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「魅惑の心理」マガジンvol.255(周囲がスローモーションになる現象)

あれは私がまだ大学生の頃の話です。
友人たちと福島県へスキーに出かけたときに、奇妙な経験をしたことがあります。

その日は午後から天候が悪く、吹雪いていて、早めに引き上げる人も多く、スキー場の人影が少なかったです。リフトが止まるまでもう少し時間がありしたが、周囲は急速に暗くなり、銀鼠に鈍く光る雪がみぞれに変わってきました。

このとき、すぐに帰宅すればよかったのですが、最後に1本滑ろうと友人たち3人でリフトを乗り継ぎ頂上まで向かいました。リフトに乗る人は私たち3人だけでした。

頂上に着くと周囲はもう暗く、モヤがかかり数メートル先も見えません。人影は全く見えません。いつしか、みぞれの水分量は増え、雨のようになってきました。かなり危険を感じ、はやく降りようと、友人たちと見えない闇の中に飛び出しました。

雪が重いです。
水分を含んで、板に引っ掛かります。
闇の中、友人の姿も見えません。
後ろにいると思いましたが、途中で抜かれてもわかりません。

急勾配、重たい雪が足にまとわりつきます。
バランスも取りにくく、一度、止まって立て直そうとした、そのとき、周囲の雪ごと滑り、頭が下に向いて転び、そのまま周囲の雪と共に滑落しました。

頭が下になったまま、急な速度で落ちていきます。頂上近くはかなりの急勾配で、その速度が上がります。ストックを刺そうと思ったり、板を引っ掛けて止めようとしても、ゆるくなった雪に引っ掛かりましません。

「あ、自分はこのまま速度をあげ、どこかでコースアウトして木に激突して死ぬ」

そんなことを思った瞬間、頭によぎるのは過去の記憶、楽しかった思い出、小中学校でのイベント、両親との会話でした。

なんでこんなことを思い出すのだろう。

高速で落ちながら、ゆっくりと思い出す時間があるような不思議な感覚。
普段の1秒よりも、もっとはやく進んでいる1秒に感じるのに、なぜか頭の中だけはゆっくりと時間が進んでいるかのような、いや逆に自分の体がスローモーションになっていて、色々と考えられる時間ができたのか、とても奇妙な感覚です。

4つか、5つか、過去の記憶が頭の中の静かな場所に湧いてくる水のようだと感じていると、突然、ストックが何かにひっかかり、速度が落ち、体が止まりました。コースの途中、わずかな踊り場のような場所、雪だまりになったところに引っかかって止まりました。

今の体験は何だったのか?

奇妙な高揚感の中で、命が助かったのかとほっとしていました。偶然、近くにいた友人と合流できて、止まり方を注意しないといけないと話をしていると、私たちの横を、声だけのもうひとりの友人が落ちていきました。

多分、自分と同じ形で滑落しているものと思われます。声がした後を追って下の向かいました。その友人も運よく、コースアウトすることなく、少し下で止まっていました。

その後、私たちはなんとか無事に下山できました。

この奇妙な時間の知覚現象。
そういえば人は死ぬ前に走馬灯のように記憶が蘇ると聞いたことがありますが、本当にそんな感じでした。噂や都市伝説ではなく、本当にあるのだと驚いたものです。

これスローモンション知覚といいます。感情によって時間の進み方に変化が生じる現象で、正式には「タキサイキア現象」といいます。私の学生時代にはまだ明らかになっていなかった現象ですが、最近、そのメカニズムがわかってきました。

今回の「魅惑の心理」ではこの不思議で面白い認知心理の世界の話、知覚の変化について、海外の例を紹介しながら、コラム的なゆるくて簡単な話にしましたので、みなさんと一緒に勉強したいと思います。

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