R6弁理士試験 論文開示答案(特・実)

初めまして。R6弁理士試験に最終合格し、現在実務修習に取り組んでおります。

せっかく論文答案開示したのと、(面倒で)再現答案を出さなかったので、開示答案を公開することにしました。

なお、論文の科目別点数は以下の通りです。
特実:129
意匠:57
商標:62
全体:62

そのまま答案のスキャンデータを載せれば楽だとは思いつつも、あまりにも読みづらい字だったため、当時の心境等を思い出しながら文字起こししてみました。取り消し線や挿入等は修正を反映した形で記載しています(修正しなかった誤字等はそのまま残しております)。
答案中<>で答案用紙何行目まで書いたかを記載しております。

なお、特実については、大問2から解いたので順番を逆転しております。

あくまで一答案であって解答ではありませんので、本番これくらい書くとこの点数になるという目安としてご使用ください。


特・実 大問2 開示答案

設問1(1)について
1.乙が製造販売する塗料bは、溶剤として化合物Fのみが使用されており、この点を除いては甲の発明イの要件をすべて充足するものである。ここで、甲のイに係る特許権Pの特許請求の範囲には「溶剤は化合物B、C及びDの中から選択される」と記載されており、乙のbはイの技術的範囲に属さないように思える。
2.しかし、(1)溶剤をFに置き換えても、イと同じ耐水性が高いという作用効果を奏するものであり、(2)耐水性が高いという作用効果は塗膜成分Aを用いることで達成されるものであるから溶剤は発明の本質的部分ではない。
 したがって、(3)bの製造時において溶剤をFと置き換えることに当業者が容易に想到でき、(4)甲のPの出願時にbを当業者が容易に遂行できたものでなく、(5)FをPの特許請求の範囲から意識的に除外したと言える特段の事情がないときは、bはイと均等なものであるとして、イの技術的範囲に属すると言える(68条)。
<1ページ14行目>
設問1(2)について
 特許発明の技術的範囲は願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない(70条1項)。また、この場合において、明細書等の記載を考慮して特許背級の範囲の用語の意義を解釈するものとする(70条2項)。
 本問において、Pの特許請求の範囲には溶剤として化合物B、C及びDから選択されることが記載されており、Eは明細書のみに記載されている。
 したがって、化合物Eは特許請求の範囲に記載されていないため、イの技術的範囲に属さないと乙は主張できる(68条)。また、Eを明細書に記載していながら特許請求の範囲に記載しなかったとして、EをPの特許請求の範囲から意識的に除外したとして、Eを使用したbはイと均等でない旨主張できる。
<2ページ6行目>
設問2(1)について
1.損害額の算定について
 特許権者等が侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者が侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量あたりの利益の額に、譲渡数量を乗じて得た額を損害の額とできる(102条1項1号)。また、侵害した者が利益を受けているときは、その利益の額は損害の額と推定される(102条2項)。
2.102条1項の主張
 本問において、塗料a、bは1製品当たり同じ量で販売されており、aの1製品あたりの利益の額の方が、bの1製品当たりの利益の額より大きい。
 よって、侵害の行為がなければ販売することができたaの利益の額が大きいため、同じ量で販売した場合、102条1項で算定する損害額の方が大きい。
 以上より、甲は損害額の算定において、102条1項1号で算定される額を損害額として主張すべきである。
<3ページ1行目>
設問2(2)について
 bの販売数量のうち70%は乙の営業努力の結果販売することができたものであるから、譲渡数量のうち、特許権者が販売することができないとする事情に相当する特定数量にあたる(102条1項1号かっこ書)。よって、乙は譲渡数量から特定数量を控除した数量を利益の額に乗じて得た額を損害額として主張すべきである(同条同項1号)。
<3ページ7行目>
設問2(3)について
 (2)の減額部分にあたる特定数量については、これに応じた発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を損害の額とすることができる(102条1項2号)。よって、甲は、減額後の損害額に加え、減額部分について実施料相当額を加えた額を損害額として主張できる(102条1項)。
<3ページ12行目>
設問3(1)について
1.事例の検討
 特許法における侵害とは、正当な権限なき第三者が魚として特許発明を実施すること等をいう(68条、101条)。
 丙は、Pに係るイの技術的範囲に属するcについて、業としての実施にあたる製造・販売を行っている(2条3項1号)。よって、丙の行為は侵害を構成し、否認できない。
2.先使用権の主張 
 丙は先使用権を有する旨主張できる(79条)。
 79条における「事業の準備」とは、①即時実施の意図を有し、②それを客観的に認識しうる態様・程度で示していることをいう。
 本問において、丙は発明イの内容を知らず自らイと同一の発明をし、甲の出願の日前に、イの技術的範囲に属する塗料の製造に特化した製造装置を発注・設置している。また。取引者らにそれらの事業を伝えており、発注後直ちに日本国内で塗料の製造を開始することを伝えており、即時実施の意図が客観的に認識しうる態様で示されていることから、当該行為は日本国内における事業の準備に該当する。
 よって、丙は、当該準備をしている発明の目的の範囲内でPについて通常実施権を有する(79条)。
<4ページ9行目>
設問3(2)について
 先使用件について、cをdに変更した場合でも適用されるかが問題となる。
 ここで、dはcに含まれる顔料を耐性に影響のない別の顔料に変更しただけであるから、先使用権における発明の目的の範囲内であると言える。
 よって、丙は上記を主張し、3(1)と同様に先使用権を主張できる。
以上
<4ページ14行目>

特・実 大問1 開示答案

設問1(1)について
1.職務発明について
従業者等がその性質上使用者等の業務範囲に属し、かつその発明をするに至った行為がその従業者等の現在または過去の職務に属する発明をしたときは、職務発明に該当する(35条1項)。ここで、「業務範囲」は現在または過去において実際に行われている使用者等の業務の内容を示し、職務とは、使用者等の命を受けて、その業務範囲の一部を遂行する責務を言う。
2.イが職務発明に該当するか
 甲は農作業機のメーカーであり、甲の従業者である乙は入社以降一貫して、農作業機に関する業務に関する開発を行っていることから、農作業機に関する発明イは甲の業務範囲に属する。また、甲は上司の業務上の命を受け、勤務時間中に開発を進めていることから、イは、従業者の現在の職務に属する発明である。よって、イは職務発明に該当する。
<1ページ13行目>
設問1(2)について
 甲の勤務規則には、「あらゆる種類の発明について、なされた経緯にかかららず完成時点で甲が取得する」旨が規定されている。ここで、従業者等がした発明については、職務発明である場合を除き、あらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させること等を定めた勤務規則は無効となる(35条2項)。
 よって、甲の勤務規則にある「あらゆる種類の発明」については規則は無効となるが、イは職務発明であるため、無効の対象とならず、勤務規則通りイが完成した時点でイについての特許を受ける権利は甲に帰属する(35条3項)。
<2ページ1行目>
設問1(4)について
 特許出願前における特許を受ける権利の承継は、その承継人が特許が特許出願をしなければ第三者に対抗することができない(34条1項)。
 本問において、甲は特許を受ける権利を丙に譲渡した後に丁に譲渡しているが、丁が丙よりも前にイについて出願を行っている。よって、丁は丙に対して、イについての特許を受ける権利が丁に帰属していると主張できる。
<2ページ7行目、(3)と(4)は順番逆に書きました>
設問1(3)について
 イについての特許を受ける権利は、甲に原始的に帰属しており(35条3項)、乙は特許を受ける権利を有しない。よって、乙は丁より前に出願しているものの(34条1項)。丁は乙に対してイについての特許を受ける権利が丁に帰属していると主張できる。
<2ページ11行目>
設問2(1)について
1.パリ優先権の発生要件
 パリ条約の同盟国の国民Xの国民甲は、X国において最先の実用新案登録出願Aを適式に出願している(パリA(1))。ここで、正規な国内出願とは、結果の如何を追わず、当該国に出願をした日付を確定させるすべての出願をいうため(パリA(3))、Aに係る実用新案権を放棄していても、Aは正規な出願に該当し、パリ優先権の発生要件を満たす。
2.パリ優先権の主張について
 甲は、Aに基づいて、優先期間内に適式にパリ優先権を主張すれば、Aに基づくパリ優先権を伴った日本国内における特許出願ができる(パリ4条C(1)、43条1項)。
<3ページ1行目>
設問2(2)について
 甲は、パリ条約の例による優先権主張をすべきである(43条の2第1項)。
 パリ条約4条D(1)の規定により、優先権主張をしようとしたにもかかわらず、故意でなく期間内に優先権の主張を伴う出願ができなかった者は、経済産業省令で定める期間内に、経済産業省令で定めるところにより出願をしたときは、優先権期間を徒過していても、優先権を主張できるためである。(同条同項)。
<3ページ7行目>
設問2(3)について
 発明ロは、Bの前にAの実用新案掲載公報が発行されていても、29条1項3号に掲げる発明に該当するとして拒絶理由を有しない。
 考案ロはAの出願書類全体に記載されており、Aに基づくBの優先権はAの明細書全体に基づき発生するため(パリ4条H)、ロも適切な優先権主張を伴う。また、A後B前に行われた行為によってBのロは不利な取り扱いを受けないことから(パリ4条B)、Bのロは、Aの実用新案公報による拒絶理由を有しない。
<3ページ14行目>

特・実 コメント

もともと侵害系の方が得意だったので大問2から書き始めました。ただ大問2に75分程度時間を使ってしまい、大問1を45分程度で書き上げることになってしまいました。最終的に終了1分前に終わりました。
時間がなかったため、例えば大問2の設問3(2)はかなり端折って書いてますし(これに時間をかけるよりはさっさと大問1に行こうと思った)、大問1は全体的に検討が薄いです。

大問2は答案構成をちゃんと作りました。荒いところはありますが、比較的書きたいことを書けてると思っています。時間をかけただけはある。
R5で設問3を見落としたっていう事例を聞いていたので、最初に設問数を確認しました。

大問1は当然時間なかったので答案構成をほぼせず書きました。と言いつつも、事前にLEC道場で職務発明を取り扱っていたことで調子に乗り、設問1で書きすぎました。職務発明を丁寧に書くよりは、みんな書けるであろうパリ優先の要件をもっと丁寧に書くべきだったと直後に思いました。とにかく時間内に終えるために書き進めました。
設問1(3)と(4)が逆転しているのは、設問1(3)を書いている途中で設問1(4)の結論になる流れになっていたことに気づいたためです。点数的に多分採点対象になっているはずです。

特実は書き負けていない自信があったので、当日も特実終了後は少し気持ちの余裕ができていました。特実は問題数が多いので、多少荒くてもよいから結論を間違えずとにかく書き上げる、という気持ちが点数に結びついたと思っています。

意匠・商標も記事作成します。




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