らくらくわかるボラティリティタックスとVIX指数のしくみ~はじめに
パチンコや競馬、競艇などギャンブルを嗜む方は1日の終わりにこんな感想を持ったことがあると思います。勘違い?負け惜しみ?いや違います。その印象は間違いではありません。平均では勝っているのに財布の中のお金は減っているということが実際に起きているのです。これはマニアの間で「ボラティリティタックス」として知られる現象です。
少し難しい表現になりますが、ボラティリティタックスをより具体的に言えば
になります。
一回ごとのギャンブルや株式投資などでいくら儲かるかは、毎回異なります。とても儲かるとき、少ししか儲からないとき、逆に少しだけ損するとき、とても損するときなど様々です。馬券や株を買った時点ではわかりません。レースが終わるか、株を買ってしばらく経つかしてはじめてわかります。この「結果が出るまでいくら儲かるか分からない」または「結果が出るまで利益がわからない」ことを難しい言葉で配当やリターン(収益率)に「ボラティリティ(変動性)がある」と言います。
ボラティリティがあるギャンブル(※)を行うと、当てた回数が多い、あるいは大穴を当てたにもかかわらずお金が増えていない、むしろ減っているという状況が必ず発生します。例えば競馬であれば、毎回同じ払戻率で馬券を当て続けるという奇跡的な状況を除いて、これを避けることはできません。(※ボラティリティのないギャンブルはギャンブルになりません)
ギャンブルや株式投資において誰もが直面する、税金のように避けられないコストということから、これはボラティリティタックス(volatility tax、変動性による税金)と呼ばれています。その他にもボラティリティドラッグ(volatility drag、変動性による足手まとい)や、バリアンスドレイン(variance drain、変動性による液漏れ)という呼び方もあります。いずれも収益率の変動が原因で投資成果に悪影響が発生する性質を反映した名称になっています。
このノートではシミュレーションや株式市場における実例を交えながら、6回に分けて次を説明する予定です。
レバレッジファンドのふしぎ(有料)
VIXの歴史(すこし有料)
らくらくわかるVIX計算のしくみ(無料)
VIX先物の期間構造のひみつ(有料)
「レバレッジ」や「VIX」、「先物」などは投資をしない方にとってはなじみのない言葉と思いますが、進行に沿って各ノートの中で説明していきます。
すでに投資に習熟している方に向けて各ノートの内容を補足すると次のとおりです。
「1. らくらくわかるボラティリティタックスのしくみ」=>ボラティリティタックスの詳細と、最適な投資戦略を決める方法(ケリーの公式)
「2. レバレッジファンドのふしぎ」=>ボラティリティタックスと似ているのですが微妙に異なるレバレッジファンドの減価が発生するわけ
「3.VIXの歴史」=>なぜVIXが生まれて現在の計算方法になったのか
「4. らくらくわかるVIX計算のしくみ」=>VIX指数がボラティリティタックスの裏返しであることと、VIX計算式の理論的な背景
「5.とてもくわしいVIX計算マニュアル」=>知識ゼロでもVIXが計算できるようになる手引き
「6. VIX先物の期間構造のひみつ」=>VIX指数とVIX先物の違い、そしてVIX先物の期間構造がなぜ右上がりになるのか
本編の中できちんと解説しますが、ボラティリティタックスは同じ現象を2つの方向から見ることにより測定します。そのため「ボラティリティタックスはただの数字のトリック。競馬で負けた現実は変わらない。能書きはいいから金を返してくれ」と主張する識者もいます。
識者が指摘するとおり、ボラティリティタックスは一つの事実を異なる視点からみた結果として得られる数値です。ある意味ボラティリティタックスはその存在を信じる人の心の中だけにあるといえるでしょう。ギャンブルや投資の損益という動かせない事実にまつわる現象でありながら、信じる人の目にしか映らないなんて詩的なアイデアだと思いませんか。ポエムにポエムを積み重ねたレバレッジファンドの減価やVIX指数、コンベクシティにまつわる意外な事実について一緒に学んでいきましょう。