨戸が飛んだりするような大きな台風は、昭和24年のアイオン台風以来は経験してなくて。かといって、台風が来ない場所かといったらそうでは無いから、地元の人は台風がどこに上陸するかで、「この台風は大丈夫だ。」とか読んじゃうわけなんですよ。一番ひどいのが、南房総の神奈川寄りを通る台風は風が吸い込まれていくタイプだから警戒するわけですよ。太平洋側を走るタイプは、一回りしてでていくタイプだから、あんまり警戒しないんですよ(笑)
そういう感覚で見てる。15号台風の時は、1個前の14号台風が大きかったから、15号は小さいだろうと予測されてて、みんな安心してた。14号の台風でも、その時にも海岸に近い何軒かの家が結構やられちゃったんですよ。ただね、15号は夜中の23時頃にいきなり大きくなったんだよね。だけどその時にはみんなもう寝ちゃってて情報が伝わらなかったのよ。私自身も、夜中の2時にいきなりドーンて音がして、私の寝てる隣に、風で飛ばされたものが天井突き抜けて落ちてきてて。

ーーーーうわっ、ほんとに危ないですね。ーーーー

静月荘さん:天井に大きな穴が空いちゃってね、雨がザーッと入ってきて。飛び起きて次の部屋に行ったんだけど、もう次の部屋にも雨がザーッと中に入ってきちゃって。でも、それも夜中の3時には通り過ぎちゃったんだよね。

ーーーーそんな短時間だったんですね。ーーーー

静月荘さん:そうそう。それから恐る恐る外に出たらね、テラスが吹き飛ばされて窓をぶち抜いちゃって、それでそのまま、この家の奥のお風呂場まで飛び越しちゃってた。それで、もう一個の家の方に、パイプの小屋があったんだけど、それが丸ごと持ち上がって二階にぶち当たって、それが私の部屋の屋根をぶち抜いちゃってたんだよね。それからそれがそのまま近くの桜の木をへし折って、近くのお墓を飛び越してそのまま川に落ちてったの。うちなんかは、玄関とかも合わせると、厚いガラスが11枚割れちゃって。ほんとに、相当強い風だったね。
あとは、屋根の瓦が全部吹っ飛んじゃってて、一番驚いたのは、飛んでった瓦が全部粉々になってて、それが飛んできてるんだよ。

ーーーー破片になって、それが風にのって舞っちゃったってことですかね。ーーーー

静月荘さん:そうそう。それで、うちの柱に突き刺さってたの。だから、そこに人間がいたら死んでるよね。幸い、みんな寝てたから死人は出なかったんだけど。

ーーーーなるほど。不幸中の幸いだったんですね。ーーーー

静月荘さん:まあ、そうだね。うちには9棟建物があったのが全部やられちゃって、今も最後の1棟修復中で、1年かけて全部の屋根を直せたんだよ。あとで瓦屋さんに聞いたんだけど、見た瞬間に直しようがないって言われちゃって。でも、今直してる建物が築160年の木造の建物で、そこの天井に、江戸城の絵師さんの絵が書いてあるから、それが残したくてずっと守り続けてきたから、群馬の知り合いの伝手で大工さん読んで、今回かなりの費用かけて修復したんだよね。

ーーーー専門家の人とかじゃないと、どうしようもできないくらいの状態になってたんですね。ーーーー

静月荘さん:その大工さんたちも、来てみたら新しい家がひっくり返ってるわ、屋根がない家があるわでおどろいてたけどね。我々地域の人たちも初めての経験だったし、日本でも風速70m/sなんて聞いたことないしね。電信柱とかも倒れたりするくらいだから。

ボランティアは必要不可欠

ーーーーそういう、電柱とかの修復作業って、当時はどのように進んでいったんですか?ーーーー

静月荘さん:電気は完全に停電状態だったのが、台風の3週間後に復旧したんだけど、すぐに救援に来てくれた東京の仲間たちが自家発電機持ってきてくれたから、復旧するまではそれで凌いでたね。あとは、まだお寺とかは復旧が続いてるところも結構あって、地元の大工さんが言うには、あと3年はかかるらしいね。今、大工さんの数も足りなくて、千葉の県北に行けばいるけど、その人たちも地元で仕事もあるし。

ーーーーそうなんですね。救援に来てくれた人の中には、ボランティアの方とかもいらっしゃったんですか?ーーーー

静月荘さん:うちの場合は、築160年の建物が、浄土宗の本堂だったから、その関係の人が集まってくれたね。そういう人たちが来て、集落のお寺もみんなやられてたところを手伝ってくれたりとか。
ただ、素人がやってたから、そういう修復活動とかも危ない場面とかもあったんだよね

ーーーーそういう災害時のボランティア活動も、NPOなどであったと聞いていたんですけど、その活動は十分に足りてたんですか?ーーーー

静月荘さん:こういう災害時には、ボランティアの存在っていうのは必要不可欠ですね。災害のボランティアに行った人たちが復旧グループみたいなのを作ってて、その人たちがプロ的な立場になって動いてやってくれるんだよね。ただ、中にはいい人ばかりじゃないからね笑
直しますって契約して、本当は半分も直さずにお金持って帰っちゃったりとかもあったから。

昔ながらのやり方で台風対策

ーーーーなるほど。これからも、台風は来ることが予想されるじゃないですか。ーーーー

静月荘さん:もうじききますよ。

ーーーーそうですよね、9月、10月と1番来るじゃないですか。そういう状況の中で、昨年の台風被害から考えて、地域で対策してることってありますか?ーーーー

静月荘さん:まずは、油断しないで、昔のやり方に戻るしかないでしょうね。私なんかの小さい時は、台風って言ったらみんな雨戸閉めて、雨戸に板を貼って台風に備えてたんだけど、だんだんと台風で大きな被害が出ることがなくなると、みんな気を緩めちゃって。建築物もガラスを使う部分が多くなったじゃない。それで、ものが飛んできたらすぐ割れちゃうから、19号の時はベニヤ貼ったりしたんですよね。15号の時は風が強すぎてそれでもダメだったんだけど。まあ、確かな対策があるとは言えないんだけどね。昔から住んでた人は経験である程度分かるけど、最近引っ越してきた人は分からないよね。

ーーーーこの辺では、昔から住んでる方と移住してきた方の割合はどのくらいなんですか?ーーーー

静月荘さん:新しい人は結構増えてきてますね。過疎化で地元の子たちはみんなでてっちゃうけど。あとね、今回の15号台風では、老人が住んでる古い家がめちゃくちゃやられてるんだよ。それを直そうとした時に、若者から「今更そこを直してどうすんの?」っていう意見が結構上がったよの。それで今、そういう家をどんどん壊して、空き地が増えていってる。大きな民宿やってたとこもやめちゃったり。

ーーーー話が少し変わってしまうんですけど、新型コロナウイルスの影響はありましたか?ーーーー

静月荘さん:うちのお客さんだと、3月まではまずまずいらっしゃったんだけど、4月になってからは毎月1桁くらいの人数しかいなかった。緊急事態宣言が解除されてから予約が増えてきたんだけど、第2波が来そうってなって、どんどんキャンセルが出ちゃって。7月に泊まったのが5、6人くらいかな。今までは、学生の団体客とかもこの時期に来てたんですけど、それもなくったのがかなり大きいですね。

ーーーー今は学校がかなり厳しく制限してますもんね。ーーーー

静月荘さん:そうだね。そういうのが社会の商売にもつながって、日本の地方都市っていうのは観光で成り立ってるけど、観光が動かないと地域経済が動かないじゃない。観光でくれば人口も増えるだろうし、人口が増えれば必要なものが増えるわけでしょ。それで地場産業が活性化されるけど、今はどうしようもないね。

ーーーー外から入ってくるお金が必要ってことですね。
今、台風とかコロナによって、観光を軸にやっていくとうまくいかなくなることが分かりましたよね。ーーーー

静月荘さん:そうだね。房総半島はどうなんだろうね。コロナもそうだけど、あまりにも災害が重なり過ぎた1年だったから、全く何やっていいかわかんない、災害に追いかけられて、現状で精一杯の状態だしね。私の周りには寄付してくれる人がたくさんいたからよかったけど。0からの出発になるだろうね

移住者がもたらす可能性

ーーーーそうですね。最後の質問なんですけど、ぼくたちは今回初めて富浦に来させていただいたんですけど、富浦のこういうところがいいというところを教えていただけますか?ーーーー

静月荘さん:そうだなー。昔から富浦の産業は枇杷が主流で、小金持ちが多いんだよね。季節ごとに、枇杷とか海水浴にくるお客さんとか、花の観光とか米とか、収入源がたくさんあるんですよ。だから、ここに住み着いてる人はお金に困らないかな。ただその分ばくち打ちが少ないから変化も少ないんだけどね。そのせいもあってか、誰かが新しいことを始めようとした時にあまり乗り気な人が出てこなかったり。

ーーーー消極的な方が多いんですね。ーーーー

静月荘さん:そうだねー、それが特徴ですかね。

ーーーーなるほど。何か町内会とかで、昔から住む人と移住者のコミュニティのきっかけになるものとかはあるんですか?ーーーー

静月荘さん:うちの場合は、他所から来た人にバイトで手伝ってもらったりとかしてますね。そういう移住者の人の方が積極的だから、活用しなきゃいけないね。枇杷も花も高齢化が進んでて、場所を丸ごと貸してる人が出てきたから、若い人たちがそこで趣味として始めたりもしてるね。だから、そういう点では変化してくるのかも。

ーーーーなるほど、ありがとうございました。貴重な話を聞かせていただいて、台風災害による地元の方の生活、産業への影響が非常に大きなものだったことが分かりました。ーーーー

富浦に訪れた際はぜひ「静月荘」に足を運んでください!


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