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コワーキングは場所があってもいいし、なくてもいい。でもコワーキングはなきゃ駄目。
*この記事はコワーキングスペース Advent Calendar 2021の11日目の記事です。
Hiromi Kanaeさんからバトンをもらい、卯田理子さんにバトンをつなぎます。
あの日から4年
「あの日」といっても僕以外はごく一部しかピンと来ないと思いますが・・・4年前の今日、僕は「東京初のコワーキング」を閉じることを発表しました。
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パーティするように・・・しよう
「パーティするように仕事しよう」という妄想を抱いたことにより、僕はコワーキングというキーワードを知ることになりました。その妄想は、僕が起業して最初の事業として行った飲食事業を「交流する飲食店」というサブタイトルのもとに運営していたことから生まれました。
お客さんに楽しく過ごしてほしい。日常では会わないタイプの人と出会えるとなおいい。
そう思って店舗の運営をしていたのですが、たまたま出会ったお客さん同士は、僕の期待を遥かに上回る行動をしました。
そのひとときを楽しむだけでなく、
次回一緒に食事に行こうと約束をしていたり、
その場で僕のレストランに予約を入れてくれたり、
さらに、
隣で食事をしていた人に触発されて転職した
パーティでたまたま話した人と会社を作った
などなど・・・。
コワーキングにおいては、今や日常的に起こることです。でも僕はその当時、コワーキングの「コ」の字も知らない頃でしたので、たくさんの人が自分の運営する場で人生に関わる決断をしていくことがとても嬉しかったのです。
そこで、交流する飲食店の派生系として交流するオフィスをつくりたい。「パーティするように仕事する」場ってどんなところだろうと考え始めました。そして、SNSでたまたまロンドンにあるコワーキングスペースの写真を見た瞬間に、「パーティするように仕事する」場を作ることを決意しました。それが、東京で最初のコワーキングとなったPAX Coworkingです。
PAX Coworking というコワーキング、その基となった パクチーハウス東京というレストラン、そして、その後作った地域活性をコミュニケーションの力で達成するランニングイベントのシャルソン。オフィスを飛び出し、この3つの事業で僕はコワーキングを推進してきました。
場づくりから始めて、場にとらわれず地球上すべてをステージにするコワーキングを作りたいと、この当時、考えていました。そして今でもそれを目指しています。
コワーキングは場所ではなく人
コワーキング界ではあまりに有名なフレーズです。僕はこれを愚直に追い求めています。
物件が空いたから、机を並べたから、開業届を出したからコワーキングができるわけではありません。そこに発起人がいて、強い意志があり、それに賛同する人がいて、それが伝わって多くの人が行動を始めると、コワーキングになります。
世界にあるほとんどのコワーキングは、なんちゃってコワーキングだ!
こう憤る世界のコワーキング・パイオニアたちがたくさんいます。コワーキングの名が広まったのは、なんちゃっても含めてこの用語を使う人が増えたからではあるのですが、僕もせっかく広まったこの単語の、正しい意味合い・ニュアンスを伝えたいと思って11年ほどになりました。
パクチーハウス東京とPAX Coworkingは「場所」です。そこにあるコンセプトと、そこに集う人がいるからコワーキングになるとはいえ、これらは「場所」でした。
一方で、この、面積の制約から抜け出すために作ったコワーキングのスタイルが「シャルソン」でした。ランニングイベントだけどコースを作らず、初回は世田谷区と狛江市全体(+少し調布市)をステージにして、シャルソン参加者はもちろん、シャルソンのことを知らない人も含めてコミュニケーションに巻き込む仕掛けを作りました。
シャルソンは超メジャーなものにはなっていないけど、全国に広まりました。全国100カ所以上で、270回ほど開催された実績があり、来年2月には10周年を迎えます。
この、場所からの解放が、僕の心に大きく影響したと思われます。
「コワーキングは場所でなく人」。
でも「場所」があるから成り立つんだよね?
そうじゃない。と何度も説明したけど、ほとんど理解されません。
また、時間が経つと「場所」に依存する人が出てきます。
コワーキングでいつも同じ席に座っている人、いませんか? 複数のコワーキングを渡り歩く人が混じり合うからコワーキング全体の価値がどんどん高まるのに、自分にとって「ベストコワーキング」を選んでしまって、思考と行動を停止していませんか?
下の階でやっていたパクチー料理専門店もそうでした。できたときは「意味不明」「成り立つのか」と心配され、一緒に作ろうという気概のあるお客さんが多かったです。種を渡せばパクチー栽培を始めたし、公開したレシピを他のお気に入りのレストランに持ち込んでくれる人もいました。
いいか悪いかは別として、パクチーブームを起こしてしまいました。パクチー料理を出す店は増えたし、パクチー料理専門店もいくつもできました。「パクチーがいつでも食べられる安心感」「自分で作るよりパクチーハウスで食べるのがいい」。利益を求める飲食店としては全く悪い話ではありません。しかし、場所に依存する人を作ってしまい、その人たちが行動しない原因を作ってしまっているとすると、何のための事業活動でしょう。
「場所ではなく」。
場所を無くすことで、僕が生み出してきたものは消滅するのか、それとも、それでもいろいろなものが生まれ続けるのか、そんなことをやってみたい!
これを思いついたのは、閉店を宣言する2年ほど前なのですが、場が「忽然と消える」というのが、その時にやってみた新しいチャレンジだったのです。
閉店に関しては、語り始めると数年かかるので代表的な記事を貼っておきます。
移働
その後、1年半ほど、移働(移動しながら仕事すること。日本初のコワーキング・カフーツの伊藤富雄さんの造語です)していました。「旅育」最終章で、家族と中長期でタイとかメキシコで暮らしてみたりも。
各地で講演したり、お声がけしてくれた人と仕事したり遊んだり。先は見えないまま(というか、あえて何も探さない余白の時間)、過ごした日々でした。
出会いは素晴らしいです。学生時代の旅からその価値を実感しています。
でも、出会いだけだと大したことない。素晴らしい本を読んで感動したという程度のもの(そして、その後行動しないというやつ)。
「再会」には「出会い」の10倍以上の価値があると思っています。これは経験から感じたことです。また、同じ土地を訪れること、「再訪」も同様に、とても価値があります。さまざまな土地を訪れて、また来たいと思ったり、また来てねと言われたり。それはいつものことだし、そのつもりでいるのだけど、思った以上に再訪できません。
そんな中、何度も繰り返し訪れることになった(運命というほど。最初は意思ですらありませんでした)場所がありました。房総半島の内側、鋸南町というところです。
鋸南町、読めますか?
僕は読めませんでした。3回行くぐらいまでは書けなかったですし(恥ずかしながら「据南町」と書いてしまいました)。
鋸南町に繰り返し行くうちに、まず人の良さに惚れ込み(道行く人が声をかけてくれました)、自然に心地よさを感じました。そして、バブルの頃にできた、これからの時代には使い道がなさそうな巨大な物件に巡り合いました。
僕は、地方で何かをやろうとしていたとか、物件を探していたというわけではないんです。でも、誰も使わないと思われる場所を見て、不思議と惹きつけられてしまったのです。
アートとコワーキング
PAX Coworkingの最後の1年ぐらい、特に呼び掛けたわけではないのですが、いわゆる一般に「アーティスト」と呼ばれる人たちが利用者として現れました。
僕としては、さまざまなタイプの人が場を豊かにすると確信しているので、大歓迎していました。彼らと何気なく交流していると、あることに気づきました。
それは、アーティストがいると、周囲の仕事に対する姿勢や話す内容に変化があるということです。アーティストの意見に影響を受けるという話ではありません(それはそれでよくあります)。
アーティストが黙々と作業をしていても、その周辺にいる人、横目でアーティストの活動を見ている人の考え方や発言は変化していくのです。アーティストが利用している日とそうでない日は何か違うのです。
アートとコワーキングについて考えて、実証実験したいと考えていました。しかし、その結論が出る前に、僕はPAX Coworkingを閉じる期限が来てしまいました。
巨大物件を・・・
東京で借りていたコワーキングの物件の面積は約89平米。絵描きが大きなキャンバスを持ってくるとか、大きな現代アートを作るようなスペースはありませんでした。アートとコワーキングについて考え始めてはいたものの、そうした事情もあり、取り立ててアーティストを募集したことはありません。
それが、鋸南の巨大物件に向き合うようになったとき、ここでならその実験ができると思ってしまったのです。
閉店して建物を返したとき、事業用に不動産物件を借りることは2度とないだろうと思っていました。「無店舗展開」と称して、パクチーハウスのポップアップ営業をし、コワーキングに関しては思想家とユーザーであろうと決めていました。
しかし、人生わからないものです。気づいた時には契約書にハンコを押しており、450平米の巨大物件を動かさなくてはならない状況になっていました。
コワーキングとアーティストインレジデンスなどの融合施設を運営することになりました。移働中に知り合った、コワーキング運営経験者のまさやんをパートナーとして、縁もゆかりもなかった鋸南町で事業を始めました。
施設全体を鋸南エアルポルトと名乗り、
コワーキング部分を PAX Coworking と命名しました。
復活したPAX Coworkingには兄弟がいます。
0|《ゼロ》にしたはずの拠点が、複数になりました。福井県大飯郡高浜町に PAX Coworking Takahama が、東京都品川区五反田に PAX Coworking Gotanda がそれぞれ生まれました。本当に、人生わからないものです。
僕がコワーキングという言葉を知ってからもうすぐ12年。
コワーキングという単語に注釈が付かずにメディアでも語られるようになりました。都市はもちろん、田舎でもコワーキングが出来ていると知っています。立ち上げや運営の相談もたくさん受けています。
僕は、コワーキングは一般に理解されている、と勘違いしていました。
鋸南エアルポルトを作る時、田舎町に作るコワーキングの可能性に多くの人が期待を示してくれました。鋸南町で知り合った人たちも、楽しみだと言ってくれました。でも、僕が会ってきた地方に暮らす人たちは、ほんの一握りの好奇心が旺盛(時にいい意味で過剰)な人たちだったと気づくのに、鋸南町でコワーキングを始めてからそれほど時間がかかりませんでした。
その後、 #CoworkingDays という名でイベントを連発して、認知度を広めようとしています。
「パソコンで仕事する人の場所」というコワーキングのイメージを、「私が暇な時に行ったら寛げて、楽しめて、面白いことを思いついちゃう場所」に変えるまで、試みは続きます。
カフェを立ち上げてみた
鋸南エアルポルトは、JR内房線「保田駅」から徒歩3分の位置にあります。道中、商店街があり、最盛期には行き交う人と肩がぶつかるほどの大賑わいだったそうです。40年前の話です。
今は、シャッター街だったのが、2年前の大型台風で損壊した建物が取り壊されたりして、シャッターすらない、建物がなくなってきているのです。
新型コロナウイルスの影響で東京から人が消えた時、僕は都心で人のいない駅や道路の動画を撮り、まとめました。そのオチとしていつも人が歩いていない保田の商店街の動画を載せましたが、そこだけはコロナ前からのいつもの風景でした。
そこを通って、通勤やランニングをしています。僕は賑わっているその商店街を見たことはないのですが、あまりに多くのお年寄りから「肩がぶつかった」という話を聞くので、今ではありありとその情景を思い浮かべることができます。
鋸南に通い始めて2年が過ぎ、その情景を懐かしく思うのではなく、その情景をつくるのが今の僕の目標です。そして、その第一歩として、鋸南エアルポルトから商店街を挟んで反対側、つまり、保田駅の目の前に、カフェを作りました。
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来る人に衝撃的なインパクトを
町の人、観光客が気軽に入れるカフェを入口に、鋸南エアルポルトその他、日常にコワーキングが入り込む仕掛けをさまざま作ろうと考えています。
他にはない唯一無二のものを町の入口に置くことによって、初めて来る人に衝撃的なインパクトを与えることも目標としています。鋸南のことを忘れさせません。
というわけで、町の入口にある銀行跡地を、通称「パクチー銀行」というカフェにしました。
ここと鋸南エアルポルトを往復する人を増やし、その間にある商店街の店舗が気になり出し、思わず借りたくなる気持ちが生じたとき、僕がすかさず唆してあげたいと思います。
コワーキングの黎明期から、PAX Coworkingに来てしまった人の多くは僕に唆され、会社を辞めて独立の道を歩みました。鋸南でも人生をカジュアルに変える後押しをしていきたいと思っています。
圧倒的に面白い町を一緒に作りたい人、ぜひ鋸南に遊びに来てください!
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