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【木の国際化】ウッドショックの現在地

一般社団法人 HEAD研究会 国際化TFは2021年5月、緊急オンライン研究会として「ウッドショックから考える木の国際化」を開催しました。
同年3月から表面化し、すでに言葉として市民権を得た感のある「ウッドショック」。この現象を通して見えてくる木の国際化を考えるためのオンライン研究会でした。

そこから一年以上経過しました。コロナ禍によるステイホームが原因のアメリカのDIY需要等を基とした、北米・欧州からの輸入木材の不足等がある程度解消されて来たタイミングでの「ロシア・ウクライナ戦争」、「急激な円安」、「合板工場火災」など国際・国内的な木をめぐる大事件が続き、木材流通の動向の見通しが難しい状況が続いています。

昨年のオンライン研究会で多面的かつ包括的な分析をしていただいた木村木材工業株式会社の木村司様に再度ご登壇頂き、ウッドショックを通じて見えてくる木の国際化のこれまでとこれからを再び皆様と考えたいと思います。
 
※本研究会は一般社団法人HEAD研究会国際化TFと芝浦工業大学建築学科プロジェクトデザイン研究室との共催です。

木の国際化 オンラインシンポジウム「ウッドショックの現在地」
講演 木村司(木村木材工業株式会社)

埼玉の北本から参りました、木村木材工業株式会社の木村司です。無垢材の造作材加工が主な仕事です。子会社の木村木材フォレスト株式会社で、山林の伐採を行っています。現在、全国工務店協会(JBN)の国産材委員会に所属しております。

私は日常的に情報発信をしています。JBN次世代の会公式グループ・木の国際化コアmtg(Facebookグループ)やJBN国産材委員会(LINEグループ)などに日本経済新聞・日刊木材新聞などの新聞記事や、NAHB(全米ホームビルダー協会)、NAR(全米不動産協会)などのウェブサイトに掲載された木材・住宅関係の記事に、私見をつけてほぼ毎日発信しています。

ウッドショックの発端は欧州材不足


結論からいうと、ウッドショックの発端は欧州材の供給不足です。このグラフは東京木材埠頭の在庫量の推移です。2020年に新型コロナウイルスの感染拡大で日本国内の建築需要が落ち込み製品価格が下落する中で、集成材メーカーは原材料の調達価格の抑制に動いて欧州産ラミナの調達価格を下げました。英国など欧州中で木材の引き合いが強まる中で唯一価格を下げようとする日本への供給は大幅に減少し、2021年にラミナ買い負け(に伴う集成材の供給減)が発生し、集成材の価格が高騰しました。

東京木材埠頭の在庫量は12~13万m3が適正とされているのですが、2020年の秋から大幅に減少し、2021年の春先1月から3月において、7万~8万m³になりました。中でも欧州材の在庫が少なくなり、注文に対して応じきれなくなりました。

プレカット最大手のポラテックさんが3月の終わりに受注制限をすると公表して、ウッドショックが表面化しました。

ウッドショックで木材がないということが、世の中をとても驚かせました。特にホワイトウッド集成管柱とレッドウッド集成平角の不足が非常に大きかったです。木材価格の指標になっているホワイトウッド集成管柱とレッドウッド集成平角の2つがないもの高を演じたことで、国産材も連れ高をしたというのがウッドショックの真相です。

実際に日本の木材輸入を調べると、約半分がヨーロッパからの輸入です。国としてはフィンランドとかスウェーデンのように分かれますが、EUでまとめると、カナダ・アメリカよりも多く輸入されています。ヨーロッパからの輸入材が足りなくなり、在庫が少なくなって満足に行き渡らなくなった結果、ウッドショックが発生したというのが真相です。

もちろん世の中で言われる通り、アメリカがウッドショックの発端になったことは否定しません。アメリカの方が高値で売れるので、ヨーロッパも日本に売らないでアメリカに売ろうという動きがありました。木材は国際商品である以上、日本だけが安くしろというわけにはいかなかったのです。

その後ウクライナ戦争が起きるわけですが、実は戦争が起きた時、ロシア材はかなり市中に余っていました。2022年の1月~2月には需要もいくらか落ちてきて、モノもだいぶ入りかなり在庫が多かったのです。値段がいくらか下がってきた状態で、消費者と問屋の決算である3月末に向けて在庫を減らさないといけなかったのですが、コストは高いのに安く売らなければいけない、要は損切りしてでも売らなければという雰囲気でいたところに起きたのが戦争でした。

戦争が起きて木材の供給不安が一挙に噴き出し、ロシア材は下げて売るどころか上げて売れたので、商社・問屋は損せずに済みました。各建材商社が今年の3月期に軒並み最高益を上げた理由の一つに、戦争が起きたからだという背景も実はあります。

林野庁. “世界における針葉樹製材の貿易”. 木材貿易の現状. https://www.rinya.maff.go.jp/j/boutai/attach/pdf/boueki_genjou-6.pdf  
(参照2022-10-08)

ロシア材 9月の入荷量が焦点に


それでは2022年8月末の現状をお話しします。まずはロシア材の赤松の話です。日刊木材新聞のロシア材商況に出ていますが、ロシア材製材品は流通在庫の過剰感が非常に強いです。ロシアによるウクライナ侵攻直後に国内の現物(実際の品物のことを指します)の確保や、現地にまとまった発注をかけた流通業者は多くの在庫を抱えています。

6月以降に入荷が絞り込まれると見られていたのですが、コンテナ事情が回復したこともあり、ウクライナ侵攻前からの受注残もまとまって入荷して、在庫の過剰感を強めました。今後の鍵は9月以降の入荷量です。中国など他国向け販売が不調でロシア現地メーカーは弱気です。しかし全国各地の港湾在庫が満杯で、日本側も新規手当ては困難です。3月以前の納期遅れ分も到着し、今後は入荷量の減少が確実視されています。倉庫に在庫が溢れ入りきらない状況ですので、発注量の大幅な減少は確実です。

ロシア産赤松は中国経由でも輸入される?


怖いのは減らした後です。過剰の後には不足が来て、不足の後には過剰が来ます。今過剰になっているので、いずれロシア材にも不足が来るというのが、自分なりの読みです。おそらく半年後だと思います。ロシア産赤松製品は中国経由でも輸入されています。7月のロシアの製材生産量は1780万m³、前年同月比-13.3%で意外に多いなと思います。

EU向けやイギリス向け、アメリカ向けの輸出は4月10日以降ありません。輸出禁止の制裁があるにも関わらず、-13.3%で止まっているのは中国向けや日本向けが出ているからです。ハバロフスクやウラジオストックなどの極東からは、中国に対して輸出しますし、サンクトペテルブルクなどの西ロシアはヨーロッパに対して輸出します。しかし、現在はヨーロッパに対しての輸出ができません。それにもかかわらず13.3%でとどまっているのは、極東からかなりの数量が中国や日本に出ているからだと考えます。

もともとロシア産木材の最大輸出国は中国です。中国やトルコなど友好国への木材輸出は変わらず続いています。日本でもロシア木材製品が禁輸対象ではなく単板だけが禁輸対象です。ただ、単板についてはロシアが8月27日に極東3港からの海上輸送に限って輸出禁止を解除しました。今後は日本にもロシア産単板が入ってくると予想されます。

日本はロシアに対して最恵国待遇を撤回したので、関税は4.8%から8%に上がり、コストアップになっています。ロシア産赤松は以前と同量ではないにしても、中国経由で日本に来るだろうというのが私の想定です。

ロシアの木材輸出の半分以上は中国向けです。ヨーロッパ向けはさほど多くないので、ヨーロッパ向け輸出がゼロになったとしても中国向けが残っていれば、極東においては大きいダメージはないと感じています。(西ロシアのダメージは大きいです)

杉の野縁はロシア産赤松を代替できるか?


ロシア材で1番多いのは40mm×30mm(関東サイズ)の野縁・垂木です。杉の野縁はロシア材赤松を代替できるかという論議がよくあります。もちろん赤松の野縁が足りない、供給が危ないということで、杉の野縁は戦争後に一変に引き合いが出ました。赤松の野縁にもA、Bというグレードがあるように、杉の野縁にも生産工場によって製品の優劣があります。
例えば栃木県に二宮木材という製材工場がありますが、二宮木材の杉野縁は側取りの芯を外した野縁です。製品市場では二宮木材の野縁は赤松と同等の品質だと評価されます。

二宮木材は野縁に試験成績表をつけて販売しています。目積みの丸太の側板で作る野縁の強度は赤松と全く変わらないそうです。この写真は二宮木材が実際に1つ1つの梱包に添付している書類です。強度試験の結果や釘引き抜きの試験結果を表示しています。

ロシア産赤松についての木村私見


ロシアはヨーロッパ、イギリス、アメリカに木質ペレットが輸出できなくなっています。実はロシアには製材廃棄物を燃やしてはいけないというルールがあり、木質ペレットが輸出できないため製材廃棄物の処理にとても難儀しているのがロシアの実情です。

西ロシアの製材量は大幅減が予想される一方で、中国や日本向けの多い極東の製材量は維持されるというのが私の予想です。今後、日本の消費者がロシア材をどう思うかは、現時点で未知数です。ザポリージャ原発を占領して何か起きるのではないかという話もあり戦況は決して良くないので、消費者がロシア産木材を敬遠する可能性が出てきても不思議はないです。野縁だけでしたら、杉で十分代替は可能です。赤松同等と評価される品質の杉の野縁が増えることに期待しています。消費者がロシアの杉の野縁を使えばロシア材を敬遠するリスク対策にもなります。

実は赤松から杉への樹種転換を1番阻んでいるのは大工さんです。私たちは杉野縁を販売するときに、大工さんに抵抗されます。1回使ってみていただくと案外通りますが、イメージとして杉はやわらかいからといった意見がありました。
しかし今は赤松より杉の方が断然安いので、お客様にとって杉を使う方が良いです。杉は赤松の販売価格の3分の2ぐらいですので、ぜひ杉の野縁を使ってほしい、そして世の中に変わってほしいということが私の願いです。

欧州材 産地の生産コスト上昇


欧州材は産地の生産コストが上がってきています。欧州産地は2022年7月に北欧、8月に中欧が夏休みに入ったことで、全体として日本向けの生産出荷が通常より減少しています。特に、2022年は第3四半期(7月~9月)の成約量が日本向けに限らず全地域で減少し、需要の失速が明らかになったことを受け、例年より夏期休暇を長くとるなどで生産調整を行う工場もあります。さらに、2022年9月以降の需要も回復は見込みにくいとして、減産継続を検討するサプライヤーも出ており、現状は世界的に減産しています。

スウェーデンでも同様に大手の会社が減産しています。金利上昇で世界的に木材需要が減少しています。また産地では世界的な原油高の影響で、トラックやコンテナ船の運賃が上昇しています。丸太価格も上げ基調が続いているので、ウッドショックが終わったら、コストが落ちて元の値段にも戻るのかと思われますが、そんなことはなく、輸入材はある程度高いところまでしか落ちないというのが自分の現状の読みです。

林野庁が発表している品目別の木材輸入量の推移です。2020年~2022年における1月~6月のEUからの製材と集成材輸入の国別です。1月~6月までのEUからの製材品輸入は前年比+34%で、2020年でも+9%。集成材だけだとEUから2021年比+23%です。2020年は±0%なのですが、ロシアからの製材品輸入だけでも去2021年比+35%上半期で伸びています。

これは供給不安対策として買った人が多かったことと、ヨーロッパからのラミナだけでは心細く、ロシアからラミナを買うという動きがありました。例えば、銘建工業がロシアからラミナを購入していましたが、戦争のために中断してしまいました。それでもなおロシアからの輸入が増えているため在庫過多が起きているというのが現状です。

在庫過多 特に欧州材の荷余りが目立つ


欧州材をはじめ、輸入製品の入荷は2022年8月も順調です。東京港の在庫は過去最高水準の状態が続いています。特に、欧州材は輸入製品の中で最も在庫が多いといわれ、荷余りが目立っています。在庫が過多で需要が低調なことから、必然的に地合いも緩んだままで引き締めのタイミングが見えてきません。価格は下がる傾向です。しかし、在庫が多い状態は買い手も同様で、安値が提示されても置き場がないという理由で、買い気が回復してこない悲惨な状態が各地で起きています。

港頭在庫は20万m³を突破 空前の在庫過多


東京木材埠頭の産地別在庫推移です。在庫総量において大体13万m³が適性と言われるのに対して2022年8月25日は21万m³でした。欧州材だけで5万m³を軽く超えているのが分かります。ロシア材も5万m³以上と非常に多く、米加材は昨年同時期とほぼ同じ数量です。

実はウッドショックの最中でも米加材は一定数量が安定して入荷していました。ヨーロッパからコンテナ事情の悪さもあって、なかなか木材製品が来なかったこともウッドショックが長引いた1つの原因です。

私たち業界関係者も、人工乾燥材が主になってからは見たことのない在庫過多です。東京木材埠頭(東京港15号地)には野積置場が62,000m3分 テント倉庫が59棟 130,000m3分あるのですが、在庫が多すぎて入りきりません。210,000m3とは、人工乾燥材やKD材が野積でブルーシートをかけられている状態を意味します。まさに空前の在庫過多です。

欧州材はロシア・ベラルーシ・ウクライナに大きく依存していた


欧州材はロシア、ベラルーシ、ウクライナに実は大きく依存しています。EUの針葉樹製材輸入の約4分の3がロシアとベラルーシとウクライナの3国です。この3国から針葉樹製材が入らない影響は大きいです。

ヨーロッパの木材総需要の10%がロシア、ベラルーシ、ウクライナから来ていました。EUから日本への輸出はEU針葉樹製材輸出の約8%しかありません。中にはロシア、ベラルーシ、ウクライナから輸入したラミナを使用してヨーロッパの中の工場で集成材生産し、日本に輸出するケースもあります。2022年の1~6月にロシアからの製材品輸入が増えたのはラミナ輸入補完用にロシアからのラミナを輸入したためです。

EUはロシアと縁を切る方向


実際、EUはロシアと縁を切る方向です。戦争開始後、EUはロシア、ベラルーシからの木材製品を禁輸しました。そして黒海とアゾフ海、つまりウクライナの南側が船舶戦争保険除外海域になりました。戦争で船が損傷しても保険の対象にならないので、ウクライナへの船便は現在止まっています。

欧州最大手の製材企業ストラ・エンソはロシア国内に2工場を持っていたのですが、操業を停止して撤退しました。メッツァグループ(フィンランドの大手林産会社)もロシア国内製材工場の操業を止めました。コンテナ大手マースクもロシアに持っていた不動産を全部売却して完全撤退しました。このようにEUの企業はロシアから撤退するのですが、
日本の木材関連企業でロシアから撤退した話はまだ聞こえてきません。日本の集成材メーカーがロシア、ウクライナから買っていたラミナは、戦争開始後の輸入見通しが立っていない状況です。

欧州材についての木村私見


EUはロシア、ベラルーシと決別して、木材輸出余力は減少します。2022年8月現在は国内の港湾、市中、ラミナ在庫ともに潤沢にありますが、今後予想される欧州産集成材入荷の大幅減少で在庫大幅減が予想されます。戦争によるインフレを受けて金利上昇が続くため、当面の間欧州内の木材需要が落ち込みます。しかし長期的にはCLT向け、木造建築向けの需要が増え続けるので、木材輸出余力は減少し続けると考えます。

今後、日本向けホワイトウッド・レッドウッドの集成材の地位は低下するので、高い値段を出さなければ輸入できない事態が予想されます。在庫が豊富で、産地に販売意欲がある今のうちに、ホワイトウッド・レッドウッド集成材から脱却して国産材など他の産地への樹種変更をすることをおすすめします。

アメリカ木材価格の推移


マスコミが報道した通り、ウッドショックはアメリカからはじまりました。ここではなぜ木材価格がここまで乱高下したのかを4つの局面に分けて説明します。

まず、①の2021年春の暴騰は、新型コロナウイルスによるものが主な原因です。ステイホームやリモートワークのために今よりも大きな家が求められ、住宅需要が一気に高まりました。同時にDIY需要も高まった一方で、コロナで販売数量が落ちると思っていた木材業者は流れに乗れず木材生産が追い付かなかったため、価格が暴騰しました。不足分をヨーロッパから輸入することで補ったため、結果的に日本への輸入数量が減少しました。したがって、アメリカでの木材価格高騰は日本におけるウッドショックの一因であったと言えます。

次に、②の2021年秋の暴落です。春の高騰を受けて、アメリカとカナダの木材生産量が高まっていった中で新型コロナウイルスの感染者数が一時的に減少したため、ステイホームやDIY需要が減少し、木材需要も減少しました。人々が目の前のフェンスを放り出してバケーションに行ってしまった結果、木材が余ってしまって価格が暴落しました。

この暴落で終わったかと思いきや、③の時点でカナダのBC州で洪水が発生しました。道路・鉄道の寸断もあってBC州の木材生産量が大きく減少し、木材の供給不安から先物価格が大きく上がり、続いて現物価格も上がっていきました。マクドナルドのマックフライポテトがバンクーバー港の物流混乱を理由にSサイズのみの販売となった時期がありましたが、木材においても物流混乱の影響は大きく、価格が暴騰しました。

今年に入り、④の時点でFRBが金利を上げたことで、住宅ローンの金利が急上昇し、住宅需要が急減しました。それに加え、旅行などのリベンジ消費が起こり、DIY需要が停滞したため、再び価格が暴落しました。

NAHB. ”Framing Lumber Prices”. https://www.nahb.org/news-and-economics/housing-economics/national-statistics/framing-lumber-prices   
(参照2022-10-08)

米住宅ローン金利急上昇


アメリカの住宅ローン金利急上昇について説明します。2021年8月時点で3%以下であった30年固定型住宅ローン金利が2022年8月時には5.55%まで急上昇しました。2%台の金利は直近10年間で最低であり、対して5%台は直近10年間で最高です。つまり1年間で最低から最高へ一気に上昇してしまったということになります。

金利上昇分だけで、30年ローン生涯支払い額は平均1,215万円増加したというデータがあります(Lending Tree調査)。アメリカの住宅ローンは9割以上が固定金利型であり、借りる時の金利が大変重要なため、金利が5.55%である現状では住宅購入に手が出ない人々が続出しています。これがアメリカの住宅需要が急減している大きな理由です。

10年国債利回り=その国の長期金利


住宅ローン金利は10年国債と連動性が高いです。長期金利といえばどこの国においても10年国債の利回りを指します。10年国債の利回りは直近上がってきているので、住宅ローン金利も上がると予想されます。アメリカ10年国債の利回りが3%を超えているので、アメリカ住宅ローン金利は5.5%を超えてきているのが現状です。

三井住友銀行. “米国債10年”. マーケット情報チャート.
https://fund.smbc.co.jp/smbchp/main/index.aspx?F=mkt_details_chart&KEY1=BUSG.10Y/USGT  
(参照2022-10-08)

米住宅市場「不況」水準に


米住宅市場は完全に不況です。不況に陥ってしまった原因を5つの指標で説明をします。最初は、NAHB(全米住宅建設業協会)の住宅市場指数です。私たちJBNは日本版NAHBを作ろうという青木宏之前会長の意向で設立されました。NAHBは会員に調査して集計した住宅市場指数を毎月発表しており、50が好不況の別れ目です。2022年7月の住宅市場指数は前月比から-6ポイントで49まで落ちました。2021年の8月頃は80を超えていましたが、たった1年でアメリカの住宅市場は劇的に変わりました。住宅市場指数の内訳は3つあり、「現在の販売状況」は57(-7ポイント)、「客足」は32(-5ポイント)、「今後の見通し」も47(-2ポイント)でした。

ジェリー・コンターNAHB会長が2022年8月のコメントで「建設コストの継続的な上昇と住宅ローン金利の高止まりは、1戸建て住宅建設業者の市場心理を弱め続けている」と述べるほど業者の市場心理がかなり弱くなっています。NAHB住宅市場指数はアメリカ住宅市場の先行指数と言われています。

米住宅着工1年5か月ぶり低水準 


米住宅着工も1年5カ月ぶりの低水準です。2022年7月の住宅着工件数は年率換算で144万6000戸であり前月比で-約10%、前年同月比でも-8.1%です。中心となる一戸建ては前年同月比-18.5%です。日本も同様で、日米ともに一戸建て住宅の着工はかなり落ちています。着工許可件数はさほど変わりませんが、住宅取得可能性(英語ではaffordability)の下落に伴ってビルダーは客足が鈍っていると報告しています。

米中古住宅販売戸数 ローン金利高く減速拍車


アメリカと日本の違うところは、アメリカは中古住宅が新築住宅の何倍も売れることです。米中古住宅販売件数も一気に落ちてきており、2022年7月の中古住宅販売数は481万戸です。前月比-5.9%、前年同月比-20.2%で、今後も前年同月比20%以上減少すると予想されます。販売価格(中央値)は40万3800ドル(約5700万円)で前年同月比+10.8%の上昇ですが、前月からは下落しています。NAR(全米不動産協会)チーフエコノミストのローレンス・ユン氏は「私たちは住宅販売と住宅建設の減少で、住宅不況を目の当たりにしている」と住宅不況を表現しています。

米新築一戸建て住宅販売 前年同月比約30%減


新築の一戸建てはさらに悪い状況です。アメリカの新築1戸建て住宅販売戸数は、前年同月比-29.6%です。前月比-12.6%ですが、販売価格は439,400ドル(約6000万円)で値上がりしています。「価格上昇と金利上昇の組み合わせが、住宅市場の顕著な減速を生み出した」とNAHB予測・分析担当副社長補佐が述べています。

米住宅価格上昇率が急縮小


米住宅価格の上昇率は一気に縮まっています。全米住宅価格指数の増減率推移は、同じ都市の同じ中古住宅の価格が各都市でどれだけ変動したかを表すもので、毎月下旬に統計が発表されます。住宅価格上昇率は2カ月前の数字が発表されるため遅行指数といわれ、今週、2022年6月末時点の中古住宅の価格増減が発表されました。価格上昇率は一気に縮小して前月比+0.1%です。前年同月比は12倍の1.2%になると考えられます。例えばグラフに2%近辺の月がありますが、2%の場合、年率で24%上がっています。それくらい急激に住宅価格は上がってきました。

FHFA(米連邦住宅金融庁)の住宅価格指数と同じように、全米20都市の同じ場所の同じ住宅の価格の前月からの増減を表すのが、ケース・シラー住宅価格指数です。右側が4月から5月にかけての増減で、緑は増加で赤は減少を示します。4月から5月に対して、5月から6月は全て上昇率が小さくなっていますし、赤で示された6都市は値下がりしています。1番値下がりしているのは西海岸にあるシアトルです。基本的にアメリカは家が高いので、高くなっているところから値下がりが始まっている状況です。このグラフは2022年6月末の結果ですが、7月末は赤で示される都市がさらに増えると思います。住宅価格上昇率の急激な縮小が住宅不況の進行を表しています。

INSIDER. “Home prices are falling in 6 major US cities and still rising in 14. Here's how the major markets are faring as buyers adjust to the end of the boom.”. 2022-10-04. https://www.businessinsider.com/cities-where-housing-real-estate-prices-falling-rising-mortgage-rates-2022-8   
(参照2022-10-08)
日本経済新聞. “米住宅価格、急速に上昇圧力弱まる 6月伸び前月比0.1%”. 2022-8-31. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN30D220Q2A830C2000000/    
(参照2022-10-08)

世界的な木材需要減少で減産が相次ぐ


世界的な木材需要減少への対応として、減産が相次いでいます。カナダの製材大手であるウェスト・フレーザー・ティンバー社が、カナダBC州にあるブリティッシュコロンビアにある2工場を1シフト減らして、40万m³の生産能力を減らすと発表しました。スウェーデンの林産大手セドラは10万m³の減産を発表しています。日本でも集成材工場、製材工場が売れ行き不振で生産調整を開始しました。世界的に木材は売れず在庫が多いため減産の方向に動いています。原因は金利上昇による住宅需要の不振です。

アメリカ木材需要についての木村私見


住宅ローン金利急上昇が影響して、中古住宅、新築住宅ともに販売戸数は前年同月比-20%以上の減少が続きます。住宅価格が前年同月比10%以上の伸びを続ける「クレイジー」な状況はほぼ解消されました。2022年3月にFRBのウォラー理事がワシントンでの不動産業界の会議で「ここワシントンで家を買おうとしているが、アメリカ住宅市場はクレイジーだ。」と発言しました。ウォラー理事はFRBの不動産市場担当なので当時私は金融引き締めが来ると予感じていましたが、その後FRBは金利を上げ続けて、都市によっては住宅価格が落ち始めているのが現状です。

住宅需要と並ぶもう1つの柱であるDIY需要は、極端な感染拡大がない限り2021年のように盛り上がることはないと予想します。ホームデポ(全米最大のホームセンター)の既存店売上高は伸びていますが、決済数が減少しています。

住宅向け木材需要が金利上昇の影響を受けて減少が続くうえに、DIY需要が当分低い状態で落ち着くということは、世界の木材価格の中心であるアメリカの木材価格が上昇する可能性は小さく、世界的に木材価格は低水準で推移すると予想します。

アメリカの木材輸入の8割はカナダからの輸入です。EUからの木材輸入は増えましたが1割しかありません。逆にカナダの木材輸出のほとんどがアメリカ向けですので、この2国間に1番強い相関関係があります。アメリカの木材価格に1番影響を与えるのは、間違いなくカナダです。カナダからの木材輸入が滞るか、山火事や水害などの自然災害が発生しなければ木材価格が暴騰することはないと考えます。

米松国内挽き、荷動き鈍化


建築業界でよく使われる中国木材製ドライ・ビームについてです。米松国内挽きは、荷動きが鈍化しています。国内挽き製材(ドライ・ビーム)は構造用集成材の在庫増と先安観から荷動きが鈍化しています。欧州産集成材の先物価格が大きく下落したことで、集成材の在庫を優先して消費する動きが強まっています。後で安くなるものは先に消費しておいて、後で損することを避けたいと思う一方、ドライ・ビームは価格が安定しているので、残しても大丈夫だと判断されています。ウッドショックで樹種指定がなくなったことで、米松はシェアを拡大しましたが、足元では集成材への揺り戻しが始まっています。

現在、日本の木材価格の指標は欧州材の価格です。ドライ・ビームの価格は、レッドウッド集成材の動きに大きく左右されます。米松製品には「投げ売り」が出る可能性がないので、先行き値下がりが見込まれる欧州産集成材の在庫が先に使われるのは当然です。また、米松丸太価格が高騰していますが、需要減少を受けてアメリカ木材製品価格は当分の間低い状態で落ち着くと予想されます。競合材であるレッドウッド集成材が下がっているので米松も下げなければいけませんが、コスト高で値下げができない状態下にあります。

合板、当用買いに転じる


日新本社工場火災で一時大きな問題になりましたが、現状はかなり落ち着きました。国産針葉樹構造用合板はメーカーの値上げが止まると同時に仮需がしぼみ、荷動きが一服しています。日新本社工場火災による生産停止で長尺合板は3×9,10判を中心に西日本で依然不足感が残りますが、3×6判や他の耐力面材に代替することで、現場工事には影響が及んでない模様です。需要の減速感が鮮明になる一方で、中国産新葉樹合板が5、6月と1万9000m³を超える水準で入荷し、供給量を押し上げたことも影響しました。国産針葉樹合板の在庫は少ないですが、中国製針葉樹合板の在庫が増加したため市中の在庫は逆に増えている状況です。

中国製針葉樹合板 輸入量増加


中国製針葉樹合板の生産が増え、ロシアから中国への単板輸出は相変わらず続いています。中国にあるJAS認定合板工場は、2022年に入ってから少なくとも10社以上増加しました。工場をJAS認定する検査機関は日本合板検査会ではなく、インドネシアの検査会社が行っていました。2022年5月の輸入量は1万9000m³、6月も1万9000m³あり、3月(5844m³)の3倍以上です。現状は約2万m³の合板が中国から日本に向けて輸出されており、針葉樹合板需要のおおよそ10%となります。ただ、中国製針葉樹合板には厚みむらや抜け節などといった品質問題が出ており、厚物(24mm、28mm)は扱いを手控える業者が出ています。12mmは屋根野地用に使われていますが、24mm、28mmは倉庫に山積みになっています。
 

合板についての木村私見


日新本社工場の火災の影響で、長尺針葉樹合板は当分の間入手困難で3×6判をつなぐ対応が増えます。中国製JAS規格針葉樹合板の輸入増加で、長尺を除いて合板不足はほぼ解消し、市中在庫は増え続けます。世界的な需要不振の影響もあり、3×6 12mmは中国製針葉樹合板やOSBの攻勢が続くと思います。日本の3×6 12mmの針葉樹合板において国産メーカーが提示する値段(約2000円)は高すぎて維持できないと考えます。

家の価格 約3000万円➡約3800万円


富士ソーラーハウスさんが2022年4月にTBSに出演したときのフリップです。2021年には3000万で建てられた家が2022年には3800万円でないと建たないというほど、住宅の値段が上がり建てられない人が沢山いることを意味しています。木材だけでなくセメントや洗面台などの資材が軒並み上がってきたためです。価格上昇が工務店の受注に大きく影響しています。

NHK. “住宅のあらゆるものが値上がり”. ロシア発『ウッドショック』の衝撃 ~もう家が買えない!?~. 2022-04-15. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220415/k10013583561000.html  
(参照2022-10-08)

住宅ローン金利はいずれ日本でも起きる


日本の住宅ローン金利は固定金利型がわずかに上昇したものの、変動金利型金利はauじぶん銀行を筆頭に、も0.5%以下の低金利が続きます。住宅ローンは長期にわたってお客さまと関係ができる入口となり、他の金融商品が売れるので、多少金利が安くても住宅ローンを獲得しようとする金融機関間の競争が住宅ローン金利に表れています。

日本でも10年国債と固定型住宅ローン金利の連動性は高いです。日本の10年国債利回りは日銀の指し値オペで0.25%以下に張り付いていますが、消費者物価上昇率と円安の状況次第で、いつ政策が変更されるかはわかりません。日銀はいつ豹変してもおかしくないと私は思います。期間固定型も含みますが、日本の住宅ローンの9割は変動金利型です。金利が上昇し始めると、資材高による住宅価格上昇との二重苦で住宅需要の大幅な減少が予想されます。アメリカが住宅ローン金利上昇局面でどのように住宅需要を減少させるかが、近い将来日本で起きる前ぶれになると私はみています。

日本の住宅ローンは低金利が続くが・・・


主要銀行の住宅ローン金利推移です。1番上の線が全期間固定型で1.5%、1番下の線が変動金利で0.5%以下です。住宅ローンの固定と変動の割合は、変動金利型が増えており、当初固定(5年後に変動に変わる)まで含めると9割が変動金利となっています。固定金利の割合が少ないことに私は怖さを感じます。

日本10年国債利回り


日本の10年国債利回り推移です。0.25%で天井になっていますが、これは日銀が連続指し値オペで利回り上昇を必死になって抑制した結果です。

三井住友銀行. “日本国債10年”. マーケット情報チャート. https://fund.smbc.co.jp/smbchp/main/index.aspx?F=mkt_details_chart&KEY1=B0067.0/JBTZ    
(参照2022-10-08)

世界でマイナス金利が減少


マイナス金利は2022年6月時点で日本だけです。色の濃い部分がマイナス金利で、色がない部分はプラスの金利を指します。これは岡三証券の高田創氏が考案された水没マップで、マイナス金利が解消していく過程が表れています。ヨーロッパはロシアからガスが来ないためインフレが発生しており、インフレを抑えるために金利を上げています。日本はマイナス金利によって住宅ローン金利が安いので、日本の住宅業界はすごく恵まれていると思います。しかし将来の金利上昇には備えが必要です。

日本経済新聞. “マイナス金利、日本だけ続く影響は?”. 2022-06-10. https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL09BLI0Z00C22A6000000/  
(参照2022-10-08)

為替相場は8割金利差といわれる


為替相場は8割金利差と言われます。濃い線は円ドル相場の推移で、薄い線が日米長期金利(10年国債)の金利差です。2022年6月までは強く連動していましたが、7月になってから急に離れました。ドルの急落によって現在に至りますが、未だ差が開いています。実は為替相場を見る場合には10年国債だけでなく、2年国債も見る必要があり、為替相場は2年国債の金利差に1番連動すると言われます。

次のグラフでは10年国債と2年国債の金利差がマイナスです。例えるならば、2年定期預金と10年定期預金があり、2年定期預金の方が10年定期預金よりも利率が高いため、誰も10年定期預金をしないという奇妙なことが現実に起きています。このことを逆イールドといいます。イールドとは傾きという意味です。預ける期間が長くなるにつれて金利が上がるのが正のイールドです。逆イールドは100%景気後退のサインであり、アメリカだけでなくカナダやスウェーデン、イギリスでも起きていると日本経済新聞が報じています。目先はFRBが利上げを続けるため金利は上がりますが、その後金利を下げざるを得ない状況だとマーケットは読んでいます。

日本経済新聞. “「円安バイアス」時代到来 経済構造、柔軟な修正必要”. 2022-08-29. https://www.nikkei.com/article/DGKKZO63827640Y2A820C2ENG000/  
(参照2022-10-08)

もはや輸入材は安くない


もはや輸入材は安くないです。2022年の年初に1ドル115円だったドル円相場は8月には138円になり、年初1ユーロ130円だったユーロ円相場は139円になっています。輸入コストは年初比でUSドル+20%、ユーロ+7%となります。日米・日欧金利差が続く限り、元の為替レートに戻る可能性は低いです。今年上半期の欧州材入荷は過剰でしたが、過剰の後は不足が来るので、大幅に入荷減が見込まれます。もはや輸入材は安くなく、いつでも手に入るわけでもありません。不安定価格、不安定供給の輸入材と言わざるを得ません。

ウッドショックは日本国力低下の結果


ウッドショックは日本国力低下の結果です。1980年代に発生した日米貿易摩擦では、「ジャパン・バッシング(日本たたき)」と言われ、日本を叩いて日本の貿易黒字を少しでも減らせと騒いでいました。その後世界における中国の存在感が台頭して、世界の木材貿易における中国の割合が増えるにつれて、日本を通過する「ジャパン・パッシング」になりました。その後、日本の世界木材貿易に占める割合がさらに低下して、今や「ジャパンナッシング(日本魅力なし)」いった残念な結果になっています。木材輸入に携わっているものとして日本は力がなくなった、相手にされないということを強く感じながら仕事をしています。


地合いが緩み始めた国産材製品


国産材製品も輸入と同様、全国的に地合いが軟化しています。5月から市場の荷動きが鈍化して、6月から相場が下がり気味になりました。月を追うごとに下値が広がる情勢です。製材工場も6月から急速に出荷が減ったことで、販売価格や生産手法を細かく調整し始めました。Wウッド集成管柱の在庫が全国で増加し、杉集成管柱の荷動きが鈍ってきました。国産材製品も輸入材に引っ張られて市場は弱いです。


木材価格合板横ばい 製材は下落


林野庁が毎月発表している全国の木材需給です。お客さんに対してウッドショックによる木材の値段を見せられる資料はないのかと問い合わせを受けますが、その場合は林野庁のデータを出しています。実際には木材建材ウイクリーと日刊木材新聞の数字を出していますが、農林水産省の統計よりも信憑性があります。現状、合板の値段は横ばいですが、他の柱や平角、間柱がいくらか下がり目です。


国産材製品についての木村私見


2022年7月の新築住宅着工は持ち家が前年比-14.1%で、大幅減が続いています。今の「お腹いっぱい」で「売れ行きが悪い」状態は当面続きます。輸入材、特に欧州材の空前の在庫過多が解消するまでは、輸入材価格下落に引っ張られる形で国産材もつれ安になります。ただ、輸入コストが高いので大きな値崩れはしないと見ています。過剰の後には不足がきますが、そんな時代でも木材供給者と建築関係者の間で「顔の見える関係」をつくっておけば、いずれ来る輸入材不足時代への対策になります。


出材順調で桧下げ相場続く


国産材原木についても触れます。出材は順調で、桧の下げ相場が続いています。7月は晴れが多く、順調な出材が続きました。国産材丸太の需要は、チップ用材を除くとおおむね一服して、2021年の夏のような強い買い気は見られませんでした。相場は7月も全般に値下がりが続いています。特に、北関東以西の桧産地では、桧は高かったので杉以上に値下がり幅が大きいです。一方、杉柱取りは7月も全国的に引き合いは堅調です。杉中目や大径材は需要の鈍化や荷痛みを背景に相場が下押ししています。

合板工場の素材在庫が急増


合板統計によると、2022年の2月から単板製造用素材の入荷量が急増していて、7月まで大幅に在庫量が増えています。合板工場の国産材入荷量が増えたことにより国産材原木相場を下支えしていましたが、そろそろ落ち着くと思われます。2022年7月の合板工場の素材在庫量は前年同月比101.4%です。これはロシアからの単板禁輸があったからですが、ロシア政府は8月27日付で単板輸出を極東3港からの海上輸送のみ許可しましたので、近々単板禁輸についても変化があると予想されます。

輸入材の割合が一番高いのは横架材


各部材ごとの輸入材と国産材の割合を示したものです。左のグラフは日本木材住宅産業協会会員(ハウスメーカーが主体)の使用部材の割合を示しています。右のグラフは地域工務店の使用部材の割合です。決定的に違うのは横架材でハウスメーカーでは約90%輸入材が使われているのに対して地域工務店では65%輸入材が使われています。この輸入製材の42%はドライ・ビームだと思います。いずれにしても各部材の中で輸入材の割合が1番高いのは横架材です。

日本木造住宅産業協会. “国産材等流通促進協議会の調査による木材使用割合”. 木造軸組工法住宅における国産材利用の実態調査報告書(第5回). 2019-02.
(参照2022-10-08)

木材住宅向け木材供給のボトルネックは横架材


木造住宅の着工戸数は横架材の供給能力で決まります。中国木材者のドライ・ビームは受注制限が解除されました。レッドウッド集成平角も市中在庫は過剰です。コスト高で価格は高いものの、供給不安は解消したとみていいですが、過剰の後には不足が来ますので、輸入量を減らしすぎると2年前に起きた事態の再来も考えられます。

そういった事態を防ぐために、可能な部材は杉無垢の梁を使い、強度が必要な部材にはカラマツ無垢平角、桧無垢平角桧集成平角、杉芯去り平角など、その地域で対応できる横架材を使うのが現実的な対応だと考えます。どの部材を使うにしても早期発注が1番の対策です。プレカット図面の確定は上棟2ヶ月以上前にすることをおすすめします。

「これなら使える」と思える国産材を増やす


これなら使えると思える国産材を増やす必要があります。ウッドショックが告げたのは、欧州材時代の終わりだと私は考えます。欧州材減少時代の対応として、金物工法に使える国産材構造材が求められます。金物工法による表面割れ、内部割れ、寸法制度などが集成材と変わらず、「これなら使える」と思える国産材製品の供給増に期待しています。杉野縁においても赤松と同等と思える製品を増やすことがロシア産木材を使うリスクを減らします。

金物工法と無垢材の相性は最悪?


お客さまから「断面欠損の問題もあって、金物工法を採用している。以前杉の柱を使った際に内部割れが原因で破壊した。無垢材と金物工法の相性は最悪だ、無垢材は怖くて使えない。集成材を使いたい」とお話しをいただきました。集成材だけではなく、金物工法でも使える無垢材の普及が求められます。たとえば減圧乾燥や4面背割りなど、寸法精度と内部割れを防ぐ乾燥方法があります。4面背割りの場合、ドライングセットをかけた表面にスリットを入れて内部応力の逃げ場をつくると、内部割れや表面割れを減らすことができます。

金物工法でも使える無垢材の普及が求められる

当社では実際に大型パネル工法で建築した2棟に4面薄背割り柱を採用していただきました。普通は4面薄背割り柱に15mmの深さのスリットを入れますが、私たちは5mmの深さのスリットを入れ、乾燥させた後に4面モルダーをかけてスリットを全部削り落とします。表面にスリットが残らないので、ドリフトピンを高い精度で打てます。実際に寸法精度と内部割れがこれだけ少なければ十分使えるとパネル工場製造ラインの社員さんからお話がありました。

柱を製材工場で生産する際、人工乾燥機に入れた後で曲がってしまって使えないものが多く出ますが、4面背割りを入れることで、片方に曲がるのではなく、均等に乾燥力が逃げるので一方曲がりが減ります。これにより歩留まりが上がるので、製材工場にとって良いことが多いです。表面に削った跡が残らなければJAS認定の対象になるので、4面薄背割りがもっと広がることを期待しています。

今後予想される事態への対策案


今後、予想される事態の対策案を3つ挙げて、本編は終わりにします。①一番の対策は早期発注です。②ホワイトウッド・レッドウッド集成材から離れることをおすすめします。③山へ、製材所へ足を運んで関係を作る、ないしは深めていただくことが有効だと私は考えます。

①   一番の対策は早期発注


一番の対策は早期発注です。前もって発注しておくことが1番の対策です。入手が困難で規格以外の木材でも、納期さえあれば大丈夫な場合も多いです。どうしても規格以外のものを使いたい場合でも納期があって製材所と顔の繋がりがあれば、対応してくれます。製材所側から見てどれだけ納期を長くとって発注できるかが「おなじみさん」としての判断基準になります。製材所には「おなじみさん」には悪いことはできないという心理が働きますから、日頃の付き合いが大切です。

2022年2月にJBN国産材委員会が主催した研修会で製材工場の経営にも関わっている新潟の設計事務所の石田伸一さんは「工務店は製材所をアスクルと同じだと思っている」と話しました。どれだけの納期を取ってくれるかが「おなじみさん」としての判断基準なので、アスクルと同じ考えはNGだと話していました。

②   ホワイトレッド・レッドウッド集成材から離れる

ホワイトウッド・レッドウッドの時代はロシアのウクライナ侵攻で終わりを告げました。今は在庫が過剰ですが、いずれは欧州内需要への対応が優先され、日本向けの輸出余力は縮小します。恒常的に使う樹種としてあてにせず、他樹種に変更することが工務店・設計事務所の皆さんにとって良いことだと考えます。ホワイト・レッドウッドを使い続けることは、いずれリスクになるというのが私の考え方です。

③   山へ、製材所へ足を運んで関係をつくる(深める)


山や製材所に足を運んで関係を作る、既に関係ができている方は深めることをおすすめします。山や製材所へ足を運んで直接対話してみると、製品の品質・価格・納期、働いている社員の様子、経営者の考え方などを実際に見ることができ、パートナーとして長く付き合っていける相手かどうかがわかります。今後円安が進むと輸入木材の価格面での優位はさらに失われます。

設計事務所も工務店も、製材工場も素材生産業も、持続可能な経営をするためには定常的に長い期間取引ができる関係を作り上げていくことが大切です。そのためにも、山や製材所へ足を運んで直接対話することをお勧めします。直接自分知らない相手でも、例えば木材小売店などの流通同行で足を運ぶと、後の取引がスムーズにできます。流通を通す際に製材所にあの工務店だと認識してもらえるので、顔の見える人に対してなんとか対処しようとしますし、関係づくりがウッドショックの対策として有効だと考えます。

編集担当 : プロジェクトデザイン研究室

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