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SWPBSの試行:「スクールワイドなんだから」という誤解

はじめに

「スクールワイドって、全員でいつでも同じことをやろうってことでしょ?」この質問は、SWPBSを実践しようとなったときに、ある学校の推進リーダーが受けた質問だそうです。確かに、「スクールワイド」という語には、「校内のいたるところで」という意味があります。質問された先生は、そうした意味をとらえて「誰もが決めごとに従って対応しなければならない?」「学級担任や授業担当者には裁量がない?」と心配されたのかもしれません。

しかし、こうした考え方は、SWPBSに対する誤解の一つです。確かに共通理解は必要ですし、実践上で押さえるべき内容もあります。だからといって、そうした理解を前提に、「決められた対応をひたすら守らなければならない」「横を見ながら誰もが紋切型の対応をしなければならない」といっているわけではありません。今回は、「SWPBSなんだから」ということから生じる誤解を取り上げ、SWPBSの実践が紋切型の対応ではないことを考えていきましょう。

全員が同じようにやらなきゃいけない?

まず、よくある誤解のひとつに「誰もが決めごとに従って対応しなければならない?」という疑問があります。確かに「スクールワイド」ですから、対応はいつでもという理解はうなずけます。しかし、理解がそれだけにとどまってしまうと、先生方は苦しくなってきます。

もちろん、「望ましい行動」の持続のためには、誰もが認める・ほめる対応は必要となります。ですが、「望ましい行動」を引き出す環境とすることが本来の目的となるならば、いろんな先生がほめ方の質や量に変化をつけて対応してくださる方がよいです。誰もがポジティブであっても、誰からいつほめられるかわからないという環境になると、子どもは気を緩めずに(?)望ましい行動を持続させようとします。これは、いつでもどんなときでもほめる先生ばかりという環境と比べても、ほめる働きが高まる可能性があるということです。その利益は、子どもたちに返ります。こうした考えに基づけば、「スクールワイド」ということば自体は、「望ましい行動」を引き出す環境づくりが「学校全体で」どのように行われるかということを論点にする方が、ずっと議論が広がるのではないでしょうか。

こうした考え方は、ポジティブ行動マトリクスに記された行動のとらえ方を変えるきっかけにもなります。ポジティブ行動マトリクスは、確かにその学校にとっての「望ましい行動」を示す一つの指標であります。しかし、マトリクスに含まれていない行動を否定しているわけではありません。実際、各クラスや教科ごとに子どもたちの様子は異なり、指導のアプローチも多様であるべきです。

例えば、あるクラスでは、グループディスカッション中の「発言のタイミング」や「意見の共有」が重視される一方、別のクラスでは静かに集中する姿勢が評価される場合もあります。こうした違いを尊重しながら、各教員が自らの裁量で、子どもたちに最適な支援を行うことこそが、SWPBSの真意と言えるでしょう。

手立てを工夫してはいけない?

そう考えれば、「マトリクスに記された行動目標に対し、全ての子どもに同一の手立てを講じなければならないのか?」という疑問に対する答えも簡単です。子どもたち一人ひとりの課題や発達段階、またクラスや学年ごとの状況に応じて、効果的な手立てを模索していくことがとても重要になります。

もちろん、学校全体での承認や称賛のシステムは必要です。システムの整備として行われるトークンの流通、その枚数を評価し、学校全体での取り組みをポジティブに振り返る機会などは、SWPBSの取組みを方向付ける大切な要素となります。ただ、その枠組みの中で、学年やクラス独自の課題に合わせたオリジナルのアプローチを取り入れることは、子どもたちにとって最も効果的な支援につながります。指導は決して画一的なものにはならず、柔軟性を持たせることは、SWPBSの大切な考え方の一つです。

学校規模で取り組むときの基本的要素

SWPBSの第1層支援を学校規模で効果的に実践するためには、以下の4つの中心的な要素が必要です。

  1. 「学校で期待される姿」を教える(Teaching Expectations)
     子どもたちがどのような行動をとることが望ましいのかを、明確に、そして一貫して教えることが基本です。

  2. 適切な行動を称賛・承認する(Reinforcement System)
     望ましい行動が生じたときに、即座に認め称賛する仕組みを整えることで、その行動の定着を図ります。

  3. 問題行動を修正する(Restrative Approach)
     単に罰するのではなく、なぜその行動が望ましくないのか、どのように改善できるのかを教え、問題行動の改善を促す方法です。

  4. 児童生徒への対応に困った場合、他の教職員に支援を求める(Crisis Initiatives)
     個々の教員だけで対応が難しいケースでは、チームとして迅速に支援を行い、全体で解決策を模索します。

これらの要素は、全教職員が共有する共通の枠組みであり、定期的な研修やミーティングを通じて理解と実践を深めることが求められます。全体としてのシステムがあることで、各現場での柔軟な対応がより円滑に行えるようになるのです。

まとめ

SWPBSにおける「スクールワイド」という概念は、全員が一律に同じ対応をすることではありません。

それぞれの子ども、クラス、学年の実情に合わせた目標設定と、その目標に応じた適切な手立てを講じることが大切です。決めごとに縛られるのではなく、柔軟で効果的な支援体制を目指す――これこそがSWPBSの真に目指すところです。

この考え方に基づき、学校全体で一丸となって取り組むことで、子どもたちが望ましい行動に自然と導かれる環境が整えられ、結果として各自の成長が促進されることを期待しています。

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