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くら寿司とテスラで考える「人による仕事」の価値

 先日、木下斉さんがVoicyの冒頭でスシロー行って時代の変化に驚いたという話をされていました。中でも木下さんが着目したポイントは、下段のレーンに流れていた「スシローで働きませんか?」というバイト募集の広告。自動化が進んでいるためスキル不問な上、シフトにこだわらず働きたい日にショット的に働けるように業務設計が進化しているのだそうです。加えて、バイトした日には30%オフで食事ができるそうで「今日はスシロー食べたいから、ちょっと働いてから安く食べよう」という「習慣?」が成立していると。つまり、お客と従業員の扱いがほぼ同じになってきているという印象を受けたとのことでした。
 この話が印象的だったのですが、私は昨日近所にあるくら寿司に初めて行ってきました。くら寿司も自動化がかなり進んでいたのですが、私はそこで改めて実感した「人が仕事をする」ということの貴重さや価値について書いていこうと思います。


くら寿司に入店(受付からテーブル案内まで)

 夕方になって「今日の夕食はくら寿司に行ってみよう」ということになったパートナーと私。日曜の夕方というのは、回転寿司屋が最も混雑している時間帯だということを知りました。私たちは25分程度の待ち時間でしたが、隣にある別のチェーンの回転寿司屋は105分待ちになっていました。
 ま、それはいいとして。受け付けはもう珍しくもなんともなくなったタッチパネル式の機械。「いらっしゃいませ」という機械音声に迎えられて、人数と座席の種類(テーブル席かカウンターでもOKか)を選ぶと現在の待ち時間が表示されるあれです。そこから待ちスペースに移って座っていましたが、次々と「いらっしゃいませ」の機械音声が響き渡っていて、かなりの騒がしさでした。印象としてはパチンコ屋の前を通りかかったときに時たま漏れてくる音が聞こえてきたりしますが、ボリュームはパチンコ屋ほどではないとしても雰囲気はそれと似た感じです。呼び出し番号はピンポーンという音とともにディスプレイに表示されていきますし、順番が来ると再びディスプレイを操作しにいって座席が割り当てられます。そして、その番号の座席まで行き、テーブルに埋め込まれている粉末緑茶やしょうゆ、箸などを取り出します。

くら寿司のレーン

 一息ついたらテーブル横にある端末で食べたい寿司やビールなどを注文。くら寿司には下のレーンにもまぐろやかっぱ巻きのような基本のお寿司やパック入りのワサビが盛られたボウル、おすすめメニューの看板が流れていて、求人広告は流れていませんでした。ちなみに下段のレーンは空港のバゲージクレームが小さくなったようなタイプですが、上段のレーンの素材はシリコンマットのようなもので直線的な動きしかできません。注文したメニューは上段のレーンで運ばれてきますがこちらはかなりの高速でしたので、開発段階では止まった時にお寿司が倒れない最高速度を徹底的に研究したことでしょう。いなり寿司は耐えられても軍艦巻きは倒れてNG、ということもあるでしょうし、熱い味噌汁があふれたりしたら大変です。新メニューを開発する際にはベルトの速度の見直しなども必要そうですよね。ビールジョッキの高さも低めで、かつ、お椀に乗せられていましたが、なみなみと注がれたビールは止まるときにかなりの確率でこぼれるからなのでしょう。

上下でタイプの異なるくら寿司のレーン
https://www.kurasushi.co.jp/fan/howto.php

5皿で1回のゲーム「ビッくらポン!®」

 食べ終わったお皿はテーブルの横にある口のようなところに入れていくと回収されていきます。このお皿が5枚になると注文用端末でゲーム「ビッくらポン!®」が始まります。当たりが出ると頭上にあるガチャガチャの機械から一つ商品が出てくる仕組みのようです。おそらく子どもはこのゲームがやりたくて注文したがるのではないでしょうか。家族で23皿食べたところでお腹がいっぱいになっていたとしても、あと2皿食べればもう一度ゲームできると思うと、お寿司はもう無理でもデザートとかを探してしまうような気がします。順番待ちの時に聞こえてくる音からパチンコ屋を連想しましたが、こうしたゲーム音もその連想に一役買っていたのかもしれません。

食事終了とお会計

 食事が終わって端末上で会計ボタンを押すと計算がされます。あとは勝手に席を立って入り口にある会計用のパネルに座席が割り当てられたときに発行されたQRコードをかざしてお会計も終了です。

店員さんとの会話ゼロ

 くら寿司から出て、この体験を振り返りながら家に向かって歩いていて出てきた言葉が「私たち、店に入ってから出てくるまで店員さんと一言も喋ってないよね」でした。あれだけ大勢のお客さんで混雑しており、パチンコ店のような騒がしささえ感じた空間でしたが、おそらく100人くらいいた人のなかで私が会話した人はパートナーだけ、パートナーが会話したのは私だけでした。これはなんだかとても不思議というのか奇妙な感じがしました。
 ファミレスのようなところでも、会計で店員さんに「ごちそうさまでした~」くらいの言葉はかけますし、店員さんも「ありがとうございました~」くらいの言葉はかけてくれますよね。コンビニでもお金の受け渡しは機械で行っていますが、「ボタンを押してください」とか「お箸つけますか」「お願いします」といったやり取りが発生します。でもくら寿司ではそういったやりとりが全くありませんでした。
 これが良いとか悪いとかという話ではなく、まだ慣れていないので落ち着かない、不思議な感じがしたということです。

店員さんの仕事はなにか

 もちろん、店員さんが全くいないわけではありません。端末でエラーが発生したときには駆けつけていましたし、食事が終わったテーブルのお寿司のお皿以外のお椀やジョッキなどを片づけたりテーブルを拭いたりといった仕事は店員さんが担当していたからです。でも、それはあくまで非常時であったり、客が立ち去った後のテーブルを片づけているということなので、特にトラブルなどがなければ店員さんと客の接点はありません。
 あのお店で人がしなければならない仕事はトラブル対応とテーブルの片づけ、店の掃除くらいなのかもしれません。お寿司の調理については、シャリはおそらく機械が握っていて、上にネタをのせる(握るわけじゃなくて)のは人がやっているのでしょうか。注文に応じて必要なネタが機械から2枚ずつ出てきてそれを両手でのせる、というようなことになっているのかそれともネタのせロボのような機械があるのかもしれません。さすがに軍艦巻きの具は人が一つ一つのせていかないと無理かもしれないと思ったりしましたが、片づけや掃除に関して言えば、先日発表されたテスラのロボットOptimusは洗濯物をたたんだりテーブルの上を拭いたりしていましたので、こうしたロボットに任せられるようになるでしょう。
 1日14時間分の仕事を時給1,200円のアルバイト10人で回すと仮定すると、人件費は単純計算して16万8千円/日です。1か月だと504万円、1年で6千48万円になります。テスラのロボットが1台450万円なら10台導入しても1年もたたずに投資回収できてしまうわけですよね。今はまだ450万円という価格で買うことのできるロボットが市場にないので人を使っているのでしょうが、数年後に450万円で買えるようになれば経営者としては当然ロボットにすると思いますし、私がもし経営者であっても片づけや掃除の担当はロボットにします。つまり、店員さんが行う仕事が「お皿を片づける」「テーブルを拭く」といった動作だけでよいなら、同じことをより安くできるロボットに置き換えるということです。

くら寿司のシャリマシーン
https://kura-job.net/cnt03/

人による対応に求める価値

 「片づけ」「掃除」といった動作だけではなく、挨拶やオーダーを取る際などに発生するお客と店員との間のコミュニケーションの中で、その時その人からしか生まれない言葉や表情が出てくるか、それらによって得られる料理や空間といった物理的要素以外の意味的な価値をお客さんは欲しているか、さらにお店側もそうした価値を提供したいと考えているのか。これからはその基準をどこにおくかで人による接客か機械による接客かに分かるのだと思います。
 これは、ホワイトワーカーの仕事でも全く同じです。あえて人に仕事をさせるのであれば、そのアウトプットには単なる資料だとか数値が入力されているデータ表といった物理的な「もの」以上の意味的な価値が追加されていなければならないのです。
 私が以前所属していた職場では「人が足りない」といって人を採用しては仕事という名の作業に従事させるということを繰り返しています。事務所が都会にあるため今のところはまだ人が採用できてしまうのが不幸なところです。そこでは機械(マクロを組んだExcelとかちょっとしたデジタルツールとかAIツールのことです)でできるほとんどの作業、つまり人がやっても機械がやっても結果が同じことをわざわざ人にやらせていますが、誰もその作業が人以外のものでできると思っていませんし、「ひょっとしたら機械でもできるのでは?」と考える人さえ皆無です。
 私から見れば、ここの従業員たちのアウトプットと機械やChatGPTのアウトプットのクオリティは同じ、しかし従業員のほうは時間が何倍もかかっているので、こうした仕事に関して言えば彼らのアウトプットの価値は月額にして20ドル以下です。自分たちは「うちは月額20ドル以下の仕事をする人間の集団です」と触れ回っているのだということを、管理職も従業員も早く気づいたほうがいいと思います。


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