ポジティブ行動支援:ポジティブ行動支援とは何だろう?
皆さんは、「ポジティブ行動支援」という言葉を聞いたことがありますか?ポジティブ行動支援(Positive Behavior Support: PBS)は、教育現場や福祉分野で広く用いられている方法で、子どもの行動を理解し、支援するためのアプローチです。今回は、この「ポジティブ」という言葉に込められた2つの意味についてお話ししたいと思います。
1. 子どものポジティブな行動に注目する
ポジティブ行動支援の「ポジティブ」という言葉の一つ目の意味は、子どもが示す「ポジティブな行動(Positive Behavior)」に注目することです。なぜなら、われわれが子どもに身に付けさせたい行動は問題行動ではなく、望ましい行動だからです。
望ましい行動には、ルールを守ったり、他者と協力して活動したりする行動があります。ところが、こうした行動は大人にとっては「当たり前」となりがちです。かえって、子どもがルールを守れないとき、他者と協力できないときのことが目についてしまいます。もちろん、こうした気持ちは子どものことを心配すればこそですし、自然なことかもしれません。ただ、だからといって問題行動があったら「やめさせよう」というかかわりだけになってしまったらどうでしょう。そうしたかかわりは、きっと、大人にとっても、子どもにとっても、苦しいのではないでしょうか。
そうした負のスパイラルから抜け出すためは、問題行動を「やめさせよう」という視点を変えることが必要です。望ましい行動を「当たり前」のこととしないで、「そうだよね!」「がんばっているね!」「大したもんだ!」と見逃さない視点が大切になります。
2. 正の強化を用いたポジティブな介入
「ポジティブ」のもう一つの意味は、「正の強化(Positive Reinforcement)」を用いることにあります。正の強化ということばは難しいですね。これは、応用行動分析学(Applied Behavior Analysis; ABA)という学問のことばで、子どもの行動の直後のかかわり方を意味します。その子どもにとって「よかったな」「またやってみよう」と思えるような工夫を大人が加え、実際に子どもの行動に変化があれば、それは正の強化と呼ぶことができます。
たとえば、子どもが挨拶をしたときに「よくできたね」と褒めると、子どもにはどんな変化が起こるでしょう。「よくできたね」ということばを聞いた子どもが「挨拶してよかったな」と実感できることばとなれば、子どもは「またやってみよう」という気持ちを高めることになるでしょう。そうした変化は、次の挨拶の機会でも、自分から挨拶をする可能性が高まることを意味します。
一方、こうした取組を進めると、中には挨拶することが苦手な子どもがいることに気づきます。声の小さい子ども、自信のない子ども、恥ずかしがりな子どもが挨拶なく通り過ぎようとしたとき、どうしたらよいでしょうか。「挨拶しなきゃダメでしょ(怒)」と声をかけたとき、次の機会に子どもは「やってみよう」と考えるでしょうか。いや、私が子どもだったら、大人のいないところを通って難を逃れようとするだけです。
ですが、そうした子どもと出会った時には、最初の「ポジティブな行動に注目する」ことを大切にします。挨拶することが苦手な子どもでも、挨拶する大人と目を合わせることがあります。気まずそうに頭を下げることがあります。か細い声で挨拶を返してくれることがあります。いずれも十分な挨拶ではないかもしれません。しかし、子どもは勇気を振り絞って「やってみよう」としているのです。そうした「ポジティブな行動」の芽生えに注目できれば、「目を合わせてくれたね」「お辞儀できたね」「挨拶ちゃんと聞こえたよ」と返すことができます。こうしたかかわりは、次の機会の子どもの「やってみよう」という気持ちと行動を育みます。そして、少しずつ上手に挨拶ができるようになれば、注意をしなくても「挨拶をしないで無言で通り過ぎる」という問題を解決することにもつながるのです。
結論:ポジティブ行動支援を広めるために
ポジティブ行動支援は、子どもの「ポジティブな行動」に注目し、正の強化を用いてその行動を促進することで、子どもたちの成長を支援する非常に効果的なアプローチです。ポジティブ行動支援が教育現場や福祉分野にさらに広がることで、子どもたちが安心して成長できる環境が築かれるでしょう。
しかし、このアプローチが広く理解され、実践されるためには、応用行動分析学(ABA)の理解が大切です。私たちは、多くの子どもたちがより良い未来を築けるよう、これからもポジティブ行動支援とABAの情報をお伝えしてまいります。
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