色彩心理でアニメを語る/霞と朧
アニメに登場する色に関わる「ことば」や「名前」がどのように色彩心理として機能しているのかを考察する「色彩心理でアニメを語る」です。今回のテーマは「霞と朧」についてです。
今回、紹介するアニメ
『鬼滅の刃』刀鍛冶の里編
『バジリスク〜甲賀忍法帖〜』
霞(かすみ)は遠い山にかかった低い雲のこと。空気中に浮かんでいる細かい水滴やちりにより、遠くがぼんやりとしている現象のことをいいます。気象用語である「霧(きり)」や「もや」と異なり、文学的な表現とされています。
霞色(かすみいろ)は灰みの薄い紫色です。色の名前としても使われます。渋さを持った柔らかい色なので、着物の色や小物の色として和の世界ではよくみる色です。山にたちこめた霞は、衣に見立てられることもあります。
霞は京都ではよくみられることがあり、その幻想的な風景を正岡子規は俳句にしています。京の里山には、領主に捨てられた女性が川に身を投じ、大蛇の姿になったという伝説もあります。山に棚引く霞が細長いまるで大蛇の姿に見えたわけです。
遥か遠くに見える樹木がうっすらと緑を湛えて霞んで見えること、靄がかかっていることを翠煙といいます。霞が緑色に見えるだけでなく、後ろにある草木の緑が透けることで緑色にえることもあります。幻想的な風景です。
霞ということばが登場するアニメといえば『鬼滅の刃』の霞柱・時透無一郎。普段は感情の起伏が少ないのが特徴です。黒髪なのですが、髪先がに緑青になっています。緑青はクールな性格な人に好まれる色であり、視聴者は無意識に、なんとなくクールな性格であることを理解する心理的な誘導が効いています。アニメではこの色による性格表現がよく使われます。『おそ松さん』の六つ子もそうでした。またこの緑青は「秘色(ひそく)」という色の近似色であり、神秘的な雰囲気を助長しています。
無一郎は霞の呼吸を使います。壱ノ型は垂天遠霞(いちのかた すいてんとおがすみ、天に向かって、刃を一突きする技です。上弦の伍・玉壺の血鬼術で水中に閉じ込められた時に使いました。弐ノ型 八重霞(にのかた やえかすみ)。何重もの斬撃を入れる技です。「八重」は八つ重なっていることから転じて、「数多く重なる」ことを表現することばです。
「霞」は夜になると「朧(おぼろ)」と呼び名が変わります。
漆ノ型 朧(しちのかた おぼろ)は、暗闇の森の中、暗闇と朧と一体化した無一郎が玉壺にとどめをさす技です。「霞」は夜になると「朧(おぼろ)」ということを知ると、このアニメの見え方が一つ深まります。
また、「朧」といえば『銀魂』や『スプリガン』にも登場します。男女関係なく付けられます。「霞」は女性の名前なのに、「朧」は男女で使われるのが大変興味深いです。「朧」の代表キャラは『バジリスク〜甲賀忍法帖〜』のヒロインではないでしょうか。おっとりした温和な性格であるのは、無一郎と似ています。「霞」のイメージがここでも表現されています。忍術も剣術も体術もまったく身に付けることができなかったのですが、見るだけであらゆる忍法を強制的に破る「破幻の瞳」を持っています。あらゆる異能の力を右手で無効化する『とある魔術の禁書目録』の上条当麻のイマジンブレイカーに似ています。
注目していただきたいのは朧の着物も紫系。霞色も紫系の色でした。
霞色は書籍「美しい彩りが伝わる 色ことば辞典」でも紹介してます。その他、たくさんの色ことばを紹介していますので、こちらの書籍もご覧になってみてください。読み物としても、創作のヒントにも大きく使える本です。
※このページ本文中のアニメ画像は引用の範囲内で使用しています。
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