自分の気持ちを大切にする【ニーゴの過去と未来②:暁山瑞希】
『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク(プロセカ)』のワールドリンクイベント『水底に影を探して』を機に、これまでの「25時、ナイトコードで。」(ニーゴ)のストーリーを振り返りながら、これからのストーリー展開について考えるオタク語りのシリーズです。
第2回は、ニーゴの動画担当、Amiaこと暁山瑞希です。
ひととおりニーゴのメインストーリー・イベントストーリーを読んでるよ、という方を主な読者として想定しています。ニーゴのストーリーを深くは分かっていない、という方も、ぜひご覧ください。
イベント『変わらぬあたたかさの隣で』までのネタバレ全開です(正月イベントの本命が瑞希バナーだということは知っていたのですが、全然間に合いませんでした)。
瑞希のこれまで
カワイイを好きでいたい、それだけなのに
瑞希は、小さい頃からカワイイが大好き。
とくに、今はフランスでファッションデザイナーの仕事をしている姉の影響もあり、カワイイ服やアクセサリーが本当に大好きで、自分で身に付けるだけでなく、作ったりもしています。
「カワイイものが好き」「好きな格好をしたい」という、ごく当たり前の気持ち。しかし、その気持ちのために、瑞希は苦しんできました。
小学校でも、中学校でも、そして高校でも、好きな格好をしているだけなのに、変わり者扱いされ、心ない好奇の目にさらされ、そのたびに、瑞希の心は傷つきました。傷ついて、ボロボロになって、苦しいと叫ぶ力さえ残らないほどに、疲れてしまって………
お姉ちゃん、類、ミア
それでも、瑞希は、「カワイイものが好き」という気持ちを捨てないで歩き続けてきました。ボロボロになって歩みを止めようとする瑞希の傍らには、瑞希を理解し、支えてくれる存在がいたのです。
瑞希の最大の理解者は、姉・暁山優希です。
周りから「変なの」と言われ続けてきた瑞希に、姉は、「変じゃない」「かわいいものが好きな瑞希のこと、大好きだよ」「瑞希の気持ちを大事にしてほしい」と繰り返し伝えます。
その言葉が、どれほど瑞希を勇気づけたことか。
カワイイものを好きでいていいのか悩んだときも、ニーゴに入るべきか悩んだときも、いつも、瑞希の背中を押してくれたのは、瑞希が大好きなお姉ちゃんでした。
ワンダーランズ×ショウタイムの天才演出家・神代類も、瑞希の理解者のひとりです。
瑞希と類は、文化祭に盛り上がる学校の中、そこだけ誰もいない屋上で出会います。ともに「自分の好きが周りに理解されない」という体験を持つ二人は、いつしか、孤独な仲間になりました。瑞希にとって、孤独に耐えているのは自分だけではないという事実は、とても大きな心の支えになったはずです。
瑞希と類の関係は、たとえば瑞希と杏のような「仲よし」とは違うのですが、言葉を多く交わさずとも通じ合う信頼感で結ばれているようです。変わり者扱いされる苦しさが分かるから、お互いの気持ちにちょっとずつ共感することができて、孤独のつらさを分け合える存在といったらよいでしょうか。屋上組、すてきですよね。
もう一つ、瑞希の心の支えとして触れるべき存在がいます。そう、アニメ「ミラクルマジックガール☆ララ」のミアです。
ミアは、主人公ララの敵キャラクター。
親玉に人質に取られている妹を助けるためには、ララを倒さないといけないのですが、倒されそうになっているララを見捨てることができず、ミアは悩みます。妹とララ、どちらも助けたいミアは、苦しみながらも、がんばり続けるのです。
自分の気持ちを守るか、嫌な思いをすることを避けるか、容易に両立しない二つの選択肢の間で悩み続けている瑞希が、ミアの姿に自分を重ねたであろうことは、想像に難くありません。
瑞希は、ミアの姿に心を奪われ、夢中になります。嫌なことも、苦しいことも、全部忘れられるほどに。ミアという推しの存在は、間違いなく、瑞希にとっての「生きがい」でした。
ミアは、瑞希にとっての「楽しいこと」の象徴でもあります。
瑞希は、楽しいことに逃げているだけだと言うけれど、そうやって、瑞希が自分の心を守れたことは紛れもない事実です。そして、「苦しいとき・悩んでるときは楽しいことをしよう」という瑞希の考えは、奏や絵名、まふゆの助けになってきました。
心の支えがあったからこそ、瑞希は、自分の気持ちを大切にして、ここまで歩んでくることができました。
しかし、類は中学を卒業し、優希は渡仏することになり、ミアの物語は終わりを迎えます。瑞希を支え、つなぎ止めているものが、その傍らから離れていくのです。
ニーゴとの出会い
そんな瑞希をもう一度つなぎ止めたのが、Kの曲でした。
自分と同じように苦しさに耐えながら、その先に、優しく希望の光を灯そうとする人がいることに興味を持った瑞希は、Kについて調べ始めます。そして、絵名がKの曲を聴いて描いた絵を見つけるのです。Kの曲と同じように、苦しくて、でもどこか優しさを感じさせるその絵に刺激を受けた瑞希は、熱に浮かされたようにMVを作り上げました。
完成したMVがKこと奏の目に留まり、瑞希は、奏の依頼を受けて絵名と一緒に新曲のMVを作ることになります。そして、できあがったMVを見た奏は、絵名と瑞希をサークルに誘うのです。
しかし、奏の誘いを二つ返事で受け入れた絵名とは異なり、瑞希は、考える時間がほしいと言います。
奏とまふゆが作った曲のMVを絵名と一緒に作る作業は、瑞希にとって、とても楽しい時間だったはずです。その楽しさは享楽的なものだけでなく、曲に対する自分の気持ちを共有でき、理解してもらえる喜びを伴うものでした。瑞希の心の中には、自分の居場所を見つけたというたしかな手応えがあったはずです。
それなのに、瑞希は、奏の誘いに乗るかどうか悩みます。
瑞希は、もともと頭の回転も速いし、幼い頃から苦しんできたこともあって、精神的に成熟してるんですよね。だから、出会いは常に別れの始まりであることに気が付いています。加えて、このときの瑞希は、再び一人きりになった屋上で、別れのつらさを強く感じたばかりでもありました。
だから、瑞希は、踏み出すことをためらいます。
踏み出せないでいる瑞希の背中を押してくれたのは、今回も、お姉ちゃんでした。
瑞希とニーゴ
自分を分かってもらえる
ニーゴの四人がニーゴにいる理由は、それぞれ異なります。
奏は、だれかを救うための曲を作り続けるために。
まふゆは、ここにいれば自分の気持ちが見つかるかもしれないから。
絵名は、絵を描く力をもらえたから。
そして、瑞希にとってのニーゴは、自分の気持ちを理解して、受け入れてもらえる自分の居場所だから。
ニーゴが「理解してもらえる」居場所であることは、これまでのストーリーの中で、何度も描かれてきました。
たとえば、『シークレット・ディスタンス』のミステリーツアーで、みんなで桜を見上げたとき。普段はお花見なんて楽しくないと思っている瑞希ですが、ニーゴのみんなで桜を見たときは、散りゆく桜を「ずるい」と感じる気持ちを共有できました。
そもそも、『ボクのあしあと キミのゆくさき』で描かれたように、瑞希がニーゴに入りたいと感じた理由は、自分の気持ちを理解してもらえたからでした。
初めて絵名と一緒にMVを作ることになって、絵名と曲のイメージを話し合う瑞希の姿は、とても印象的です。絵名と瑞希は、同じ曲から全然違うイメージを抱きます。でも、絵名は、瑞希が持っているイメージを理解できるまで、しつこいくらい瑞希の考えを尋ねるんです。あるクラスメイトが瑞希に見せた表面的な同情とは、まるで違うもの。
そして、二人は、お互いが感じていることを少しずつ理解し合って、より深みのあるイメージにたどり着くのです。
瑞希の「25時、ナイトコードで。」(初期☆2)のサイドストーリー後編も、瑞希を知るための重要エピソードです。
これまでの瑞希は、幾度となく、理解されず、拒絶され、変わり者扱いされ、そのたびに傷ついてきました。だからこそ、自分の気持ちを分かってもらえる場所というのは、とても心地がよいものなのです。
いまを楽しもう
これまでのストーリーではっきりと描かれたことはありませんが、ニーゴという居場所ができたことは、瑞希の毎日に、大きな変化をもたらしたことでしょう。
瑞希の過去には、ニーゴに入ってから高校に入学するまでの間という、描かれていない空白期間があります。ですが、この間に、瑞希に大きな変化があったことは明らかにされています。瑞希は、一度は外したリボンをもう一度身に付けて、自分が好きなカワイイ格好をして、学校に通うようになったのです。
この瑞希の変化は、ニーゴという居場所を見つけられたためでしょう。
ニーゴの活動は、とても楽しいものでした。
Kの曲はいつもすてきだし、雪は優しくて頼りがいのあるしっかり者だし、えななんをからかうのは愉快。そして、自分が感じたことを素直に口にしても、変わり者だと思われず受け止めてもらえる居場所のおかげで、瑞希は、自分らしく振る舞いながら、楽しめるようになります。
だから、何もかもを諦めたアンニュイな姿から、私たちがよく知っている「カワイイにこだわる自由人」へ、瑞希は変わりました。ニーゴのメンバーは、瑞希の変化を見ても「打ち解けてきたんだな」くらいにしか思わなかったかもしれませんが、類が見たら、きっと勘付いたはずです。
やがて、瑞希は、ニーゴの外でも、自分らしく振る舞うようになります。
学校で自分らしくすると、嫌なこともたくさんあるけれど、ニーゴのみんなとおしゃべりして、奏の曲を聴いて、MV作りに没頭すれば、もうちょっとだけがんばってみようと思えます。そう思えるうちは、自分の気持ちを大事にして進んでいこうと考えたのでしょう。
どうせ、一回きりの人生、本当に消えてしまう前に、楽しみ尽くさないともったいないから。
もう一つの「瑞希の気持ち」
ずっと一緒にいたい
ニーゴという居場所があって、カワイイを好きな気持ちを持ち続けることができる日々。そんな毎日を、瑞希は、心の底から「楽しい」と感じたはずです。
その楽しさは、生きる苦しさを忘れるための鎮痛剤であり、前を向いて生きるために必要な糧であり、そして、瑞希の日常を彩る大切な宝物でした。
しかし、人間というのは欲深い存在で、一つの欲が満たされると、次の欲を求めるようになるのです。それは悪いことではありません。強欲は大罪かもしれませんが、適度な欲望は、豊かな人生を送るために欠かせないからです。
苦しさから逃げ出したい、安らぎを得たい、いつまでも居心地のよい場所にいたい。そう思うのは、とても自然な感情です。
ニーゴに出会って、「理解してもらいたい」という気持ちが満たされた瑞希の心の中には、いつしか、「ずっとみんなと一緒にいたい」という欲望が芽生え始めます。
どうせまた無駄になる
瑞希の物語のテーマは、「自分の気持ちを大事にして生きる」だと思います。
瑞希が大事にしたいと思っている気持ちは、「カワイイを好きでいたい」だけではありません。「理解してもらいたい」。「ずっとみんなと一緒にいたい」。これらも、瑞希の大事な気持ちです。
「ずっとみんなと一緒にいたい」という気持ちを瑞希が自覚したのは、ミステリーツアーのときでした。
しかし、瑞希は、その自分の気持ちに向きあうことができません。
「一緒にいたい」という気持ちが叶わなかった過去が、瑞希の心に暗い影を落としているからです。期待して、その期待が裏切られて、傷ついて、苦しむなら、最初から、期待しなければいい。そんな諦めが、瑞希の心を支配しています。
そして、瑞希は、自分の気持ちから目を逸らし、諦め、ニーゴとの間に壁を作ろうとします。しかし、その壁の中に逃げ込んでも、苦しさから解き放たれることはないのです。かえって、自分の気持ちから遠ざかるにつれ、苦しみは増していきます。
ずっと待ってるから
壁の向こうへ逃げようとする瑞希を引きずり出したのは、絵名です。
絵名は、誰もいない屋上に佇む瑞希を探し出し、話してくれるまで待つと瑞希に伝えます。
そんな絵名に対し、瑞希は、「ずっと話さないかもしれないよ」というわがままを言うのです。
瑞希は時折わがままを言うのですが、普段は、素の気持ちというよりも、こう言えば受け入れてもらえるという打算が働いているように感じます。
しかし、「ずっと話さないかもしれないよ」は、本心からのわがままでした。その言葉からは、「待つって言うけど『ずっと』なんて無理でしょ」という諦めたような瑞希の本音が漏れています。
瑞希の心の中には、変わらないものなんて存在しない、永遠なんてあり得ないという達観が潜んでいます。あり得ないと分かっていて、でもそれを望んでいる。だから、その願いは、瑞希のわがままなんです。
そんな瑞希のわがままを、絵名はまっすぐ受け止めます。
昔の瑞希なら、あるいは、屋上まで追いかけてきたのが絵名じゃなかったら、「『ずっと』なんてできるわけないじゃん」と白けてしまったことでしょう。でも、このときの瑞希は、「絵名なら、本当に待ってくれるんだろうな」と思ったはずです。
そうやって、絵名のことを信じられるくらいまで、瑞希は、絵名と多くの時間をともに過ごして、絵名のことを理解してきました。
絵名のまっすぐな言葉と、それを信じた瑞希の気持ちは、「どうせまた無駄になる」という諦めを克服したのです。
話したい
ですが、このときの瑞希は、絵名に話をすることができませんでした。
そんな瑞希の姿を見て、「そんなに苦しい思いをしてまで秘密を話さなくたっていいじゃないか」と言いたくなったのは、私だけではないと思います。
家族だから、親友だから、恋人だから、なんでも話せるわけではないでしょう。話せないことがあるから、親しい関係でいられないわけでもありません。墓場まで持っていくつもりの秘密がいくつかあったところで、別に構わないでしょう。
夕暮れの屋上で瑞希が夢見たように、話さなければ、この関係がずっと続くはずなのです。
しかし、瑞希は、「話さなくても済むなら、話さないでおきたい」と考えているわけではないと思います。
「ボクのことを話したい」という気持ちは、瑞希の願いなのです。
瑞希にとってのニーゴは、理解してもらえる居場所です。それなのに、本当に理解してほしい気持ちを伝えられていないことを、瑞希は、もどかしく感じていることでしょう。
絵名たちに秘密を打ち明けて、その秘密を抱えて生きる苦しさを理解し、受け止めてもらって、ニーゴが、これまで以上にかけがえのない居場所になったらいいな。そんな理想の未来を、瑞希は、自分の心の中に描いているのです。
だから、瑞希は「全部話したい」と願うのです。
もちろん、みんなを騙しているような感覚に由来する「話さなくちゃいけない」という感情もあるでしょう。しかし、瑞希は、贖罪のための義務として話そうとしているわけではないですし、カミングアウトを避けられない通過儀礼として捉えているわけでもありません。
瑞希の気持ちを支えているのは、「みんなとずっと一緒にいるために話したい」という前向きな希望です。
でも、話せない
しかし、まだ、瑞希は、自分のことを話せないでいます。
瑞希は、面倒を避けるためにクラスメイトには秘密を話しています。
ですから、秘密を他人に話すことそのものに躊躇しているわけではありません。
また、瑞希には、類や杏のように、瑞希の秘密を知っている「仲間」や「友だち」がいます。秘密を打ち明けたら友だちになれないと思っているわけでもありません。
そして、瑞希は、ニーゴのみんなが優しいことを知っています。自分が秘密を打ち明けたとしても、みんなは、理解して、変わらず接してくれるだろうと信じています。もう瑞希は、絵名たちに秘密を話すことが「無駄」だとは思っていません。
それでは、瑞希が話せない理由は、どこにあるのでしょうか。
話せない理由
怖い
瑞希が話せない理由は、怖いからです。
単純で、それゆえに強力な感情が、瑞希の足枷になっています。
瑞希は、これまで何度も傷つき、苦しんできました。そこから逃げることでしか、自分の心を守れないほどに。
その苦しみは、かつての瑞希に、お気に入りのリボンを付けることも、服やアクセサリーを作ることも、何もかも諦めさせるほどのものでした。瑞希の手足を縛る恐怖とは、このような苦しみに対するものなのです。
瑞希にすべてを諦めさせたものの正体は、明確には描かれていません。
しかし、瑞希の過去に、「この子なら/この人なら、ボクの気持ちを理解してくれるだろう」という期待が叶わず、傷ついた経験が一度ならずあったことは、はっきりしています。その中の一つが、決定的な出来事になったのかもしれません。
あるいは、理解されず、拒絶され、変わり者扱いされることを繰り返した果てに、最後の藁が瑞希の心を折ったのかもしれません。後者の方が、これまでの瑞希の姿にしっくりなじむ気もします。
いずれにせよ、そのような経験が、中学生の頃の瑞希を襲いました。
そして、瑞希は、リボンを付けなくなり、好きな服やアクセを作るのをやめ、みんなと「同じ」格好をすることを選び、屋上へ、アニメへ、動画作りへと逃げたのです。
絵名から悩みがあるなら話してほしいと迫られた瑞希は、絵名を冷たく拒絶します。「この子なら」と思った相手に拒絶された経験は、それに近づくだけで、体が本能的に拒絶反応を起こすほどの辛い記憶として、瑞希の心に刻み込まれています。
瑞希に「怖い」という感情をもたらすのは、過去です。決して、未来――絵名たちに受け入れてもらえない結末――を恐れているわけではありません。瑞希と絵名たちの絆は、不確実な未来に対する恐れに屈するような弱いものではないのです。
優しさが苦しい?
実は、『ボクのあしあと キミのゆくさき』では、「怖い」という感情は正面から描かれてはいません。このとき、瑞希が漏らした気持ちは、「優しさが苦しい」というものでした。
しかし、結論からいうと、私は、この瑞希の心配は杞憂だと考えています。
瑞希の気持ちは、「みんなに理解してもらい、ずっとみんなと一緒にいるために、ボクのことを全部話したい」というものです。どんなときに苦しいと感じるのか、どんな苦しさを感じているのか、そういったことを理解してもらいたいと瑞希は思っているのです。
ですから、もし絵名たちの優しさを苦しいと感じるなら、その苦しさも理解してもらえばよいのです。絵名なら、瑞希の気持ちが分かるまでしつこいくらい瑞希と話をして、瑞希の苦しさを理解してくれることでしょう。
瑞希が自分の気持ちをすべてみんなに話して、それでもなお、優しさを苦しいと感じるとすれば、それは、実は理解してもらえていないということなのです。
つまり、ニーゴのみんなに秘密を話して、理解してもらえた未来には、「優しさが苦しい」と感じる瑞希の姿は存在しません。
「優しさが苦しい」という感情は、秘密を話すうえでの障害にはならないはずです。
瑞希のこれから
ニーゴの物語は、進級直前に、まふゆが母親の束縛に抵抗し、「優等生」の仮面を脱ぎ捨て、奏たちのもとへ逃げ込むというクライマックスを迎えました。その過程で瑞希が果たした役割は、決して小さなものではなかったように思います。
クライマックスへ向けてまふゆの問題にフォーカスするという事情もあって、瑞希の秘密に関するストーリーは、しばらく大きな動きを止めていました。
しかし、ワールドリンクイベント『水底に影を探して』の瑞希チャプターでは、近い将来、瑞希が自分の問題に向き合うことが示唆されました。
まふゆのため
ニーゴの四人は、それぞれ苦しみを抱えながら生きています。その心の中にある「消えたい。でも、消えたくない」という共通する想いが、ニーゴの四人を結びつけているのです。
その中でも、瑞希とまふゆは、共通の想いを持っているということ以上に、似ている存在です。二人は、ともに、自分の気持ちを殺さないといけない苦しさを経験しているからです。
命を削るように曲を作り続ける奏と、心がボロボロになっても絵を描き続ける絵名は、どんなに苦しくても前に進もうとします。やりたいこと、やらなくちゃいけないことがはっきりしているから、目標が見えなくなることはないのでしょう。
しかし、瑞希には、傷つくことに疲れ切って、自分が何をしたいのか分からなくなって、すべてを諦めようとした時があります。「わからない」というまふゆの感情に、もっとも近いところにいるのが、瑞希です。
そんな瑞希だからこそ、「まふゆの支えになりたい」という気持ちを強く持っているし、自分の経験を活かして、まふゆに「逃げてもいい」という選択肢を示すことができました。
そして、今度は、自分と同じ苦しみに耐えているまふゆのためにも、自分も問題に向き合おうと思ったのです。
心の支えとともに
もちろん、それは強い痛みを伴います。
瑞希は、逃げることで何とか心のバランスを保ってきました。逃げるのをやめて向き合うというのは、想像するだけでも、とても苦しいことです。
でも、今の瑞希には、たくさんの心の支えがあります。
自分の気持ちを理解してくれる居場所としてのニーゴ。
そんな居場所を作ってくれた奏。
ずっと待ってくれる絵名。
「まふゆのため」という理由。
ずっと一緒にいたいという自分の気持ち。
そして、お姉ちゃんがくれた「おまじない」。
その支えがあれば、瑞希は、きっと前へ進むことができます。
過去と向き合う
「怖い」という瑞希の感情は、過去の記憶から生まれるものです。
その記憶と似た場面に出会うと、瑞希の体は、自分ではどうしようもなく、恐怖に竦んでしまいます。それを克服するためには、過去の記憶と恐怖の感情を切り離せばよいでしょう。
そのためには、少しずつでいいから、過去の記憶に触れ続ける必要があります。これまで逃げてきた記憶に触れ続けて、「実はその記憶は恐れるようなものではないんだ」という感覚を、自分の中に育てていけばよいのです。
たとえば、クラスメイトと向き合うことから始めてみるのはどうでしょうか。
いまの瑞希は、彼女たちに悪意があったわけじゃないと理解しています。『ボク達の生存逃走』のときは、危機的な状況にあるまふゆを優先せざるを得なかったけれど、あらためて、一緒に遊びに行ったらいいんです。
全部を理解してもらうのは難しいかもしれません。
でも、瑞希にとって「カワイイが好き」という気持ちが大事だから、この格好をしていて、そのおかげで、こんなに楽しい毎日を過ごせている、ということは伝えられるはずです。
彼女たちも、瑞希と一緒にいるのが楽しいと感じているのだから。
そして、かつて自分に「変なの」という言葉の刃を向けた人にも、向き合うことになるかもしれません。
大切なのは、「いま」です。いつまでも、過去の記憶に心を支配されたままではいけません。
いま、何を感じているのか。いま、何を望むのか。いま、自分はどんな気持ちなのか。それらを大事にして進んでいけばよいのです。
自分の気持ちを大切にして、恐怖を乗り越えたその先には、瑞希が大好きなニーゴのみんなと、これからもずっと一緒にいられる未来が待っています。