Print House Session 篠原紙工で製本
4人のデザイナーと4つの印刷会社がタッグを組み、横田大輔さんの冊子をそれぞれ作るプロジェクト、「Print House Session」。最後の段階、製本を手がけるのは4チームいずれも篠原紙工です。代表の篠原さんにご案内いただき、山田写真製版所×加藤勝也チームの製本過程を見学しました。
伺ってみるとそこにはもうほとんど完成しているように見える冊子が!
印刷所では大きな紙に何ページかまとめて印刷しています。それが搬入されたら、裁断するところから始まるのが製本所のお仕事。
印刷を担当された山田写真製版所の記事で印刷時の状態が見られます:https://note.mu/pbjp/n/nd4bfe16e55e3
既に裁断の段階は終わっていたので、他の印刷物の裁断を見せていただきました。
詰んであるところから裁断機に移す動きだけでも職人技を感じます。
さて加藤チームの製本に戻ります。基本的にはスタンダードな“中綴じ”製本です。パンフレットや週刊誌のように、折った(=折丁)紙を くくく という感じで重ね(=丁合)、折り目を綴じる製本方法です。ただし、2つ折りでない点と、2つのパーツの組み合わせから作る点で通常とは大きく異なります。
今回の冊子は黒とゴールドのダブルトーンの冊子と、外を覆うフルカラーのカバーといったような構成になっています。これは外側の折丁と内側の折丁・丁合まで、それぞれに機械で終わらせてある状態です。
この4方向から折ってあるというのが中綴じ界広しといえども他にはないような珍しいデザイン。篠原さんこだわりのポイントです。
見学したのは、この2種類を一緒にして綴じる段階です。
普通の中綴じの本であれば、全部この機械のラインで自動的に製本されるのですが、今回はこの4方向から折られている外側と、内側の冊子との丁合が機械ではできないので、ここに手作業が入る(=手掛け)形になっています。
職人さんが手掛けで2つのパーツを丁合。レールに乗せます。
最初に加藤さんが提案されたのは外側と中の冊子をズラしたデザインだったのですが、このレールで自動的に移動させられなくなるため削ったそうです。
左端まで冊子が辿り着くと機械が綴じています。今回の冊子は4方向を綴じるので、綴じたら戻ってもう片側、と繰り返します。拝見したときはまだテスト段階とのお話でしたが、職人さんはまるで機械の一部のような安定した手つきでレールに載せていかれていました。
通常は職人さんの前にある口を開けている機械が自動で丁合を行って、この一角のラインで自動的に製本が終わるようになっています。最初から最後まで機械に任せられるような単純な中綴じ製本の場合は1時間6000冊ペース。今回の製本は1時間1000冊のペースとのことでした。
製本にかかるコストの大きな要素は人件費。人の手を使えば色んな形が実現できますが、当然時間がかかってコストは吊り上ります。予算に合わせてどこまで手掛けにするかのバランスが重要になります。なので、篠原さんが重要視しているのが、製作者が何を誰に伝えたいのか理解して製本方法を提案すること。クライアントは「中綴じ」「正方形」などかなり具体的に指定してくる場合が多いのですが、「正方形じゃなくてもいいのでは?」と伝えたいことに沿って再提案していくそう。
今回の場合、篠原さんが重要だと感じたのは世界観の構築でした。横田さんや加藤さんから直接出た言葉ではないのですが、この作品の大事な部分が“カオス感”だと解釈したため、4方向から折りたたむ入り組んだ構造は実現することに。先述したズラすデザインなどを切り捨てることでバランスを取ったそうです。
何を優先するのかがわかったら、寸法や厚さなど、機械に合わせたり人が行う作業に合わせたりしてデザインを調整する必要もあるので、かなり上流から携わる必要がある、ということになります。
本の目的というのは、作家、出版社、デザイナー、印刷所……と伝言ゲームになってだんだんスポイルされていってしまうわけですが、最後にエンドユーザーとの橋渡し役となる製本段階で目的に立ち戻れるようにしたい、と篠原さんはおっしゃっていました。
そんな風にたくさんのデザイナーさんとお仕事をされてきた篠原さんが考える「伝えるのがうまいデザイナー」は、モノではなく人を見ている方だそう。
まさしくセッションのような、本づくりの面白さを垣間見せていただけたように思いました。
(写真/文章 徳田詩織)
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