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彼らは海上の哀しき獣だった 韓国映画【海にかかる霧】

2014年公開作品(日本公開は2015年)。ポン・ジュノがプロデューサーとして関わったサスペンス映画です。なんと、ハリウッドでリメイクが決まったそうです。

映画解説は映画.comさんのを引用させていただきます。
「殺人の追憶」「グエムル 漢江の怪物」のポン・ジュノが製作を務め、「殺人の追憶」の脚本を担当したシム・ソンボが監督デビューを果たしたサスペンス。2001年に韓国で実際に起こった「テチャン号事件」を題材にした舞台劇「海霧(ヘム)」を映画化した。不況にあえぐ漁村の漁船チョンジン号の船長チョルジュは、中国人の密航者を乗船させるという違法な仕事に手を出してしまう。沖合で密航船と合流し、密航者たちを乗り換えさせて陸まで運ぶという簡単な仕事のはずだったが、海上警察の捜査や悪天候に阻まれ、思いもよらない事態へと発展していく。人気グループ「JYJ」のユチョンが映画本格初出演し、「チェイサー」「哀しき獣」の実力派キム・ユンソクと共演。

この映画、すごく良かったのは覚えていたのですが、私は記憶力が壊滅的なのでストーリーはうる覚えだったのです。だからなんとなく観直してみようと思ったのが運の尽き。思ってた以上に重い!辛い!何度映像を止めたことか…。

以下、最終的なネタバレはしていませんが、鑑賞後の感想は書いています。時代は1998年で韓国経済が一番苦しかった頃。キム・ユンソク演じる船長が率いる田舎の漁港の男たちがみんな、野蛮で不潔で頭が悪そうなんです(ほんと失礼)。漁村全体から貧しさとすさんだ生活が伝わってきて、なんだかやりきれない気持ちになる中、清涼剤のような存在がユチョン。まだ高校を出たばかりの新米乗組員で、お祖母ちゃんを大切にする純粋な青年。

この時期のユチョンは恐らく人気絶頂だったと思うんですが、スターオーラは全くなく、朝鮮族の女の子を必死に守ろうとする、地味で不器用な青年にしか見えません。本当に上手なんだと思います。というか、この映画に出てる俳優全員が猛烈に上手くて(そのように見せている監督の腕もすごい)、リアルすぎて見ていて辛いです。

キムユンソク船長は一生懸命働いているのに、目の前で奥さんに浮気されたりしていて最初は同情していたのですが、密航者たちを統制するためにどんどん横暴になってきて、デッキブラシで朝鮮族に殴り掛かった時には、嫌でも哀しき獣の牛骨撲殺シーンが思い起こされ、最終的には同一人物にしか見えないくらい、めちゃくちゃ怖かったです。

金回りがにっちもさっちもいかなくなって、安易に密航という犯罪に手を染めてしまう漁師たち、そして色んな経緯で密航してくる中国の朝鮮族たち。出てくる人みんな過酷な人生を送っていて、序盤からかなりヘビーなのに、物語が進むごとにますます悲惨な展開になり、サスペンスというよりもはやホラーでした。濃霧の中、船上で行われたこと。それがきっかけで、過酷な生活の中でもどうにか保っていた人間としての最低限の誇りとか秩序とか、それすらも失ってしまった彼らの行きつく先は一体どこなのか・・・。

人間の狂っていく様が、ものすごく上手に描かれた作品だと思います。正直、めちゃくちゃ鬱映画です。すでに絶望的な気持ちでエンディングを迎えたのに、最後の最後にこれでもか!と、地の底に突き落とされます。最後のシーンはある視点からは救いかもしれないけれど、私が感情移入していた人物からの視点としては、やっぱり絶望だと思うんですよね。

何を好き好んで鬱映画を観なきゃいけないんだって感じですが、それを上回るほどの何かがこの映画にはある気がするんです。気分爽快には全くなりませんが、ガチっとハマった人には濃厚な映画体験になると思います。

極私的好き度 ★★★★★★★★(8)

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