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vol.8 オンラインで子どもが狙われる時代:最新データが明かす深刻な被害の実態

こんにちは、イギリスで働く犯罪データアナリストのpatoです。
(以下、センシティブな内容を含みます。ご注意ください)。

皆さんは、ここ数年で急増しているオンラインで子どもを狙った性犯罪についてご存知でしょうか?

昨年、オンラインでの子どもへの性搾取・虐待(OCSEA: Online Child Ssexual Exploitation and Abuse)に関する世界的な調査結果が発表されました。この調査は、さまざまな国で行われた調査をもとに、どれくらい多くの子どもたちが被害に遭っているのかを推定したものです。6つの国連言語(英語、フランス語、スペイン語、アラビア語、ロシア語、中国語)を使って行われた系統的レビューと、メタアナリシスという手法が組み合わされています。

  1. 系統的レビュー
    これは、既存の研究や調査データを徹底的に収集し、評価する方法です。具体的には、世界中で行われたOCSEAに関する調査を選定し、その結果を統合して、より包括的な知見を得るために使用されました。この方法によって、研究結果の偏りを最小限に抑え、信頼性を高めています。

  2. メタアナリシス
    メタアナリシスは、異なる研究から得られた結果を統計的に統合する手法です。これにより、個別の研究のサンプルサイズやデータのばらつきを補正し、全体としてのOCSEAの発生率をより正確に推定できます。複数の研究結果を一つにまとめて、全体の傾向を導き出すため、個別の研究では見落とされがちな共通点やパターンを明らかにすることができます。

この2つの手法を組み合わせることで、OCSEAの発生率に関するより信頼性の高いデータを得ることができ、各地域や国における状況を反映した推定が可能となっています。

OCSEA測定の課題

OCSEAの測定における大きな課題は、子ども虐待の形態が多様であり、これらを統一的に定義する基準がまだ整っていない点です。オンライン上での子どもへの性搾取や虐待には、さまざまな形態があり、それぞれが異なる用語で表現されることがあります。これにより、データの比較や発生率の推定が難しくなってしまいます。

被害のタイプ

OCSEAの被害にはいくつかの代表的なタイプがありますが、主に以下の4つが多く見られます。

  1. オンライン勧誘
    SNSやゲームのチャット機能を通じて、性的なメッセージや会話を求められるケースです。たとえば、モデルのスカウトを装ったアカウントから写真を送るように誘導され、最終的に性的な画像や動画のやり取りにつながる場合もあります。

  2. 画像ベースの虐待
    子どもの同意なしに性的な画像や動画が撮影・共有されたり、ポルノ的な内容を見せられるケースです。

  3. 性的搾取
    金銭や物資などを対価として、子どもに性的行為を強要するケースです。経済的な困窮が背景にあることが多いです。

  4. 性的恐喝(セクストーション)
    一度、手に入れた子どものヌード画像や動画を家族や友達、ウェブ上に公開すると脅迫し、さらなる画像や金銭、場合によっては性的行為を強要するケースです。

以前の投稿でも、インターネットを介し、非常に悪質な手口で子どもやその家族を追い込んだおぞましい事件について書いています。よかったら、ご参考までに。

主な調査結果

調査の結果、以下のような発見がありました。

  • 1年間に世界中で、約8人に1人(12.6%)の子どもが、性的な画像や動画を無断で撮影されたり、オンラインで公開されたりする被害に遭っています。

  • 同じ期間に約12.5%の子どもが、オンラインで性的な勧誘を受けていたことが分かりました。SNSやチャットアプリなどを通じて、不適切なアプローチを受けたケースが多かったことを示しています。

  • 全体のOCSEA発生率は8.1%と推定され、少なくとも1つのタイプの虐待を経験した子どもたちの割合はこのように報告されています。

  • 性別差については、男の子(7.5%)女の子(8.7%)で女の子の方が若干高い割合で被害に遭っていますが、その差は統計的に有意ではなく、大きな違いは見られませんでした。男の子だから大丈夫というわけでは決してありません

今後の課題と提言

この調査から明らかになった重要な課題の一つは、OCSEAの発生率に関するデータが不足している地域が依然として多いことです。特に、証拠が乏しい地域では、どれほどの子どもたちが被害に遭っているのかを正確に把握するために、さらなる調査が不可欠です。日本に関しても、現在のところデータが存在しておらず、状況の把握が難しい状態です。このため、今後はデータ収集の方法や報告基準の標準化を進め、信頼性の高いデータを確保するための仕組み作りが急務となります。

また、メタアナリシスの結果、発生率の推定値に大きなばらつきがあることが判明し、被害経験を正確に測定・分類するためには、さらなる研究が必要であることが強調されています。特に、オンライン性的搾取や性的脅迫に関する発生率を報告した研究が限られているため、OCSEAの実態をより正確に把握するためには、信頼性が高く妥当な調査手法の確立が求められます。

加えて、地域ごとの状況を適切に考慮したデータ収集を実施することで、各地域の特性に応じた対策や政策の改善に資するデータを提供できるようになります。これにより、より効果的な被害防止策の策定や、支援体制の強化につなげることが可能となるでしょう。

最後に

この調査のデータはすべて公開されており、再現性を確保し、さらなる研究の基盤として活用されています。今後、このデータをもとにさらに深掘りして、より多くの子どもたちを守るための対策を立てることが期待されています。次回は、加害者側の視点についての研究についてご紹介したいと思います。

参考文献:
Fry, D., Krzeczkowska, A., Anderson, N., Ren, J., McFeeters, A., Lu, M., Vermeulen, I., Jaramillo, K., Marmolejo Lozano, M.P., Savadova, S., Kurdi, Z., Jin, W., Zhang, J., Liu, W., Lu, Y., Shangguan, S., Zhu, Y., Zhu, H., Gong, X., Lio, J., Harker-Roa & Fang, X. Indicator 1: The Prevalence of Online Victimisation. Data from "Into the Light: Childlight's Global Child Sexual Exploitation and Abuse Index". Edinburgh: Childlight, 2024.
https://childlight.org/sites/default/files/2024-05/into-the-light.pdf


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