食べもねんたる1
大食いブームなんてとうに去り、見向きもされなくなった昨今。
時代に背くようにひたすら中華丼を食べる男がいた。
何人前だろうが、どんなに激アツだろうが、瞬く間にぺろりとたいらげる。
町中のあらゆる店で中華丼ぺろりは見受けられ、なんならコンビニの中華丼片手に街頭でもペロリズムは発揮された。
ペロリズムのテロリズム展開が進むにつれ、世間様で「おいこれやべーぞ」と評判を呼び、動画とか上げられ、彼の存在はそれはそれは有名になっていった。
そうしていつしか彼は、誰からともなく『中華丼王』と呼ばれるに至った。
西日本において最早、彼の中華丼ぺろりに敵う者なし(というか競う者そもそもなし)の評判いよいよ高まった頃、巷にこんな噂が広がっていった。
『でもどうやら、東にはすごい中華丼ぺろりがいるらしい』
どんな奴かと中身を聞けば、なんでも、
『何人前だろうが、どんなに激アツだろうが、瞬く間にぺろりとたいらげる』
『町中のあらゆる店で中華丼ぺろりは見受けられ、なんならコンビニの中華丼片手に街頭でもペロリズムは発揮され』るらしい。
どっかで聞いたことある話だが「おいこれやべー」と勢いは高まり町中が噂で持ちきりになっていった。
どうやら彼は東日本では敵う者なく『中華丼キング』と呼ばれているらしい、という話まで伝わったところで「これは黙ってられない」と彼が動いた。
中華丼王である。
好敵手を見つけてワクワクしたのか腹が立ったのか、とにかくSNSか大型掲示板か何かを通じて中華丼王は中華丼キングに連絡を取り、
遂には「どっちが中華丼を極めているか雌雄を決しようじゃないか」という事態にこぎつけた。
風雲急を告げ、二人は対峙する。
舞台は昭和の劇画を思わせる突風吹きすさぶ荒野である。
「あんたが『中華丼キング』かい?」
中華丼王が口火を切った。対する男はにやりと口角を上げる。
「いかにも。あんたもその・・・・・・中華丼にこだわりがあるらしいな」
「まあ、そういうことだ。ほんじゃ、いっちょどっちが上か。決めようじゃないか。準備はいいか?」
早くも前のめりの中華丼王を、中華丼キングが軽くいなす。
「焦らずいこう。悔いのない、フェアな勝負をしたいじゃないか。まずは握手だ」
中華丼キングが手を差し出す。これには中華丼王も目を剥いた。すぐに苦く笑う。
「一本取られたな。悪かった。あんたの言う通りだ。よろしく頼むよ」
中華丼王も手を差し出し、硬く握り合って分かれた。
立会人が顔を上げる。
「では、各々方・・・・・・準備はよろしいか?」
「いつでも」
「望むところ」
「では、中華丼3分間大食い勝負・・・・・・はじめっ!」
すかさず中華丼王の左手が丼を引き寄せた。すでにレンゲも携えている。瞬く間に一杯目が胃に消える。
対する中華丼キングの右手も動いた。迷わず、
「おりゃ!」
中華丼王の顔めがけて振り下ろす。おい、フェアな勝負どうした。
立会人が目を見開く。
「ここまでっ!!」
終わりを告げる声が上がった。声の主は中華丼キングだ。
「えー、ちょっと。お前が言うの?」
立会人が中華丼キングを見る。中華丼キングはうっすらと笑みを浮かべている。
「参ったよ・・・・・・。今ので右手首が外れ、肘をいわし、肩を壊しちまった。もう、これ以上食べられないよ」
「いや、お前まだ一杯も食べてないじゃん。てか、お前の腕の脆さ、それどーなってんの??」
立会人が矢継ぎ早のツッコミを入れる中、中華丼王は平気な顔で中華丼をかっ込んでいる。すでに30杯はぺろりんしていた。
そんな彼に中華丼キングは左手を差し出した。
「おめでとう。君の勝ちだ。君は今日から・・・・・・『中華丼王』を名乗るといい」
「いや、この人すでに中華丼王て呼ばれてるんだよ!」
「僕は今日から『中華丼キング』を名乗る」
「お前もそう呼ばれてきたんだろうがよ!統一戦なんだろうがよ!てか、今日の勝負の意味わかってる??」
「じゃ、『中華丼大キング』」
「なんで負けたのにちょっと出世した感出してきてん!」
「では・・・・・・・・・・・・『中華丼ランキング』なら?」
「それは意味分からんけど好きにせえや!めっちゃ溜めるほどの何もないわ!」
立会人のツッコミをバックに、中華丼王はただただ中華丼をかっ込んでいた。すでに300杯はぺろりんしていた。
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