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凡庸雑記「知性の大海」
茨城つくばの、よくあるショッピングモールに、それはそれは広大な書店があった。
行けどもいけども本が並び、汲めども尽きぬ知性の大海がそこにあった。
まずは、入り口付近の、流行りの本や趣向をくすぐる雑誌を摘み、空腹な趣味ゴコロを満たした後、捕食の後の獅子の如く、ゆったりとした足取りで書店を巡る。
遠く彼方、陽炎のごとく立ち並ぶ本棚が目に映る。
あゝ、彼方にまで、人が記した書があるのかと、驚き慄き足を進める。
そこには、多種多様の幸福な知性があった。
希少ゆえの法外な値段を有し、金銭へ化ける術は限りなく脆弱、需要と供給の基本的な常識が、見事に破壊した人類の至宝。それらが、ふんだんに保護されている。
愛しき、知性への深く尊く誠意のある本たち。
背表紙に興味をそそられるたび、手に取ってはわずかな内容をかじり取る。無論、理解と言うにはあまりにも哀れ。
それでも、開くたびに四方に広がる知欲の香りを体に浴びて、ほんの数段思考の質が上がったと、錯覚し悦に入る。
不遜な欲望と願望が脳裏に浮かぶ。
仮に、無尽蔵の財と、汲めども尽きぬ芳醇な時間が、我が身に許され約束されているのなら、前後不覚、阿鼻叫喚、問答無用、目に付いたものを、手に抱えられるだけ会計場にうずたかく積み上げ、目鼻が整った見目麗しい店員の目を、より大きく丸くさせたに違いない。
しかし、非現実的夢想家の遠吠え。こんなことは叶うはずもなく、名残惜しさを指先から放射して、本棚の中にしまい込む。別れを告げる。ほんの遊び、気の迷いだと。
そして、楽き妄想は放逐して、腰痛と倦怠にまみれた現実を背負いながら、今や希少となった、広々とした知性の場を後にするのであった。
てなことで、妄想詩人気取りで、久しぶりにだだっ広い書店に出会った、喜びを書き殴ったのであった。