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(5)ウルトラマン、国際連合、日米安保条約~メフィラス星人が突きつけた問い~
5.むすびにかえて
ここまで、「禁じられた言葉」を通して、金城哲夫の軌跡、「ウルトラマン思想」、アメリカと日本の関係、アメリカと沖縄の歪んだ関係、本土と沖縄の非対称な関係についてかなりの紙数を使って論じてきた。
『ウルトラマン』が完結した時点から、その始まりに遡及して再び全体を論じたものであるため、主役的位置を与えた金城哲夫の果たした役割を過大視した「後付け」的な部分があることは自覚している。また創造の現場においては作者の意図を超えたものが、意図とはずれるがそれを上回るものが生まれてくることもまた当然である。
「歴史総合」への試みとして本稿は始まったが、筆者の主張(仮説)の根拠を確認し、論ずべきことが多かったことがこの長さの原因だが、それ以上に筆者は「歴史総合」が「教師の期待する答えを生徒に自発的に忖度させる」「自発的隷従を生む」科目になってはいけないと危惧を抱いており(1)、問題意識をかき立てる教材を見つけたかった。
「自ら学ぶ主体」は、やはり感動、驚き、怒り、違和感、葛藤からしか立ち上がらないだろう(2)。それは言い換えれば「他者との共感」「自分の小ささ・非力さの自覚」であって、損得勘定(3)や姿勢・態度に対する評価への期待からは決して生まれない。そのきっかけを提示することが、歴史総合を含めて高校教育に求められているのだと筆者は思う。
最後に教材開発について記したい。新しい事件や作品を使った教材開発は、当然ながら大事である。しかし誰もが名前くらいは知っている「国民的」TV作品や映画を新しい視点から読み解き、新しい問いを予想外の角度から発することで作品に新しい命を吹き込み、「反響し合う多様な読み」「新しい読みの可能性」を世代を超えて増やしていく方が、より豊かで多面的な解釈の連鎖反応(主体的で対話的な深い学び)を生み出すのではないか。
この実践はささやかながらもその一つの試みなのである。筆者の仮説(解釈)が牽強付会でないことを祈って筆を置きたい。
註
(1)近野日出晴「内面化される「規範」と動員される「主体」」(『歴史評論』2019年4月号、5-13頁、特に11頁。筆者も「自ら学ぶ主体」は、「規範」提示者の意図を想像することよりも、「規範」そのものの言語遂行的性格や恣意性を見抜く批評性を身につけてこそ自立した市民・公民たり得る、つまりそれが社会科教育の使命だと考えている。
(2)驚きと感動から学びというか学問が始まった見事な例が阿部謹也『ハーメルンの笛吹き男-伝説とその世界』(平凡社、1974年。1988年にちくま文庫に入った)だろう。
(3)筆者がイメージしたというか思い出した戯画的な「主体的・対話的で深い学び」はS.ジョンソン『チーズはどこへ消えた?』(2000年、扶桑社)である。
後記
ウルトラマンの放映開始が1966年。メフィラス星人が登場する第33話『禁じられた言葉』が放映されたには1967年2月26日。最終話の第39回「さらばウルトラマン」放映が4月9日。どちらも金城哲夫の単独脚本である。
もし、この『禁じられた言葉』が各国語に翻訳されて放映されていたら、これをリアルタイムで見た世界の指導者は以下の通り。
国連安保理常任理事国
リンドン・ジョンソン大統領(1963~68)
ブレジネフ書記長(1964~82)
ド=ゴール大統領(1959~69)
ウィルソン首相(1964~70)
蒋介石総統(1949~75、中華民国)
第三世界指導者
中華人民共和国:プロレタリア文化大革命(1966~75) 毛沢東・周恩来vs劉少奇・鄧小平
北ベトナム:ホーチミン(1945~69)
韓国:朴正熙(1961~79)
エジプト:ナセル(1954~74)
ユーゴスラヴィア:ティトー大統領(1945~81)
仮定の話だが、彼らがもしこの『禁じられた言葉』を見たら、どんな外交的反応を示し、どんな感想をいだいたのだろうか。
おそらくジョンソン大統領、蒋介石(日米安保条約)、朴正熙(米韓軍事同盟)は「余計なことを知らせるな」と思っただろう。ホー・チ・ミンは金城の試みに賛辞を述べただろう。毛沢東は台湾も含む日米安保条約の適用範囲縮減に少し期待しただろう。
沖縄が米軍基地に”NO”を突き付けたことにイギリス、フランスは「アメリカの政策」を薄く支持しただろう。ブレジネフは少し喜んだだろう。
なお、話の途中で、メフィラス星人の家来としてザラブ星人、バルタン星人、ケムール人が登場する。これも深読みしていくと、ザラブ星人=イギリス、バルタン星人=フランス、ケムール人=中華民国というソ連(社会主義国)以外の安保理常任理事国に当てはまってしまう。ここまで来ると「妄想」の域に達するが、筆者にはそう思えてならない。
(了)