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学校規模ポジティブ行動支援:第1層支援の「実践」と「データ」

学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)の第1層支援では、学校全体で子どもたちの良い行動を増やすために、先生たちは、子どもたちが頑張っている場面を見つけてほめたり、トークン(シールやポイントなど)をあげたりします。たとえば、友だちを助けた子に「よくやったね!」と声をかけたり、静かに授業を受けられた子にポイントをあげたりします。こうした小さな積み重ねが、子どもたちに「望ましい行動をすると、いいことがあるんだ」と実感させ、子どもたちの頑張りを一層引き出す取組となります。

このやり方は、「分化強化」という考え方に基づいています。「分化強化」は、先生が「望ましい行動」に「注目」して、ほめる関わりやトークンをあげる回数を増やすかかわりです。不適切な行動には注目せず、時に無視したり、様子を見守って望ましい行動が起こるのを待ったりして、メリハリをつけます。こうしてかかわると、不思議なことに望ましい行動に取り組む子どもが増えていきます!逆に、叱ることなく自然に不適切な行動を減らす取組にもなるのです!!たとえば、休み時間に友だちと楽しく遊ぶ子は、同時にその友だちとケンカはしませんね?つまり、望ましい行動をとりやすい環境づくりは、不適切な行動をする時間や機会を減らす、予防的な対応となっているのです。

SWPBS第1層支援は、アメリカでも日本でも同じ理屈で導入され、学校全体で望ましい行動を増やすために実践されています。けれども、日米では学校規模での支援の展開の仕方に若干の違いがあるようです。

アメリカでは、学校のあらゆる場所で支援が行われます。そうして、SWPBS第1層支援が上手くいっているかどうかの判断をデータに基づき行っています。もしも、特定の場所や時間帯でサポートが必要な状況が把握できれば、必要に応じて追加のサポートを行う仕組みが整っているのです。具体的には、定期的に問題行動の報告件数を集計し、問題行動が増える時間や場所の分析を校内の会議で確認します。そうして、必要と判断されれば、その場所や時間帯でポジティブなかかわりが提供できるように、新たな作戦を立てます。こうした、データに基づいた意思決定を日常的に行うように工夫しているのです。

一方、日本ではどうでしょうか。SWPBS第1層支援を導入する学校が増え、学校全体で子どもたちの行動支援が行われるようになりました。ところが、日本の学校では、従来から児童生徒指導の係の先生が示す「月目標」に倣って、4月ならあいさつ、5月なら授業態度、6月なら歯磨きなど、特定の行動目標を取り上げて、期間を限定した「キャンペーン」を年間の指導計画に盛り込み、実践している学校が多いようです。もちろん、こうして取組が進めば、ポジティブな環境づくりは実現していくでしょう。しかし、月目標の見直しのサイクルは年1回となるでしょうし、行動目標の設定は、「今、そこにある」子どもの行動問題を確認して行われるというよりは、予め決まっている予定に沿って実施される、という形をとることになります。行動目標の設定と、それに絞った取組が子どもの支援につながっているか、といったことを考えるためには、日本でもデータを取り扱って支援を意思決定する仕組みを備えた学校づくりが期待されます。

ただし、データの扱い自体は、日々の先生方のお仕事を考えると難しい側面もあります。だから、データを素早く活用して、もっと効果的に子どもたちをサポートできる仕組みづくりが大切だと考えています。アメリカには、すでにweb上で子どものデータを集計、分析する仕組みが広がっています。日本でも、web上でのリソースの開発・提供を進めていかなければいけませんね。

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