知的財産法(3)••知的財産法の必要性
所有権では、知的財産を守れない?
所有権の内容 民法第二百六条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
まずこの事件を見てください。
かえでの木事件
東京地裁平成14年(ワ)1157号平成14年7月3日判決
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/772/011772_hanrei.pdf
この事件は、かえでの木を所有する原告が、同かえでの木の写真を掲載した書籍を出版、販売等した出版社に対して、かえでの木の所有権に基づく出版等の差止めを請求するとともに、かえでの木の撮影者に対してかえでの木の所有権侵害による不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。
かえでの木を写した写真を、かえでの木の所有権に基づきコントロールできるのかという点が論点ですね。
もう一つの事件
顔真卿自書建中告身帖事件
(がんしんけいじしょけんちゅうこくしんちょうじけん)
最高裁昭和59年1月20日第二小法廷判決
唐代の書家顔真卿の真蹟である「顔真卿自書建中告身帖」の所有者である博物館(財団法人)が、この告身帖を無断で複製し販売した出版社に対して、所有権(使用収益権)の侵害を理由に、出版物の販売差止とその廃棄を求めた民事訴訟事件。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/181/052181_hanrei.pdf
すでに権利が切れた著作物を、所有権でコントロールできるのかが論点です。
以上、いずれの事件でも、所有権に基づく無体物の使用収益権は認められませんでした。
なお、かえでの木事件では、かえでを撮影すること及び撮影した映像を使用することについて,原告の許可が必要である 旨の看板を設置する前での撮影についての判断であり、看板設置後の撮影については、
とし、撮影のため立ち入り行為が不法行為が成立することを示してはいます 。ここで不法行為の対象は、土地への侵入行為であり、撮影行為自体ではありません。
平等院パズル事件
平等院鳳凰堂の写真を使ったジグソーパズルを無断で販売したとして、平等院が玩具メーカー「やのまん」に販売停止などを求めた訴訟(京都地裁)
この事件では、かえでの木事件と異なり、原告の平等院はパンフレットに「撮影した写真の営利目的使用の禁止」を明記していた中で起きた事件である。被告のやのまんは、写真家が撮影した鳳凰堂の写真を使用して、300ピースのジグソーパズルを平等院に無断で販売していた。
本件は、和解により解決し、裁判所の判断は出されていない。
しかし、被告のホームページから、裁判所の判断が示唆されている。
裁判所が「違法行為がない」と示したことであるなら、パンフレットに「撮影した写真の営利目的使用の禁止」を明記してあったとしても、物の支配権である所有権は、物を自由に使用・収益・処分できる権利ではあるが、無体物を直接排他的に支配する権能は有しない。という原則は、当該「禁止の表明」にはなんら影響されないということである。
以上から、所有権では、無体物を直接排他的に支配することはできず、無体物を直接排他的に支配するためには、別途知的財産法による知的財産権が認められなければならない、ということになります。
契約の問題
なお、平等院パズル事件では和解で修了したため、事実関係が必ずしも明確ではない。もし、入場にあたって撮影禁止への承諾を条件とし、それに応じて入場し、禁止条項を無視して撮影をしたら契約違反ということになる。
我が国の知的財産法
なお、写真撮影において、撮影者が気をつけなければならないことは、
1)被写体に著作権が認められる場合
2)被写体の肖像権を侵害するおそれがある場合
3)被写体のパブリシティ権を侵害するおそれがある場合
4)他人のプライバシーを侵害するおそれがある場合
などでしょうか。
なお、かえでの木は、著作権の保護対象ではなく、人ではないので肖像権やパブリシティ権も認められない。さらに、自然の中に存在し、それを撮影したからと言って、プライバシーを侵害するものでもない。
被写体が建築物の場合は、著作権が存在する場合があります。例えばスカイツリー。ただし、屋外の場所に恒常的に設置されているので、著作権法46条により、利用可能です。
最後に
以上のように、知的財産権で保護されない対象につき、撮影禁止があった場合、その法的根拠は脆弱ですが、だからと言って、撮影禁止の意向を無視して撮影を強行すると、トラブルの元になるということは理解しておきたいものです。