「魅惑の心理」マガジンvol.4(日本人の不思議な信仰心「神の目効果」)
宮城県のある町の道路が通行中に捨てられたとみられるペットボトルやプラスチックごみが散乱していました。近所の廃棄物処理企業が毎年、ボランティアで清掃活動に取り組み、監視カメラも設置したのですが、ポイ捨ては減らなかったのです。この状況をどうにかできないかと思い、同社が鳥居を設置したところ、不法投棄対策に大きな効果があり、ごみのポイ捨てが劇的に減ったそうです。
また鳥居がゴミ捨てにどんな影響を与えるかの実験が、関西の大学でおこなわれました。飲料の自動販売機の下にミニチュアの鳥居を設置したところ、空き缶、空き瓶のポイ捨てに対して抑制になったという優位な差は見られなかったといいます。この二つの効果から、日本人のおもしろい性質が垣間見えてきます。
まず人はどのような心理状態でポイ捨てをするのかというと、周囲にゴミがすでに捨ててあったり、ゴミ箱がないから捨てられないという理由で躊躇しながらもゴミを捨ててしまう心理が生まれます。ゴミ箱がいっぱいの場合は、ゴミ箱を整備していないほうが悪いと罪悪感を持ちながらもゴミを捨ててしまいます。タピオカブームのときに原宿、渋谷でタピオカの空きカップはこうした状況であると思われます。ポイ捨てを正当化できる理由があるとポイ捨ては重なっていく現象が生まれます。これがゴミが溢れてしまう大きな理由のひとつです。
では最初の一つ目はどう捨てられるのでしょう。ポイ捨ては悪いことであると強い罪悪感を持って いるものの、ゴミを持ち歩くことが不便であるという感情がまさってしまうために、ついポイ捨てをしてしまう。そんな心理が考えられます。このふたつの状況で、初期のポイ捨てよりも、後から捨てられるポイ捨てが加速度的に増えると考えられます。
ゴミを捨てられないか、みんなが捨ててあればいいけど、最初のひとつ目は嫌だ。こうした心理状態のところに、鳥居があると「バチが当たるのではないか?」という強い不安が生まれます。日本人は特定の宗教を持っていないか、意識していない人が多くいます。しかし漠然とした神様を信じている傾向があり、初詣や合格祈願はそうした行動のひとつです。こうした都合の良い信仰心下でも「バチが当たるのではないか?」という不安があり、人はわざわざ鳥居の前で捨てることはないと考えるのです。信仰心は強くなくても、漠然と神の目を信じてバチがあるのを恐れている。これの心理をポーポーは新しい心理効果として「神の目効果」と呼んでいます。
では後半はこの神の目効果のメカニズムを深く見て、応用への考察に繋げていきましょう。
[目次]
◎ポイ捨てと損失回避性
◎自販機の鳥居が機能しなかった理由
◎神の目効果はこう応用したい
◎ポイ捨てと損失回避性
鳥居がある場所でゴミを捨てることはないと考えるのは、損をしたくないと考える損失回避性とも強く関係していると思われます。損失回避性は「得をしたい」と考えることよりも、「損をしたくない」と考える人の本能といもいうべき感覚です。
損損失回避性が高まる現代では、この「損をしたくない」という感情は、非常に強く働く心理効果です。ゴミを持って歩くのは面倒で、罪悪感と天秤かけているときに、「もしかしたら損をするかも(バチが当たるかも)」という思いが生まれるとゴミを捨てられなくなってしまいます。多くの人にこのような心理がある場合、ひとつ目のゴミが置かれにくいので、その後のゴミが増えていかないという状況が生まれるのです。
ゴミがすでに溢れている状態だと、罪悪感は希薄になり、「あ、みんなもやっているから大丈夫。損はしなさそう」という感情が生まれやすくなり、加速度的に捨てられるゴミが増えていくと考えられます。
◎自販機の鳥居が機能しなかった理由
ではなぜ、冒頭で説明しました道路にあった鳥居は効果的に働いたのに、自動販売機の下に設置した鳥居は効果がなかったのか?
道路に設置した鳥居は少し大きなものでした。ですので「ゴミを捨てさせないために誰か(明らかに人間)が設置したもの」ではなく「神主が祟りか何かを示唆しているもの」と感じる人が増えると推測されます。この設置者の意図が読みにくいのもポイントで、変に綺麗すぎない感じも良いのだと思います。
一方、自動販売機の鳥居は非常に小さなミニチュアでした。まるでオモチャのようなサイズ。「ゴミを捨てさせないために誰か(明らかに人間)が設置したもの」という意識が持ちやすかったのです。本物のように見える、もしくはその存在が恐ろしい安っぽさを含んでいることがポイントになりそうです。ちなみにミニチュアには追加実験がされており、ミニチュアの鳥居に小さなカレンダーをつけるという不思議な実験を行いました。すると明らかに違和感が発生し、不気味さを出し多様で、ポイ捨てを抑制した効果が出たそうです。この「違和感」もまた人の不安感を煽るものです。わざわざここで捨てることはないと思うのです。
この発想は犯罪心理に活用されるべきものです。実際、青色の照明の防犯灯が自転車置き場に設置され、自電車窃盗の抑制につながっているというデータもあります。これは「青色」に防犯効果があると解釈されていますが、ポーポーはそうではなく「違和感」に強く犯罪者の心理に影響を与えていると考えています。青色は何かを抑制する効果はありますが、犯罪者の心理を抑えられるだけの効果があるか疑問です。
2005年に奈良県警が導入して以来、全国の自治体で広がりを見せている青色防犯灯。はじまりは英国のグラスゴーです。景観改善のために、街路時の照明をオレンジから青色に替え、橋梁下の照明も青にしたところ犯罪が減少したといいます。その内容を日本のクイズ番組が紹介し、奈良県警が設置に取り組むようになったのです。その後、犯罪減少の実績から日本全国の自治体でも注目され、大阪府、新潟県、神奈川県、北海道。島根県などで試験的に導入され、一定の効果をあげていると言われています。専門家の意見として「青は心理的に冷静にさせる効果があり、犯罪の抑制に役立つ」という説明がなされたことが導入を後押ししていのです。ところがこの問題、テレビによって過大に報道されている部分が大きいのです。グラスゴーでは青の照明になったことで、麻薬常習者が麻薬を打つときに腕の静脈が見えにくくなり、常習者の数は減ったが、犯罪が減ったという事例は確認されていない。日本での導入後、犯罪が減ったのは、青色効果というよりは、青色防犯灯導入による防犯意識の向上や注目度、普段と違う「違和感」の可能性が高いとポーポーは考えています。実際、青には人を冷静にする効果がありますが、犯罪者の精神をも沈静化する強力な効果があるとは考えにくい。今後は最適な導入方法と継続的な効果の検証が問われる問題です。
◎神の目効果はこう応用したい
この神の目効果を応用すれば、自宅の前でオシッコをされるような状況では、怪しい鳥居を設置してしまいましょう。ポイントは人の手が確実に何かしらの意図を持って入っているという「怪しさ」が大事です。それは「オシッコをさせない」という直接的ではなく、何かよくわからない怖さが大事です。
この神の目効果を応用すれば、自宅の前で誰かがオシッコをされるような状況では、怪しい鳥居を設置してしまいましょう。ポイントは人の手が確実に何かしらの意図を持って入っているという「怪しさ」が大事です。それは「オシッコをさせない」という直接的ではなく、何かよくわからない怖さが大事です。
鳥居を作るコストの問題があるなら、小さなミニチュア鳥居でも「違和感」を作ることが重要なようです。鳥居に何かを組み合わせて見ましょう。例えば大きな目のイラスト。鳥居に大きな目を付けたキーホルダーをつけると女性の痴漢対策に有効なのではと思っています。これもまた「見られている」というよりは、何か違う不気味さと「違和感」が大事なのではないかと思います。この効果は人の損失回避性に強力に働くので、色々なものに応用ができそうです。
(参考論文)
規範と監視を訴求したポイ捨て抑止実験
The Effect of Social Norms and Surveillance on Littering
村井翔 松村真宏
Sho Murai and Naohiro Matsumura
大阪大学経済学部
School of Economics, Osaka University
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