【南房総インタビューvol.2】台風災害時の地域経済への影響と企業の役割~信用金庫勤務 溝口耕一さん~
今回は、信用金庫にお勤めになっている溝口耕一さんに、2019年の台風19号時の被害や地域への影響について、また災害時に企業という立場からどんな貢献ができるのか、というテーマでお話を聞かせていただきました。
溝口さんのプロフィール
南房総市の旧三芳村山名地区出身。
大学では経済学を学びながら、東日本大震災時には仲間とボランティア団体の設立、石川県の民間まちづくり会社でのインターンなどの活動を行う。
新卒で地元信用金庫に就職し、3年間の営業店経験の後、中小企業診断士の資格をとり、現在の経営支援部という本部部門に異動となる。
経営支援部では、取引先の経営改善や創業、事業承継支援などを行っている。2年前ほど前からヤマナハウスにも関わり、現在は運営メンバー3人のうちの1人となっている。
ーーーー今日は溝口さんには信用金庫にお勤めになっている人ならではの視点の話をお聞かせいただければと思っています。特に台風災害時の地域経済への影響と企業と地域のあり方というテーマで話を進めていきます。初めに溝口さんの普段の信用金庫での仕事内容を教えていただけますでしょうか?ーーーー
溝口さん:今は本部の部署にいます。金融機関はお店とそれを補完する本部の大きく2つに分かれていて、営業店の方が直接お客さんとやり取りすることが多いんですけれど、僕は本部の中の経営支援部と言う部署にいます。経営支援部は、金利以外の理由でもお客さんに選んでもらえるように、お客さんのサポートをすることを目的としています。また今回のようなコロナウィルスや台風での災害によってダメージを受けて経営が立ち行かなくなってしまうところをが出ないようにサポートをするということも仕事の一つです。行っている事は様々で、例えば新しく創業したい人がいた時に、話を聞いてアドバイスをしたり、自分たちでカバーできない部分は他の支援機関につないであげるようなことをやっています。後は全国の信用金庫ネットワークを活用してのお客さん同士のビジネスマッチングを行ったり、跡継ぎに関する問題のお手伝いをしたりもしています。営業店だと自分の地区の事しか知らない場合が多いですけれど、自分の部署は、営業エリアの12店舗全体をカバーしていて、営業店の人よりも広く浅く情報を把握しているという感じです。
ーーーー割と館山を含む南房総地域よりも大きな範囲をカバーしてお仕事をされていると言う感じなんですか?ーーーー
溝口さん:僕の勤める信用金庫は、北は市原市、東側だと鴨川市まで支店があります。ただ中心は南の方で、12店舗の中の9店舗は南房総地域にあります。資金ニーズが多いのは北の方なんですけれどね。(笑)
ーーーーここから昨年の台風に関するお話に入っていきます。昨年の台風15号、19号で、館山も含めて大きな被害を受けたと思うのですが、銀行のお仕事を含め、ご自身の生活にどのような影響がありましたか?ーーーー
溝口さん:9月9日の朝は本部が停電していて、1番大きな本店だけ自家発電を持っていたので、そこと停電しなかった2,3店舗だけが動いていました。停電してるところで事務処理はできないので、停電していない支店に処理しなきゃいけないものを持っていって作業をするという対応をとっていました。僕自身の家はヤマハウスの近くで、結構山奥にあるのですが、停電が12日間続いて一種のサバイバル生活みたいな感じでした。
ーーーーどういった職種が台風によって1番影響を受けたと考えていますか?ーーーー
溝口さん:やっぱり観光関係がきつかったかなと思います。宿泊関係だと建物に被害を受けて営業ができないところが多かったですし、停電が長いところもあったので、飲食を含めた観光スポットとなるレジャー施設も営業ができませんでした。さらに営業を再開したとしても、自粛のような、行っていいのかなぁというような感情がお客さんの中にもあって、なかなかきつかった時期だったと思います。後は農業もやっぱり被害は大きかったです。
ーーーー今お話にあった観光など大きな被害を受けた職種、またはそれに従事している方々に銀行側としては特別に対応をしたことはありましたか?ーーーー
溝口さん:まず修繕再建のための融資相談はかなり多く受けました。経営支援部としてメインで関わったのは、国の補助金を事業所の方だとなかなか自分で申請ができないような人もいるので、代わりに申請をしてあげたり、国の経営支援の専門家に無料で相談できるところもあるので、そういったものを紹介したりしていました。後はなかなか通常営業にならない中で仕事ができない分、うちの各支店の営業がボランティアに行ったりもしていたみたいです。
ーーーーボランティアというのは具体的にどういうことをされていたんですか?ーーーー
溝口さん:主に瓦礫の撤去がほとんどだったんじゃないかと思います。後は信用金庫の全国のネットワークがあるのですが、そのつながりで他の信用金庫から支援してもらいました。例えば、大阪の信用金庫は阪神淡路大震災があった関係で、災害に敏感と言うところがあって、わりとちゃんと災害対策をしていたみたいで、台風の2日後位には支援物資をうちの信用金庫宛に送ってくれました。そして、うちからその支援物資を地域に配るようなこともしていました。この点を逆に考えると、南房総地域は今まで災害があまりなかったことから、全然災害に対する準備をしてこなかったということが見えてくるんですが・・・
ーーーー今の話のように大阪のような事前に準備があった地域とそうでない地域で復旧作業等の対応のスピードに違いが出ることもあると思うのですが、この台風被害で企業としてこんな仕組みがあればより復旧がうまくいったのではないかというようなことはこと考えられますか?ーーーー
溝口さん:どちらかと言うと災害が起こる前の予防の部分が大きいのかなと思います。企業でも保険をちゃんとかけてないところもあって、保険をかけていれば建物が壊れちゃったとしても修繕費のほぼ9割8割は出るんですね。だからちゃんと保険をかけていたところは金銭的なダメージはあまりなかったと思います。復旧期間の休業中の機会損失というようなことももちろん起こりましたが、それも休業補償に関する保険もあるので、保険に入っているところはあまりダメージはなかったと思います。ただ意外と入っていないところが多いと感じました。そういうところは数人でやっているような中小企業が多かったです。後は停電になって出勤ができない時に会社としてどういう対応を取るのかというところですかね。うちの会社だと、一応決まりはあったけれど、あまり周知はされていなかったです。きっと他の企業でもそういった事はあったと思うんですけれど、こういう場合はこうするみたいなマニュアルがちゃんとあって共有できていればよかったかなぁと思います。
ーーーーありがとうございます。もう一つの視点として、溝口さんはヤマナハウスの運営にも関わっていることもあって、南房総地域での二地域居住になじみがあると思うのですが、二地域居住がいることによる、経済効果、地域コミュニティへの貢献などで、メリットを感じることはありますか?ーーーー
溝口さん:いないよりいてくれたほうがプラスにはなると思います。週末に訪れて消費をしてくれるので。ただ絶対値としてそんなに大きいものではないとも思っています。
ーーーー永森さんも二地域居住者の人数は決して大きいものではないし、二地域居住自体のハードルも決して低くないということもおっしゃっていました。これからそういう人たちを増やそうと考えたときに、可能性があるのは企業単位での二地域居住、ワーケーションと呼ばれるものが促進されれば、より二地域居住のハードルが低くなるんじゃないかと言う話をされていて、そういう意味での将来的な経済効果はあるんじゃないかと僕たちも考えています。ーーーー
溝口さん:地域の企業で地元のお客さんだけを相手にしていると、これからどんどん人口が減っていくことがわかっている中で、外からどうやって稼ぐかということが必要になってくるとは思います。今までは観光客をターゲットにして、観光客の消費が促進されるようなことを地域として考えていたんだと思います。その中で外からお金をもらう手段として、一企業が二地域居住の人をターゲットにするって言う事はアリだと思っています。民宿とかで考えてるところは結構あって、さっき言った企業合宿のようなものの受け入れとかは、新しいビジネスチャンスだと思って狙っている所もあります。ただ新しい儲ける手段の1つとしてはありだとは思うけれど、それだけで地域全体にその効果が行き渡るのかって言うと少し弱いなとは思います。人が1人街に住んで消費する量の方が圧倒的に多いので、移住者を増やすことの方が魅力的ではあるものの、がんばれば移住者が増えるかと言うと何とも言えないです。移住してくれれば経済効果はあるけれど、それにかけた分の費用だけ果たして何人来てくれるのかというところもあると思います。
写真は溝口さんが「南房総2拠点大学」にて、南房総でのビジネス創造や資金調達方法に関して講師をしたときのものです。
ーーーーありがとうございます。台風の話に少し戻りますが、ここからは台風被害から少し時間が経った後の地域経済の回復具合体はどのように見ていましたか?ーーーー
溝口さん:うちの信用金庫で3ヶ月に一回、景気動向調査というものを行っていて、信用金庫業界全体でやっているんですけれど、うちは地域70社の中小企業にヒアリングを行っていて、それを頼りに状況を見ることができます。9月9日の台風後の初めての景気動向調査は12月6日締め切りのものでした。12月の時点で南房総地域に関しては、リーマンショック並みの景気の落ち込みが見られました。その次の3月の景気動向調査では通常位に景気は戻っていました。ただ業種別に見てみると、建設業がめちゃめちゃよかったということでした。
ーーーーそれはやっぱり復旧の工事の需要が上がったと言う事なんですか?ーーーー
溝口さん:そうだと思います。不動産も若干良くて、小売とかサービス業が壊滅的でした。ただ全体で見ると建設の好景気によってトータルでは元に戻っているように見えると言う感じでした。なので業種によっては良いところもあるし業種によっては影響を引きずっているという感じだったと思います。南房総地域で言うと小売、サービスの景気が戻らなかった理由の1つは、観光産業がメインの中で、花が特に観光の目玉と言うところがあります。台風で花が全然育っていなくて、大体1月2月に花を目当てに観光に来る方が普段だと多いんですけれど、台風によってその部分がうまくいかずに観光が伸びなかったっていうのは大きかったんじゃないかと思います。
ーーーー観光産業は台風直後でも1番影響受けたと言う話で、しかもその影響が継続して続いている状況で、その事業に従事している方々の現場の状況はどうですか?ーーーー
溝口さん:めちゃくちゃきつい状況です。今のコロナでニュースにもなっている話で、国で融資制度が充実し始めていますが、日本政策金融公庫が台風時にもそのような台風被害を受けた方が借りやすい金利が低い融資制度を一時的に出していて、それを使って何とか手元資金はあるなぁみたいな状況でした。ただ、そこから現在のコロナウィルスでのダブルパンチが来ていて、非常に厳しい状態です。ただそれもかなり個人差があって、正直台風のような一時的なダメージをくらってそのままズルズル影響受けているところって、もともとあまり経営が良くなかった所が多かったです。この先どこかのタイミングで廃業を考える可能性があるところが、それが早まったという見方もできると思います。
ーーーー景気動向調査は6月にもとられると思うんですけれど、その予測はどう見ていますか?(景気動向調査は約1か月間かけて集計され、7月に発表されるそうです。)ーーーー
溝口さん:今回はもっとヤバそうですね。台風直後よりも一回り下の数字が出るんじゃないかと思っています。台風は一時的なものだったけれど、今回のコロナウィルスは一時的って言う感じでもないし、地元の中だけで仕事をしている人は台風の時はやばかったけれど、他の場所に取引先を持っている人は何とかなりました。今回は日本全体がダメになっている状況なので業種によって影響の違いもないと思うし、企業によっても違いってあまりないと思っています。
ーーーー台風に関して最後に、個人や企業が台風のような災害が起きたときに地域経済の回復にどうやって貢献していけばいいのかということについてお話しいただけますでしょうか?ーーーー
溝口さん:先にも話したように、今まで南房総地域は災害が少なかったと言えると思います。例えば阪神淡路大震災、東日本大震災のような大きな災害が起きた後には、様々なボランティア活動が活発に行われていた印象を持っています。さらにそういったボランティア活動は一時的に終わるものではなくて、その後の市民意識の高まりに大きく貢献しているところもありました。現在NPOやボランティア活動の責任が大きい地位にいる人は、当時の震災を経験した大阪の方がけっこう多かったりする印象を持っています。しかし今回の台風災害の南房総地域においては、災害による市民意識の高まりのようなものが生まれてくるのかなあと思っていましたが、あまり広がらなかったという印象です。市民レベルの話で言うと、地方だと企業セクターはかなり地域に根ざしているので、「公」、「共」、「私」でいう「私」だけではなく、大小はあれど「共」的なものにも位置づけられると思っています。例えば地元のお客さんはないがしろにできないとか、企業単位でも地区の集まりに参加して手伝うことがあるなど。東京だとビジネスチックに切り捨てられてしまうような所も地域だとよりつながりは深いと思います。市民活動の盛り上がりに本来企業は介入しづらいと思うんですけれど、こういう南房総地域のような地方だと、企業と市民の距離感が近いので、企業としてそこに関われる余地があるのではないかと思っています。信用金庫は特に、もともと会員同士の相互扶助が目的で作られているので、儲けるだけでなく、共同組織に近いところを目指しています。1個人の市民のボランティアではなく、地域に根ざした企業のようなより大きな主体が、地域貢献するという所に災害時から、その立ち直りと復興において可能性があるのではないかと思っています。
ーーーー災害の時に個人単位でボランティア活動を行う事は様々な場所で起きていると思うのですが、そういった活動の芽を大きくするためには企業のようなより大きな主体が連携する事はすごく重要なんじゃないかと僕たちも思います。ーーーー
溝口さん:ヤマナハウスが呼びかけて農家さんのハウスの解体ボランティアに行ったりということを何度かやりました。個々人がやるだけじゃなくてそれを取りまとめる何かがあるといいんじゃないかと思います。
ーーーー二地域居住の促進にしても災害ボランティアの活動にしても、個々人の力に依存するだけでなく、制度として成り立たせていくことが大事なんじゃないかということですかね。ーーーー
溝口さん:自分は大学生の時に東日本大震災のボランティア活動をやった経験がありました。東日本大震災は大学1年の春休みの時に起こったんですけれど、2年生の時に社会人の人と一緒にボランティア団体を作って福島に1、2か月に1回瓦礫撤去のようなボランティアを行っていました。それをやっていて、人の役に立ったりとか感謝される事はいいんですけれど、正直続けられないなぁと言う感情もありました。それだけのためにやりがいを見出して継続するっていうのは難しいなぁと当時思いました。被害を受けた地域側も一時的な瓦礫の撤去が終わればそれで復興かと言われればそういうことではなくて、継続的に取り組まなければいけない課題はたくさんあると思います。外からのボランティアが来てくれるのはありがたいし、必要なことなのかもしれないけれど、やっぱり地元の人が地域の活性化のために何ができるかを考えることが非常に重要だなと思っています。ボランティアとか市民活動的なものは上手くいくところは継続するけれど、そうでないものもたくさんあります。そういった時に企業活動に目を向ける事は重要だと思います。儲けるため、または生きるため、生活するために稼がないといけないので、自然と継続しなきゃいけなくなるものになって結果的により地域のためになるのではないかと思います。
ーーーーありがとうございました。南房総地域の台風時から現在までの企業の状況から、溝口さんご自身の学生時代の体験まで、様々なお話をきくことができ、大変貴重なインタビューになりました。特に災害時のボランティア活動において、ヤマナハウスのような個人に働きかけができるような取り組みも、企業単位で関わることの取り組みも、どちらにも可能性を感じました。本日はどうもありがとうございました。ーーーー
追記:景気動向調査の6月の結果が7月に発表され、南房総地域の業況判断の数値は70社で取り始めた2年間で過去最低となりました。全国の業況判断で見ても、リーマン、バブル崩壊を下回る過去最悪の結果が発表され、厳しい状況が続いています。
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