5. とてもくわしいVIX計算マニュアル
(ポイント)
前々回のノートではVIXが誕生した経緯を、前回のノートではVIX計算の理論的な背景を学習しました。本ノートではオプション価格と無リスク金利から実際にVIXを計算します。
公式の計算方法は開発・計算元であるCboeがVolatility Index MethodologyとVolatility Index Mathematics Methodologyという2つのガイドブック(以下両方まとめて「計算ガイドブック」といいます)を公開しています。どちらもテーマはVIXの計算です。Methodologyの方はVIXの成立背景など歴史的側面に言及があるところ、Mathematics Methodologyはより細かな計算方法について踏み込んでいるといった違いがあります。とはいえどちらも読者に一定以上の知識を求めておりとても分かりにくくなっています。
本ノートでは一切知識がなくてもVIXが計算できるように、理論や背景は無視して計算の手続きだけをとにかく詳しく解説します。
なお、本ノートではVIXの計算方法以上のことは一切触れていません。「計算方法など知っている」という方に付加価値はゼロです。購入を検討される際にはご注意ください。
5.1. おおまかな計算手順
最初におおまかなVIXの計算の手順を把握しておきましょう。
計算のもとになるデータの収集
使用オプション期日の特定
無リスク金利の計算
オプション残存期間の計算
使用オプションの絞り込み
分散の計算
2つの期日の分散を按分してVIX算出
抽象的な説明より実際の数字を計算しながらすすめた方がVIX計算のようなややこしい話は理解しやすいと思います。そこで本ノートでは2024年7月26日のVIXの終値である16.39を計算することを目標にします。
5.2. データを準備しよう
まずは計算の元になるデータを集めなければなりません。VIXに必要なデータは公開されており、2024年8月現在ネット上で誰でも入手できます。
① S&P500のオプション価格
一つ目はVIXの対象であるS&P500のオプション価格データです。これはCboeのウェブサイトやYahoo Financeなどいろいろなところで入手できます。エクセルなどの表計算ソフトでデータを処理すると便利なので、csv形式のファイルをダウンロードできるCboeのサイトがおすすめです。頑張れば手計算でも計算可能ですが推奨しません。
Cboeのサイトのオプション価格データはデフォルトの状態だとオプションの一部しか掲載されていません。全オプションの価格をみるには、サイト上部にある「Options Range」というプルダウンメニューを「All」に、続けて「Expiration」というプルダウンメニューも同じく「All」に変更して「View Chain」ボタンを押しましょう。S&P500の場合オプションの本数が大量になるので、表示終了までにやや時間がかかりますがのんびり待ちましょう。
全データの表示が終わったらページの一番下の方に移動しましょう。オプションのテーブルが終わったところにある「Download CSV」という文字をクリックするとこのページに表示したオプションのデータ全部をcsv形式のファイルでダウンロードできます。
引けのVIXの計算をしたいときにはCboeのあるシカゴの取引終了時刻であるニューヨーク時間の16時15分(日本時間午前5時15分)のデータを取る必要があります。
気をつける点は、Cboeのオプション価格がだいたい15分くらい遅れで随時更新されているところです。そのため日本時間で午前5時半過ぎに価格データをダウンロードすると引けのVIX計算に適切な価格データが得られます。ニューヨーク時間午後8時(日本時間午前9時)くらいから再び値段が動き始めるようなのでダウンロードのタイミングには注意しましょう。
本ノートで2024年7月26日午後4時40分(ニューヨーク時間)にダウンロードしたデータを使ってVIXを計算します。
このファイルをエクセルで開いた様子は下の図のとおりです。
データのうち今後の計算に必要な列は次の7列だけです。このほかの列は削除しましょう。
1. 償還期日(列AのExpiration Date)
2. コールオプションのコード(列BのCalls)
3. コールの買い気配値(列EのBid)
4. コールの売り気配値(列FのAsk)
5. 行使価格(列LのStrike)
6. プットの買い気配値(列PのBid)
7. プットの売り気配値(列QのAsk)
② 無リスク金利
もう一つ計算に必要なデータが無リスク金利です。Cboeの計算ガイドブックでは無リスク金利として米国債の利回りを使用しています。米国債利回りはアメリカの財務省が毎日公表しているのでウェブサイトで確認しましょう。
リンク先のページの上の方にある「DAILY TREASURY PER YIELD CURVE RATES」をクリックすると最新の米国債の利回りをみることができます。
今回の計算には7月26日の国債利回りを使います。
オプション価格と米国債利回りのデータを入手したのでVIXの計算に必要な情報はすべてそろいました。本項で入手したデータを次項以降で計算ガイドブックの手順に沿って加工していきます。
5.3. 計算に使うオプションの期日を特定しよう
5.2では現在取引されているすべてのS&P500オプションのデータをダウンロードしました。しかし計算に必要なのは週末に期日を迎えるオプションだけです。たいていは金曜日が期日のオプションですが、金曜日が休みの場合はその前営業日が期日のオプションを使います。
さて、金曜日が期日のオプションだけと言ってもまだたくさんの候補が残っています。VIXは30日間のS&P500の予想ボラティリティですので30日前後の「期近」と「期先」の2つの期日のオプションを計算に使います。
「期近」は計算日から30日以内の金曜日で最も遠くの日になります。今回は7月26日のVIXを計算するので、そこから数えて30日後は8月25日日曜日になります。その直前の8月23日金曜日が「期近」の期日になります。続いて「期先」です。こちらは「期近」の次の金曜日になるので8月30日金曜日が該当します。
計算に使用する「期近」と「期先」の期日を特定しました。この2つ以外の期日のオプションはもう使いませんので削除しましょう。
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