ソフビが変形!?:我龍
ソフビも50数年の歴史があり、もちろん当時使用できた材料や塗料と現在のものは大幅に違ってきている。
製法自体はほぼ変わりないと言って良いが、手法をほぼ人の手で行うことによって製造されるために、その人の技術という面では新しい方々の努力によって色々と進化していると思う。
ただ、ソフビ自体は『安価に製造できる』という部分が大半を占め、極限まで製造方法を簡略化し、残りを人の勘に頼るという脆弱な部分が多い、というのは今でも変わらない。
もちろんスラッシュ成型からローテーション成型というもので大きく進化した部分もあるが、ローテーション成型のための金型は高価であり、やはりスラッシュ成型という安価な製造方法を使わなければソフビを安価で作ることはできない。
しかしその『制約が多い』ということを逆手にソフビは独自の形をとることとなり、それはとても愛らしい形として愛されてきた部分も大きい。
これがいわゆる『ソフビ原理主義』というもので緩い造形に愛らしさを感じ、ある種美術的な味わいで現在まで生産されているし、その形状に対してのファンも非常に多い。
ただ、時代も変わってきており、特にクリエーターやデザイナーによるさらに『美術』としてのソフビを作りたい、というまた別の進化を遂げようとしていることも現在のブームの特徴でもあると思う。
しかしスラッシュ成型というのは非常に制約が多く、ほぼ考えている形のものはできない、という足枷がある。
が、それは逆にデザインする・原型を作るという面では手腕を試されるのでソフビでの作業で一番重要、且つやりがいのあるのは『原型』であろう。
原型師、そしてのちに説明することとなるがジョイント(嵌着)を制作することの責任の重大さは大きい。
ここで設計が狂うと大幅にやり直さなければならない。
そのことで作業が遅れ、製品化に時間がかかってしまうことは減価償却に大きく影響が出てしまうだろう。
というのを踏まえ、前々から試してみたいことがあった。
それは、依頼された原型・版権物・嵌着を外注にお願いしているうちは絶対に叶わなかった。
それらを全て自分でできるようになった時に実験も兼ねてチャレンジしてみた。
それが
『変形するソフビ』
だ。
もちろん、ジョイントを回転させることによって別の形に変形するソフビというのは先人も作られていた。
今回はそうではない。
そもそもソフビはその『嵌合』によって動くというのが定説であり、そのジョイントがうまくできなければ接着する、ということが主流だった。
それを間接を作って変形させようと、自分で嵌着を作り始めてから思い始めていた。
できるかもしれない、やってみたいという気持ちが大きくなり製作に踏み切った。
そして出来上がったのが
『我龍』
だ
今回は細かい製作方法や技術解説など抜きにして、変形方法だけを書いていきたい。
それだけでも十分ソフビの材料としての可能性を感じていただけると思う。
では、さっそく変形のシークエンスを解説したい。
1:胸部を上にスライドする
2:腕を90度に回転させてパーツをごと上に引き出し、ショルダーアーマーを倒す
3:胸部を90度に曲げていきながら下半身を回転させる
4:脚を90度に回しながらボディに水平になるように回転させる
5:足首を閉じ、腕を足と水平に回転させて変形完了
関節も動くのである程度のポージングも可能だ。
このソフビを製作する以前に弊社では『レガシーシリー』ズというインナーフレームを使った2重構造のソフビを製作した。
これには賛否両論あり、特に『ソフビでやる意味があるのか?』という意見が非常に多かった。
しかし、我々のような小規模事業にとっては前途した『極限まで安価で作れる』という玩具はやはりソフビしかないと思う。
逆説的に、縛りがなければソフビはどこまでできるのか?というチャレンジをしたことがないということも言える。
これもそもそもの話になるが、表現というものは縛られるべきではないと考えている。
ソフビ原理主義の商品もあればフィギュアであっても良い。
またプラモデルのようであっても良い。
できるのであればいろいろな表現方法・媒体である、ということがこのカテゴリの生きていける道だと。
どのような形態であれ『好き好き』であることを忘れてはならないと思う。
『こうあるべきだ』はその人の考え方であり、強要すべきではないと思う。
自分としては、『こうあるべきだ』という言葉には全く興味がない。
できるのではないか?ということがあると行動せずにはいられない。
未だ、自分も驚くような技術を別の方から見せられると自分もさらに上を目ざしたいと、そういう生き方を心がけたいものである。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?