食べもねんたる30
「来ちゃった」
そう、来てしまった。
ペリーが来た。
チャリで来た。
漁師が「なんか波打ち際に変な奴がいるでやんす。いるんでやんすよ、ダンナァ」って騒ぐもんだから来てみたらこのザマだ。
マウンテンバイクを前に憮然としていた。
なんでチャリで来ちゃうんだよ、船で来いよ。それが売りの部分だろ。
煙モクモクさせてろよ、民衆が川柳作れないだろ。
いや、煙はモクモクさせていた。チリリン鳴る奴の隣になんかぼこっとくっついてる。
「その煙出てるのなんなの?」
「アロマポット」
なんで屋外でアロマ焚くんだよ。効果あんまり分かんないだろ。
突っ込みたい気持ちはやまやまだがとりあえず黙す。
だってガイコクゴ圏の方だったりして言葉通じないかも知れないし、何より国際問題になったら大変だし。
そう、俺たちゃ役人だ。それも下流役人だ。
国際問題なんざ起こしたら首がスパッてなもんだ。セップキング(ライブ切腹ナウの意味)だって起こり兼ねない。
さっきまでは何人かエライ役人さんも来てたんだけど、
「ここはまだ、それがしの立つステージじゃないござる」
つって帰ってしまった。
帰っちゃうなよ、こちとら裁量権ない下っ端なんだよ。あんたらのステージで解決してくれよ、いやもうお前らがセップキングしろ!
そんな訳でここでは歴史的大事件は起こらない。
だって裁量権ないんだから。
これは名もない下流役人と名もないペリー(なんだ名もないペリーって)の事件の起こらない物語である。
歴史好きは帰った帰った!
役人たち、改めてペリーと対峙する。
ペリー、おでこにゴーグルはしてるものの背景に渡航の影は一向感じられない。
どうやって来たんだ、こいつ?チャリって水に浮いたっけ?
とりあえずは目的をはっきりさせよう。役人は顔を見合わせて頷いてからペリーに問う。
「でさ、何しに来たわけ?」
「まずは給油に」
「いやチャリじゃん?船じゃないじゃん!燃料要らないじゃん!」
「ノーノー、アロマオイルの」
「そっちかよ!」
「そっちは根本的にいらないだろ!」
「たった4杯で夜も眠れず」
「いや川柳はもういいよ。なんで飲んじゃうんだよ」
話は遅々として進まない。やはりガイコクゴ圏の人なのかもしれない。
役人は再び顔を見合わせ『にんともかんとも、わやでござる』とかなんとかコミュニケーションをとる。
と、ここでペリーが動いた。
「ところでさ」
江戸の世のニッポンにはない表情と眼力がペリーに宿る。役人は思いがけずびくり。
「オマエラハ、ドッチダト イイッテ オモッテルノ?」
急の片言も反則と言える。
下流役人は恐る恐る探り探り返事をするよりない。
「そ、それは『開国すべきか否か』的なスーパー国際案件のことでござりましょうか」
「それだとまずいんでござりまする。拙者ら、ザ・下っ端でござりますれば」
「うっかりしたことをひょっこり言ってしまうと、立場がベリーデンジャラスなのでござる」
「そうそう、二人そろってモストデンジャラスコンビでござる」
二人は口々に言い募る。だが、ペリーはゆっくりと首を横に振った。
まずい!セップキっちゃう!!
だが、ペリーの口から出たのは意外な言葉だった。
「違う、違うよ。ペリー@チャリで来たが聞きたいのはそういうことじゃなくって……」
俺のこと、おっさんだと思ってるの?おっさん顔のグラビアアイドルだと思ってるの?
ん?なんの話?
役人は目を丸くする。
「だってだよ?波打ち際にわざわざマウンテンバイク停めて絵面をキープするのなんてキテレツなことするの、アイドルのグラビア撮影くらいのもんだよ?グラビア撮影するおっさん、いる?」
ペリーの説明に「いないござるいないござる。そんなのいたら、プリーズセップキング言うござる」と役人。
さすれば。
「じゃあさ、俺はグラビアアイドルってことにならない?おっさん顔のグラビアアイドルだよ、それは」
アロマ男の意味するところが分かり、二人は戦慄した。
いやアロマ男いうてみたけどアロマ男なのか?男じゃないって話じゃないかこれ。あ、やばい。脳バグる。
「確かにそうだ。こんなとこでマウンテンバイクに決めポーズ。なんか違和感あるなって思ったけどグラビア撮影感ありありなんござる!」
「じゃ、俺@チャリで来たペリーはグラビアアイドルなの?」
「それも困る!なんせおっさん顔すぎる!!」
「じゃ、チャリペリーはおっさんなの?」
「そこも苦しいござる。おっさんが波打ち際にチャリで決めポーズは意図が見えない。それは怖い」
「じゃ、折衷案でおっさんのグラビア撮影なの?」
「とりあえず、それは外しとこう」
役人二人はうんうん唸った末に『ペリーはおっさん。おっさんが波打ち際で決めポーズかます意味は』を焦点に議論することにした。
一旦の安心を得たいじゃないか、それでいこう。
しかしながら、ペリーはさらに牙を剥く。
「さてお二人さん。ワターシは背にバッグを背負っていマース。遊戯ボーイ!」
「急に口調がペガサスなったござる」
「嫌な犠牲(サクリファイス)を強いられる危険を感じござる」
二人は上手いこと言って自分たちの不安を煽る。何してんだ。
「IFだよ?IF、このバッグの中にパイナップルとかトロピカルフルーツが入ってたとしたら、どうする?」
「待たれよ!それはまずい!いやが上にもグラビア撮影感が増してしまう!」
「しかも、トロピカルフルーツにハイビスカスが飾られてたら?ストローが刺さってたら?」
「いよいよまずい!グラビア感真っ只中ござらんか!」
「あるいはドバイのホテルではしゃぐ与沢翼氏かも知れなござ候」
もう何語なのか分からない言葉でござりまくり、二人は追いつめられる。
頼む、カバンの中身はトゥーンワールドデッキであってくれ!と望む反面、トゥーンワールドデッキだからといって別に嬉しくもない。
「10秒で選びなさーい。さもなくば、バッグを開放する」
「ヒィ!」
「どっちだ!グラビアを撮るおっさんか?おっさん顔のグラビアアイドルか?」
「ああ、なんか選択肢が酷くなってござる!!」
「後、5秒!!」
「アワワワワワワワ!!どっちござる?どっちござる?」
「お時間デース。ジャッジ!! おっさん顔のグラビアアイドル OR 開国」
「じゃ、開国で」
そんな訳で開国が決定して、下流役人によってハンコとか押されてあれよあれよと開国の運びとなった。
開国の運びとなってから「あれこれ、やべーんじゃねーの。セップキングじゃねえの?」と役人は慌て始める。
が。結局、やっぱチャリでは本国に帰れずペリーは日本に根を張るよりなくなった。そりゃそうだ(そもそもどうやって来たんだ)
当然、開国も無しになって二人はセップキングを免れた。
実際の開国は別のペリーに委ねられることとなる。頼むぞ、別のステージのえらい人。
そう、これはなんの事件も起こらない物語。
話は変わるが今でもカントー地方には,じそうタイプのポケモン ペリーが生息してるって噂。
もし捕まえたら、この名もなきペリーに愛称を与えアイドルがごとく可愛がってやってくださいや。
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