10年続いた日銀黒田総裁、最後の決定会合
この記事でわかること
3月9-10日に日本の金融政策の方向性や政策金利の上げ下げなどを決定する、日銀金融政策決定会合(日銀会合)が開催されました。4月8日に任期満了を迎える黒田現日銀総裁にとって、最後の日銀会合でした。今回は、この日銀会合を検証し、今後の株価の行方を考えていきます。
大規模金融緩和策を継続
今回の日銀会合では、大規模な金融緩和策の維持を全会一致で決定しました。金融機関がお金を企業への貸し出しや投資に回すようになることを目的としたマイナス金利政策や、上場投資信託(ETF)の買い入れといった政策を継続しました。
また、長期ローンの指標金利となる10年物国債の金利をおおむねゼロ%程度に抑えることで、企業や個人がお金を借りやすくなる政策、イールドカーブ・コントロール(YCC)の変動幅もプラスマイナス0.5%のままとしました。
イールドカーブ・コントロール(YCC)については、昨年12月の会合で、変動幅がプラスマイナス0.25%拡大されたことで、市場の一部では変動幅を再び拡大するとの思惑も広がっていました。
世界の金利水準に比べて、日本の金利水準はとても低いことから、変動幅の拡大は、実質的な利上げに繋がります。変動幅の拡大がなかったことで、為替市場では、ドル・円相場が1ドル=135円台後半から136円台後半まで一時上昇(円安ドル高)する場面がありました。
景気は持ち直しているとの見方
今回の日銀会合では、日本の景気について、前回と同様に「持ち直している」としました。
ただ、生産・輸出については、海外経済の減速の影響から「横ばい」とし、前回の「基調として増加」から表現を弱めています。
注目の物価については、政府の経済対策による電気・ガス料金の押し下げ効果や価格転嫁の動きがやや鈍くなっていることから「23年度半ばにかけてプラス幅を縮小していく」と述べています。
ただその一方で、「経済を巡る不確実性は極めて高い」とも指摘しています。ウクライナ情勢、米中間の緊張など、不確定要素が多くあり、物価上昇が続く可能性も想定しているようです。
バトンは植田和男新日銀総裁へ
今回、大規模金融緩和策の継続が決定したことで、次に日銀の政策変更があるとすれば、植田和男新日銀総裁の下で開催される4月27-28日の日銀会合となります。
欧米の中央銀行のスケジュールを見ると、3月16日には欧州中央銀行(ECB)から、3月22日には米連邦準備制度理事会(FRB)から政策金利が発表されます。現在、欧米では利上げ幅拡大の議論がなされており、日米、日欧の金利差拡大の傾向が続くでしょう。
このため、為替は大きな流れとしては、円安方向に動きやすそうです。日本は輸出企業が多いことから、円安は株価にとってプラスに作用する可能性が大きいです。
また、植田和男新日銀総裁は、2月の所信聴取で「日銀が行っている金融政策は適切」、「金融緩和策を継続し、企業が賃上げできる環境を整える」と述べており、黒田現日銀総裁の政策を踏襲する考えを明らかにしています。
その一方で、イールドカーブ・コントロール(YCC)には副作用があるとも指摘しています。植田和男新日銀総裁は、「物価安定の総仕上げをしたい」とも述べており、これは大規模金融緩和策からの出口戦略、金融政策の正常化への道筋を立てるという意味だと考えられます。この過程で「金融引き締め」は避けて通れません。逆に言えば、植田和男氏が日銀総裁に着任する4月9日付近までは金融引き締め策が行われる可能性は低いので、株価はしっかりとした展開が期待できます。
ただ、4月の日銀会合が近づくにつれて、市場では再びイールドカーブ・コントロール(YCC)の変動幅の拡大などの思惑が高まり、円高や株安に振れる場面もありそうです。
記事作成日:2023年3月13日
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ライター:佐藤 隆司(プロフィールはこちら)
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