見出し画像

世界史漫才再構築版25:清朝初期皇帝編

 苦:今回は中国史上最後の征服王朝である清朝の初期皇帝たちです。
 微:一山○○円のザル盛り野菜並みという、キミの清朝に対する評価の表れか?
 苦:最近の明帝国、清帝国の研究の深まりの速さが異常なんで。個人に光を当てながらも、"中華帝国"の概念に収まり切らない清朝の統治・異民族統合の話をしようという目論みです。
 微:冷やし中華が中国にはないので、中華料理の概念からはみ出ているようなもんか?
 苦:全然違うよ!! まずは、インパクトではインカ帝国最後の皇帝に匹敵する太祖ヌルハチ(位1616~26年)です。
 微:強そうには思えないけど、インパクトはある。昔あった「クチビルゲ」並みの。
 苦:『超人バロム1』なんて60歳前後のじいさんしかわからないよ!! 君主としての称号は満洲語でゲンギェン・ハン、モンゴル語でクンドゥレン・ハーンです。父はタクシです。
 微:中華料理屋での注文みたいだな。「ゲンギェン・ハン イーグァー」と言いそうになったわ。
 苦:王将かよ!! ヌルハチは満州族の愛新覚羅(エイシンギョロ)氏出身で、彼が生まれた頃の女真族は建州5部・海西4部・野人4部に分かれて、密貿易の利益をめぐって激しく抗争していました。
 微:頭一つ抜けてただけで、ほぼ拮抗だな。余談だが東京で愛新覚羅維先生が眼科やってるぞ。
 苦:ポスト西川史代狙いかも。ヌルハチは聡明で力が強く、武術好き、働き者なので両親に可愛がられました。しかし、母の死後に来た継母とは折り合いが悪く、14歳の時に家出しました。
 微:奉天駅でカツアゲしているところを保護されたそうです。
 苦:「奉天」と言うだけで睨まれますよ。その後、母方の祖父ワンカオの元へと身を寄せます。祖父は都督を務め、漢字も読めて文武に秀でた人物で、孫ヌルハチを可愛がります。
 微:勉強も運動もダメだったら、どういう扱いを受けたんだろうな。
 苦:奴隷か晋三コースですね。女真族の生活について補足しておくと、畑作が主業で、山林地帯で野生の朝鮮人参採集や黒貂捕獲をしていました。農業主体で狩猟・採集が「現金収入」源でした。
 微:アイヌ民族は農業してないけど、通商や漁労を通してシベリアまでつながっていたな。
 苦:米作地帯となる前の日本の東北地方日本海側をイメージしてもらうといいですね。畑作中心、一家に一頭の馬、冬の方が橇で移動できるので楽。
 微:なるほど。それで戦前まで日本への大豆粕輸出に対応できたわけか。
 苦:モンゴル系部族のように遊牧生活ではないが馬を扱える。けれども密貿易というか交易を通してお互いに補い合う関係にありました。また農業にも対応できたんで畑は広がっていました。
 微:でも、部族間の内部争いの激しさはモンゴル以上だけどな。
 苦:そもそも、ヌルハチに力を与えたのは明でした。明の将軍李成梁は、明が制御できる程度に大きな勢力を一つ作り、その後ろ盾になることで女真を治めようとしました。
 微:ムッソリーニがバカにしていたヒトラーを育てたあげく、自分が呑み込まれたようなもんか。
 苦:これに選ばれたのが建州女真の中のヌルハチだったんです。ヌルハチ1589年に建州五大部を統一し、ヌルハチの支配する国はマンジュ国と呼ばれるようになります。
 微:お祝いに紅白饅頭を配ったそうです。
 苦:満洲だよ!! 李成梁の思惑はうまく運び、それと同時にヌルハチから李成梁の懐に入る賄賂も大幅に増えました。ですがこれはヌルハチが李成梁を油断させるための計略でした。
 微:中国でもビザンツでも官僚の給料を低くすると、どうしても賄賂というか私的手数料や口利き料が上乗せされるよな。
 苦:ヌルハチは明に朝貢して都合の良い勅書500通を得ます。この明の脳天気さが失敗でした。
 微:国家戦略特区をいくつも認定してもらった加計学園みたいなもんだな。
 苦:この勅書を活用してヌルハチは馬市や市場を拡大して富を増やしました。
 微:うーん、まさに暴力団のフロント企業。どんどん縄張りを拡大して。
 苦:私腹を肥やしたというより、他部族の攻略に備えて気前よくばらまいたり、当面の敵海西女真との争いに備えました。海西女真とは、利害の対立から争いは絶えなかったんです。
 微:コカインの縄張り争いを描いた『スカーフェイス』を思い出すな。イってしまったアル・パシーノの顔が浮かんでくる。
 苦:1592年に始まった豊臣秀吉の朝鮮出兵、壬辰・丁酉倭乱はヌルハチには「神風」でした。明の警戒が甘くなったことを利用して、女真族の統一を結果的に進めていきます。
 微:「結果的に」という言い回しを使う理由は?
 苦:1593年にヌルハチと対立するイェへ部の首長のナリンブルを首領とする3部連合軍が建州を攻撃しますが、ヌルハチの計略の前に大敗しました。
 微:つまり、女真族を統一するつもりはなかった、と。
 苦:懲りないナリンブルが9部連合軍を結成して3万の大軍でヌルハチを攻撃しました。これもヌルハチの計略の前に敗れ、ここで海西女真と満洲というか建州女真の力関係が逆転しました。
 微:数の力ではなく戦術で負けてるんでは、将来が見えたな。
 苦:女真の諸部族はヌルハチに従うようになり、明は彼に竜虎将軍の官職を授けました。
 微:奥州の藤原秀衡に鎮守府将軍、陸奥守を官職を贈るようなもんだな。勝手なことしてるんだけど、朝廷に従っている形だけは整えるという姑息なやり方。
 苦:でも、日本側の石見大森銀山、但馬生野銀山の莫大な銀産出と密貿易の隆盛なくして、豊臣政権もヌルハチの躍進もありませんでした。どちらも16世紀という時代の産物です。
 微:一攫千金のためなら何でもやれる武装密貿易集団だもんな。原則も建前もない。
 苦:明は一条鞭法で弥縫的に銀財政に移行していましたが、16世紀の銀の怒濤の流入に対応できませんでした。建国以来の朝貢貿易とセットの鎖国体制の建前を否定できなかった。
 微:まあ、琉球王国には丁寧に対応したけど、それも「礼」の建前に沿ってだし。
 苦:女真を統一し、1616年にヌルハチは女真のハン(可汗)に推戴され、国号を大金に定めます。
 微:成金趣味丸出しだが、参加したらお得な感じは滲み出ているな。
 苦:華北を支配した金の継承、明への対抗表明です。それに前後して民族名を文殊菩薩にちなんだ満洲(マンジュ)に改め、モンゴル文字を改良した満洲文字を定めました。
 微:金の女真文字とは違うんだよな、ややこしいけど。
 苦:また、支配下に入った部族を八旗制に編成しますが、この威力は明軍に大勝した1619年のサルフの戦いで示されました。
 微:数を頼りに明の将軍が功を焦って突出したんで各個撃破できたからだろ?
 苦:そうなんですけどね。1626年にヌルハチは万里長城の山海関攻撃を目論みますが、手前で大量のポルトガル製大砲を大量に並べた明軍の砲撃の前に敗れました。
 微:この時の負傷が原因で死んだんだよな。
 苦:ただヌルハチ自身が中国征服を考えていたかどうかは怪しく、八旗に編成したそれまでの部族合議体制を維持するのが目的だったようです。
 微:所詮は親分か。今の将軍様といい、あの辺にできる国ってそんなんばっかりだな。
 苦:愛新覚羅家は八旗制で通婚できる貴族を8つに限定することで権力を維持しました。
 微:まあ、旗の色から考えると、当初は4つで行きたかったんだろうな。
 苦:また教科書で蒙古八旗や漢人八旗が登場しますが、これらは満洲八旗に組み込まれ、蒙古八旗は騎兵、漢人八旗は歩兵と砲兵部隊という分業システムでもありました。
 微:膨張しながらも満洲人の優位を維持し、拡散しないようにしたわけだ。
 苦:こうして八旗は利益配分の単位であり、貴族制度でありながら軍事・行政制度でしたが、国家として統治システムとして異民族統合も担うようになりました。
 微:だけど、どこまで本気で中国征服を考えていたかはわからないと。
 苦:彼が生前に後継者を定めていなかったのもそれが理由みたいです。八旗指導者間でも後継者選定は紛糾しましたが、第八子で落ち着きます。それが太宗ホンタイジ(1626年~43年)です。
 微:確か、本当の名前すら未だにわかってないんだろ、ホンタイジと呼んでいるけど。
 苦:その通りです。ホンタイジが即位した時、大金と明は断交し、朝貢貿易はできませんでした。
 微:まあ、戦争ふっかけるわ、私的貿易禁令は無視しつづけたから仕方ないわな。
 苦:ただ16世紀後半から東アジアを襲った銀の奔流がもたらした経済的変動が、16世紀末から政治的変動を引き起こしたことは改めて指摘というか確認しておきます。
 微:ブッシュの財政赤字と金融緩和が2008年末のリーマン破綻をを生んだみたいなもんか?。
 苦:それ以上です。日本は戦国時代を経て豊臣政権を生み出しましたが、貫高制から石高制への移行、つまり兵糧確保と軍役量の明示が鮮やかに示す豊臣政権が持つ「戦争国家」としての性格。
 微:それを前提にしないと「平和令」も「海賊停止令」も意味がわからんわな。
 苦:次に東南アジア世界への朝貢強要、引いては日本こそが朝貢貿易の中心たろうとした「経済国家」としての性格。これは大清帝国にも共通しますことを指摘しておきます。
 微:素人目には「誇大妄想国家」「金フェチ国家」にしか見えないけどな。
 苦:アジア物産交易に話を戻すと、女真族統一の原動力は朝鮮人参や貂の毛皮の交易でした。その窓口が李氏朝鮮だったのですが、朝鮮出兵後に朝鮮は親清政策を強め、大金と敵対しました。
 微:昔から朝鮮半島の北は迂回貿易で食っていたんだな。
 苦:大金内には出荷できない朝鮮人参や毛皮が山積みになり、配下の部族長の不満が鬱積します。また西のモンゴルのチャハル部も明と同盟を結び、大金に敵対してきたのです。
 微:2021年の日本でも自宅療養名目で死にかけの患者が山積みされているけどな。
 苦:ホンタイジは果断に即位翌年の1627年、朝鮮遠征で屈服させ、1635年には苦しみながらもチャハル部を併合しました。それは思わぬ副次的効果をもたらします。
 微:朝鮮人参のオマケとして羊肉を付けることができるようになったんだな。
 苦:TVショッピングかよ!! つまりチャハル部に伝来していた元朝の玉璽を譲り受けたのです。これは大金がモンゴル世界の王たる資格を得たことを意味します。
 微:エジプトで言うと、クシュ王国のブラック・ファラオ、プトレマイオス朝か?
 苦:そんなもんですかね。翌1636年、ホンタイジは満漢蒙の三族から推戴を受けて皇帝となり、国号を大清としました。ホンタイジが明征服の意志を明確にした瞬間です。
 微:いや、宣言するのはいいけど、国力が違いすぎないか? 軍事力はそれほどの差はないけど。
 苦:そして翌年にホンタイジの皇帝即位を認めないことを表明した朝鮮に親征してボコボコにします。朝鮮と明の冊封関係を断たせ、朝鮮を清の冊封国としたのです。
 微:男女関係だったら修羅場だな。しかし朱子学を国教とする国が夷狄に屈服するとは、屈辱。
 苦:誰もドラえもんの世界ではジャイアンに文句言えないでしょ。ホンタイジは明の征伐を果たせぬまま1643年に急死し、第九子フリンが6才で順治帝(位1643~61年)に即位します。
 微:これも日本語に変換するとインパクトあるな。
 苦:まあ、フィンランドのアホネンには勝てませんが。順治帝の補佐のため、叔父の睿親王ドルゴンが摂政となります。その翌1644年、奇跡のように李自成の乱で明が滅びます。
 苦:清軍は山海関を開城した呉三桂を先頭に北京へ向かい、李自成に清軍は大勝しました。
 微:奇蹟ではないように実現したので『ドルゴン桜』『ビリギャル』と讃えられたそうです。
 苦:古いよ!! 1650年にドルゴンが死ぬと13歳の順治帝による親政が始まります。征服王権の絶大な権力で、明の悪徳・腐敗官僚を追放し、官職の合理化を進めました。
 微:市バス運転手を犠牲にした橋下よりはしっかりしているな。
 苦:また宦官が政治に関与する事を死刑をもって禁止しました。1659年には鄭成功の北伐軍を跳ね返し、特別枠の呉三桂、尚可喜、耿継茂の三藩国以外、国内をほぼ平定しました。
 微:洪武帝のあの狂ったような凶暴さを明朝は失ったんだな。それが究極の敗因。
 苦:まあ、3代で殺しすぎたので。順治帝は1661年に天然痘で24歳で急死しましたが、康熙・雍正・乾隆の三世の春、黄金時代を導く役割を果たした隠れた名君です。
 微:いや、贔屓目に見ても「ごっつぁんゴール君」にしか見えないが。
 苦:次の康熙帝(位1661~1722年)は順治帝の第3子で8歳で即位しました。
 微:ということは順治帝15歳の時の子どもか。今の日本なら淫行罪で逮捕だな。
 苦:順治帝の遺命により、重臣4人による合議制で政治は運営されましたが、康熙帝は15歳の時に最後の実力者オボイを捕らえて排除し、親政を始めました。
 微:こいつが北海道にウポポイを作るんだな。それにしても2代つづけて中学生くらいで皇帝か。
 苦:それは21世紀の話だろ!! 康熙帝は1673年に藩王国の取り潰しを仕掛けます。呉三桂、尚可喜、耿継茂の子の耿精忠、彼らの藩王は雲南、広東、福建の「独立小国家の君主」でした。
 微:それで最南端の僻地なんだな。
 苦:康熙帝がこの三藩を廃止を通告すると、予想通り、呉三桂たちは清に対して反旗を翻しました。
 微:哀悼の意を示したんだな。
 苦:それは半旗!! 三藩軍は清軍を各地で破り、台湾の鄭氏も呼応し、一時は長江以南を全て奪われるなど清朝は帝国崩壊の危機を迎えました。
 微:しかし、武昌と漢口から謎の疫病が蔓延し、三藩軍はボロボロになりました。
 苦:それは2019年末の話!! 清軍は徐々に優勢になって1681年に三藩の乱を鎮圧、その2年後には台湾を制圧しました。ただ、制圧しただけで、「生蕃の地」「化外の地」扱いでしたけど。
 微:そこを1874年の台湾出兵で日本に衝かれると。
 苦:まあ、密貿易集団上がりですから、「縄張り」としたら、それで良かったんでしょう。
 微:しかし辮髪の清朝から「化外の地」扱いされる台湾は、どれだけの低レベルだったんだろ?
 苦:それから数年でロシア帝国が満州族の故地黒竜江付近に南下してきたのでネルチンスク「条約」を1689年に結びました。条約というより「互市」、外交関係なしの交易OKです。
 微:清朝もロシアもモンゴル帝国の後継国家だからな。兄弟関係とみなしたのか。
 苦:管轄は理藩院で交易相手扱いです。ただ、19世紀後半には最も恐るべき侵略国になりますが。
 微:それこそ本性を出す前と出した後のヒトラーだろ。(チャンチャン)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?