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SWPBSの準備:成果データの取扱い

「このデータ、いつまで取るんですか?」

SWPBS(School-Wide Positive Behavior Support)に取り組む学校で行われた校内研修の一コマです。確かに、その学校でポジティブ行動支援を一定期間実施した結果、子どもたちの行動に変化が見られました。取り組みの成果を先生方と共有し、賛同を広げるために、行動目標に取り組んだ子どもの行動を記録に残し、集計したところ、取り組む前より取組を導入した時の方が目標行動に取り組む子どもの数は増えたのです。つまり、取組自体は成功だったわけです。ところが、そうした成果の共有を図る場面で出たのが、この意見だったのです。ある先生から投げかけられたこの質問は、多くの学校現場で共通する課題を浮き彫りにしています。

データは「手間」か「価値」か?

確かにデータの収集・分析には手間がかかります。そのため、「データを取らずに他の活動に力を注いだ方が良い」という考えがあっても不自然ではありません。しかし、SWPBSにおいてデータは、意味を伴わない単なる手間ではありません。それは 意思決定の基盤 であり、学校全体の取り組みを進化させるための道しるべなのです。

もし、「成功した!」と満足してデータをとることをやめてしまったらどうでしょうか。よい取組であったとしても、成果は一発の打ち上げ花火のように1度共有されればそれで終わってしまいます。学校が自らの取組を振り返り、常によくあろうとするためには代謝(continuous regeneration)が必要です。データの収集を止めてしまうということは、何が学校を代謝させるかという材料探しを止めることにほかなりません。

成果データの意義

SWPBSでは、代謝のために定期的な成果データの収集を重視します。その理由は次の通りです:

  1. 進捗評価ができる
    取り組みがどのように進んでいるかを確認することで、次のステップが見えてきます。

  2. 意思決定に活用できる
    どの施策が効果的で、どの部分に改善が必要かを科学的に判断できます。

  3. ビジョン達成の道筋が見える
    成果データは、学校が目指す理想像に向かっていることを証明するものです。

キャンペーン型 vs 長期的視点

短期間で目に見える成果を示す「キャンペーン型アプローチ」は、特に普及期において有効です。例えば、深刻ないじめ問題など、早急に解決すべき課題がある場合に、短期的な成功を示すことで取り組みへの賛同を得やすくなります。

しかし、その一方で、キャンペーンの繰り返しだけでは、持続可能性が低くなるリスクがあります。つまり、一生懸命頑張り続けるからこそ、データは次第に平坦に。変化がはっきりしない中、「また同じような結果だね」という雰囲気とともに、やる気まで失われる可能性も。子どもたちにとっても、「どれだけ頑張ればいいの?」と燃え尽きてしまうことが考えられます。

長期的成果を目指す

SWPBSが学校全体に浸透し、完全実施に至るまでには2~4年かかると言われています。この期間中は、どうしても短期的な目標設定や見通しで動かざるを得ませんが、焦らず進むことが大切です。短期的な成果の確認は大事ですが、それ以上に長期的な視点でよい成果が伴うことを確認しましょう。

そのためには、以下の工夫が有効です:

  • 日々の統計データを活用
    生徒指導部は、日々の問題行動の報告を受け、大きな問題(major behavior)に対応します。教務部は、子どもの出席統計を毎日とり続け、校務支援システムに保存し続けます。教科担当は、定期テストごとにテストの素点をとりまとめ、学期末の成績評価に役立てます。こうした業務にかかるデータは、いずれも学校全体の課題の把握に役立ちます。こうしたデータに変化を及ぼす環境とは何か、目標としている行動のヒントや、できたときのポジティブなかかわりの工夫を検討すれば、わざわざキャンペーンごとにデータを集計せずとも、日々収集されるデータから取り組みの成果を説明できるかもしれません。

  • 学校評価と連携
    日々の統計データのほか、学校では年度ごとに学校評価を出すことが求められています。自己評価のために教職員、児童生徒に対してアンケートを行う学校も多いはずです。こうしたタイミングで実施されている、学校満足度、適応感、学校風土など、学校のビジョン達成に直接関係のあるアンケートを用いて、回答の推移をみていくのはどうでしょうか。全国学力・学習状況調査は小6、中3に限られていますが、学習状況に関するアンケート項目に限れば、調査対象となっている子ども以外の回答を収集・分析してもよいかもしれません。特に、SWPBSに取り組むからといって、特別なデータを集計せずとも、学校が目指すべきビジョンの達成を評価する材料は、校内にたくさんあるのです。

おわりに

SWPBSは、学校全体で一貫性のある取り組みを通じて、子どもたちの行動変容を促し、学校をよりポジティブな環境に変える枠組みです。その成功を支える鍵は、成果データの取扱いにあります。手間はかかりますが、それ以上の価値がそこにあることを忘れず、長期的な視点で取り組みを準備しましょう。

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