マガジンのカバー画像

まちこのGB

19
「あなたにとっての、誰にも負けない苦手なものはなんですか?」     お人好しでおっちょこちょいの大井真知子は、気がつけば自分の善意を微妙に利用されてきた。そんな真知子がようやく…
運営しているクリエイター

#バンド

まちこのGB 《第2章の1,2》 創作のエクスタシーは性的快楽を超える

【2-1】 表に出ないゴタゴタはすべてお任せください  誰かのために自分ができること。  自分にしかできないことはなんなのか――。  昼下がり、海を見渡せる橋の上で朝霞は考える。  なんど悩んでも導き出される答えはひとつだ。曲を作るのだ。今の気持ちをメロディに乗せ、自分にしか歌えない歌を作るのだ。  すぐ近くを飛行機が飛んでいる。幼い頃はすごく小さい乗り物なんだと思っていた。初めて目の前で見た時は、その大きさに感動した。  この乗り物が世界へと繋がっているのかと思うと

まちこのGB 《第1章の14》 むくみきった顔の汚れきった豚

【1-14】 むくみきった顔の汚れきった豚  就職後、初の週末を真知子は満喫していた。  普段働いているせいか、休息とのメリハリがついている。いつも休んでいるような毎日の時は休日の実感もありがたみもわからなかった。  昨日は街に出て楽器屋へ行った。完全に朝霞の影響である。  そこで店員にうまくおだてられ、初心者用のベースギターを買った。ベースを選んだのは弦が四本で簡単そうだったからだ。  いちおう仕事のためだと領収書をもらっておいたが、楽器を弾いてみたいという衝動は大き

まちこのGB 《第1章の7,8》 泰平の眠りを覚ます再始動

【1-7】 大丈夫よ、哀れな子豚ちゃん  笑い声で溢れていたご婦人たちが一斉に席を立った。皆がこれから夕飯の準備を始めるのかもしれない。  静寂が訪れた店内で、無言のまま見つめ合う真知子と朝霞がいた。 「……俺、言ったよね」 「何をですか」 「面接の時に、高いところだけは苦手だって言ったじゃん!」  なかなかの圧を感じた。でも、ここで引くわけにはいかない。私はコンサルタントなのだ。 「これはもう決まったことです。拒否するようでしたら、さっさと私の目の前から消えてくださ