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商品情報は基礎情報だけでは補えない?顧客目線の付加価値情報の考え方

コロナ禍によって、様々な産業でDX(デジタルトランスフォーメーション)が一気に加速しています。そして、小売業界でもデジタル化の勢いは増すばかりです。
ただ、一概に「小売業界におけるDX」と言ってもその捉え方やアプローチは様々あるなかで、Patheeでは「小売業界におけるDX」をいくつかのステップで捉えています。
その上で、まず最初のステップとして重要なのが、店舗に関わる様々な情報をデジタル化し、マーケティングに活かすことだと考えています。
そこで今回の連載企画では、Patheeのマーケティングマネージャーの原嶋が、「いま小売業界がデジタル化するべき情報は何か」をテーマに、最前線で活躍するキーパーソンにインタビューしていきます。

商品レビューなどの「付加価値情報」がECのパーソナライズ化の鍵

原嶋)
まず田中さんが株式会社アダストリアで今何をなさっているかをお聞きしてもよろしいでしょうか。

田中)
マーケティング本部で3つの機能を担当をしています。
3つの機能というのは、EC、データ活用、宣伝です。

原嶋)
オンライン領域は全て見られているんですね。
それでは各機能ごとに必要になるデータについてお伺いしたいと思います。まずはECについてお聞きします。
どのようなデータが必要、かつデジタル化していく必要がありますでしょうか。

田中)
ECのデータだけではないですが、私個人としては、データ活用はそれを使って「何をしたいか(WHY?)」が一番重要だと思っています。
ここからの話は、現状、私が持っている領域でまだ実現の為に、試行錯誤しているので、我々ができている訳でないのですが、あくまで理想の話です。

お客さまにどう喜んで、買っていただけるか。
その中でEC領域で、私がお客さまに喜んでいただけるために考えている1つは、「いかに早く発見していただけるようにするか?」をどう実現できるか?だと考えています。

WHY?でいうと、その方が、早く発見できて、楽だし、その商品自体がそのお客さまの好みにも合えば、より良い買い物体験の提供だと感じるからです。

お客さまには目的が決まっている方と目的が決まっていない方がいらっしゃいます。目的が決まっている方はそれを見つけられればよいと思っていて、その商品を最短で見つけられるようにするのが重要です。

「何か欲しいな」とか「何かいいのないかな」っていう方に関しては、
発見の機会をどう提供できるか?がやはり重要になってくると思います。

一人一人、趣味嗜好が違うので、理想は、より早く発見して頂く為にも
データを活用した、世の中的に言う「パーソナライズ化」
が必要になってくると感じます。

つまりいただいた質問の回答としては
「パーソナライズをするために必要なデータは何か?」から
定義する
ことだと思っています。

原嶋)
パーソナライズをECでしていくためのデータを集めるのは大変そうですが、どうでしょうか。

田中)
意外と多くの企業がすでにデータを持っていると思います。リアル店舗やECサイトでの購入履歴、ECサイトだけのデータになりますが、どんな商品をクリックされたかなどのデータはECを運営している企業ならすでに保有していると思います。

弊社の話で言うと、ECとリアル店舗の会員IDを統合しているので、どちらのチャネルで購入して頂いても、購入履歴データはしっかり持っています。その為、先程お話をした、お客さまが、いかに早く発見するかを考えた上で、今まで取得してきたデータをどう活用したらいいかを考える。あとは企業によってのブランディングやデータへの向き合い方によって変わってくると思うので、各社の強みに合わせた色々なやり方のアウトプットが今後多岐にわたり出てくると予測しています。

原嶋)
すでにデータは持っているのにも関わらず、その認識がない企業はあるかもしれませんね。商品関連の情報についてはどのように考えているか教えていただけますでしょうか。

田中)
あくまでも個人的な言い方なのですが、
商品情報データは「基礎情報」と「付加価値情報」に分けて考えています。

まず「基礎情報」と言うのは、例えばニットだとか赤色だとか、
商品登録時に必ず必要になる商品の情報です。
企業側がその商品を定義するために持っている情報です。

もう一つの「付加価値情報」は各社で変わってくると思いますが、
弊社で例をあげるとすれば、
ECサイト上にお客さまが書いてくれる「商品レビュー」などですね。

例えば、
同じ商品でも「結婚式の2次会で着ていったら、みんなからすごく褒められて、嬉しかったです。」や「会社に着ていきました。裏地も良くて伸縮素材も入っているのでオフィスワークでも活用できました。」など人によって同じ商品でも活用の仕方は変わります。

これらのお客さまのレビューは(意見)は、
シチュエーション毎のタグとして利用できると考えてます。
こういう情報は、「基礎情報」では補えないです。
お客さま目線が重要で、
お客さまが実際にどのように着用して頂いたのか?を
お客さまの言葉をベースにキーワード化して、活用していく。
それを他のお客さまが見て、参考にしていただく。
そのループを作っていく。

企業側の一方的な発信ではなく、
お客さま目線の発信も重要な資産として、
データを作っていくと、
企業毎に、いろいろな活用法が可能なのでは?と考えてます。

原嶋)
「付加価値情報」のところをもう少しお聞きしたいのですが、
レビュー以外には他にどのようなものがありますでしょうか。

田中)
弊社で、他の「付加価値情報」と言うと店舗スタッフもその1つだと考えています。
お客さまもスタッフも十人十色なので、相性が出てきます。
お客さまの中には、弊社スタッフと、同じぐらいの身長なのでファッションの参考になるとか、今着ているスタイリングが素敵だから、このスタッフのファッションを参考にしたいなど、自分と、相性のいいスタッフを求めている方がいらっしゃいます。

原嶋)
御社のECでスタッフさんのコーディネートが掲載されているのは、スタッフのファン化からの売上向上のためなんですね。Instagramもある中で、別にコーディネートコンテンツを運営しているのは2つの役割が違うからでしょうか。

田中)
自社ECサイトのスタッフコーディネートは、
お客さまが商品を買うときの「こういうふうに着こなせます」という参考で、Amazonでいうところのレビュー機能と同じような役割だと考えてます。
本を買うときにいろんな人の意見があることで、
内容のイメージが湧いて、より納得性のある購入の後押しになることがありますよね。

アパレルでも商品1つ1つに対して、
その商品を活用したコーディネートがあることで、この着こなしいいな、
じゃあこの商品を買おうかなとなることがあります。
結果、コーディネートの役割は、
ECサイトのコンバージョンレート(購入率)を上げる効果にも繋がります。

一方でInstagramは

コンバージョン(購入)の手前の役割だと思います。
この人のファッションが好きなのでフォローしようという行動が生まれ
フォローしているうちに、徐々にすごく参考や憧れになり、ファンになっていく可能性も高いです。

つまり、結論Instagramは媒体としての役割でいうと
ファン化にもつながりやすい特性を持っていると考えてます。


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お客さまの声は定量的には測れない気づきを与えてくれる貴重な情報

原嶋)
ECでのデータというお話をしてきましたが、
担当されている2つ目のユーザーのインサイトデータ
についてお聞きしたいと思います。

田中)
ユーザーインサイトは、
主にはお客さまの「声」を指しています。

NPSなども定期的に取り活用していますが、
それはあくまでスコアが上がっているか?などの健康診断としての活用を
しています。

このお客さまの声は、デイリーで取っている「声(意見)」の事を指していて、デイリーで届く「声」は本当に参考にさせていただくことが多いです。

その「声」が多く頂けるようなフローを意識的に作っています。

あくまでECサイト上で
ご意見があったら記載してくださいっていう(インセンティブなし)
の簡易なフローではありますが、

その声をキーワードごとにテキストマイニングして、
サイトの意見やサービスの意見とかに分類分けをして、
改善をやっています。

お客さまの声の中には定量的には測れない
重要な気づきを与えてくれることが多く、
例えば、良くあるGAデータなどよりも
貴重なものだと位置づけてます。

あとは単純に、その声から
「すごく使いやすくなりました」
「サイトがあって、いつもありがとうございます」
のようなモチベーションを上げてくれる声も届くので、
データ分析という難しいことを忘れて、単純に改善した事で、
それに対して、お客さまから良い意見が聞けたときは、
モチベーションUPにもつながるんです。

原嶋)
デジタルだと店舗と違い、お客さまの声を直接いただく機会は少ないので、非常に重要ですね。実際にお客さまの声でサイトやサービスがこういうふうに変わったというお話を教えていただけますか。

田中)
まずはサイトのサービスなどですね。
わかりやすい例で言うと「決済で〇〇を入れて欲しいです」とか「〇〇サービスを入れて欲しいです」という声をいただいて、その声が多かった為、
実際に導入したりしてます。

もちろん、
1 声の量を定量的に見たり(多い、少ない)
2 そのサービスが世の中でどれくらい浸透してるか?
3 他社の利用状況はどうか?

を調査して、判断しています。
ただ、そのサービスを導入する一番初めのキッカケを頂いたのが
お客さまの「声」からというケースです。

原嶋)
最後は宣伝で利用するデータについてのお話をお聞きしたいと思っています。マーケティング部の宣伝というのはどの領域を担当されているのでしょうか。

田中)
各ブランド毎にプレス担当が所属していますので、
宣伝部では横断して全体の施策を見ています。
例えば、先程も話が出た
最近のInstagramのトレンドを共有する、や
色々な施策の良い事例をブランドに横展開するなどをしています。

原嶋)
Instagramという具体的な話が出てきましたが、
SNSの運用のところを詳しくお聞きしても大丈夫ですか。

田中)
コロナの影響もあるのですが、SNSの重要性を再確認しています。SNSと一言でいってもそれぞれの媒体で特性が違うので、個別で扱うように意識しています。クリエイティブにしてもInstagram、Twitter、Facebookなどに一緒のものを出すのではなく媒体特性をふまえて変えていくことが大事だと思っています。

デジタルに向き合う時にはお客さま、ブランド、従業員を繋げるという意識を持つ

原嶋)
最後になるのですが、これからデジタルをしっかりやっていこうと思っている店舗事業者に何かアドバイスはありますか。

田中)
お客さま、会社(ブランド)、従業員という3つの視点を
繋げる
というのが重要だと思っています。

まずお客さまですが、

当たり前のことですが、
お客さまの視点で考える事を忘れない様に意識する。
事業側としてはすごいことでも丁寧に伝えなければお客さまにはわからない。
お客さまをしっかり見て、考えて、実行する必要があります。

私自身もできている訳ではまったくないのですが、
やはりそこが一番まずは重要なので、意識をするようにしています。

次にブランドですが、

今持っているアセット、
つまり会社(ブランド)の強みを最大限に活用することです。
例えばECをするといっても1000店舗すでに持っているブランドなら、
ECだけでなく店舗側でのタッチポイントをしっかり
利用する設計にするなど

デジタル活用だからECだけで色々やるとかではなく、
何か強みで、お客さまの接点が多いか?を総合的に考えて、活用していく事が重要だと感じます。

最後の従業員は、

ブランドは一人では運営しているわけではないので、
EC担当や店舗スタッフなど従業員全員で
総合戦で向き合っていくことがやはり大事です。

先ほどお話ししましたが、
弊社の場合だと店舗スタッフがコーディネートを
デジタル上でも発信してくれているというのはその一例だと思います。
このコーディネートの発信をデジタル側の担当は俯瞰して、
店舗スタッフとお客さまをどう繋げた方がいいんだろうか?
とかその人たちがもっとよりよく活躍する場を作れるように意識すれば、
一人一人の従業員が もっともっとお客さまの為に活きると感じています。

原嶋)
どうしても自分の視点から物を見ることは多くなってしまうので、
常に3者の視点を持っていくことは店舗事業者だけでなく、
全てのビジネスに重要ですね。
本日はありがとうございました!

■この記事はお買い物スポット情報サイトPathee を運営している株式会社Pathee が提供しています。

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